雑誌にクーポン付広告を掲載できるようになったのは、昭和62(1987)年10月からである。
前年4月に公正取引委員会(公取委)より、雑誌広告にクーポンをつけることができるよう検討されたいとの意向があり、
これを受けて日本雑誌協会(雑協)および雑誌公正取引協議会は日本雑誌広告協会とともに、その検討作業に入った。
雑誌の景品類提供に関する規約は、昭和58(1983)年3月認定の「雑誌行における景品類の提供の制限に関する公正競争規約」
および同「施行規則」であるが、これには"クーポン付広告"について何らふれられてはいなかった。
当時、検討を依頼されたのは、"値引きクーポン"のみであるが、実現までに約1年半かかっている。
このときの大方の雑誌関係者は、広告の活性化につながると、その導入を歓迎しており、雑協側はクーポン広告研究会を設け、
精力的に検討をかさね、施行規則の第8条を一部変更(1項目追加)し、掲載可能とする案を提出した。
当初は、すぐにも解禁されるはずであったが、公取委はもうひとつの活字媒体である新聞との調整・意見聴取等もあるとして、
実施時期は翌年にもちこされた。
また、上記の案(施行規則の変更)では、不公正な競争を助長するなど混乱が生じるおそれがあるのではと、
公取委から何らかの歯止め(内規)を設けるよう求めてきた。
さらに、実施時期の延期通告とともに、内規ではなく"運用基準"をとの要請に変わった。
これは施行規則を補完し、内規よりも制約の強いものである。
雑協側に少なからぬ抵抗感があったものの、その案文を作成したが、いくつかの点で公取委(指導課)と意見がくいちがった。
すなわち、雑誌の販売促進に利用してはならないとする中で、公取委は(1)割引率や割引金額を設定せよ、
(2)媒体社が特定の広告主と独占契約をした場合は顧客誘引性が強くなるから、そうならないよう規制を盛り込むべきである、
の2点を主張した。
これに対して、雑協側は(1)については率や金額の設定は、広告主の属する業界の商慣習の範囲内で行われるもので、
媒体が一律に決められないとし、(2)についても現実には起こりえないことだとしたため、いずれも運用基準から削除された。
この間、公取委の内部事情もいろいろあったようだが、ともかく解禁となった。
2か月後には女性誌に第1号が現われた。続いてヤング向けのテレビ情報誌にも掲載された。
数か月の間に3,4件が確認されたが、勢いはそこまでで、以後、今日まで十数件を数えるに過ぎない。
いずれもストアクーポン(客が店で支払いをするときに値引きを受ける)ばかりで、アメリカで主流のメーカークーポンはない。
いわゆるクリアリングハウス(回収・精算会社)が存在しないのだから、現状では無理なのである。
その後、公取委から"商品引換クーポン"広告についても、掲載できるようにと依頼検討がなされている。 一昨年夏に、また昨年夏以来からで、先の"値引きクーポン"と同じく、アメリカからの要請であるとのことであった。
公取委はアメリカとの対応策なのか、一昨年8月29日に、雑誌でも"商品引換クーポン"等の掲載ができる、と発表した。
いわく、品物を一個買えば、もう一個もらえるクーポン、品物を一個買った上に、もう一個をたとえば1円で買えるクーポン、
不当廉売に該当しない90%引き等のクーポン、その雑誌の購読料を値引くクーポン、などである。
雑協側としてはこれらについて検討はしたが、何ら回答をしないまま終わっていたところ、昨年夏、
ふたたび"商品引換クーポン"についての申し入れがあった。
申し入れは受けたものの、前述のように、数えるほどしか例がないのが現状である。
なぜか? 雑誌はほとんどが全国媒体であるが、あるメーカーの販売網と書店など雑誌の販売店が一致することは稀有に近いからである。
しかし、日本ではクーポンそのものになじみがない、というのが最大の理由ではないだろうか。 今は好景気であり、消費者はみな"中流"である。たいがいの商品は安売りされたり、サービスは日常的に行われており、 クーポンにありがたみを感じるところまで行っていない。
とはいえ、雑協での検討の"中間報告"をすれば、"商品引換クーポン"はただで品物が貰えるというものだから、 書店で雑誌からクーポン券だけ切り取られる、印刷・製本の段階や返品の際などの不正利用が考えられるとして、 やや慎重論が支配的である。
一方、新聞業界では、数年前からクーポン広告の導入について、熱心に討議されていると聞いていたが、
いよいよこの夏にも解禁とのことである。
どのように実施されるのか、しばらく状況を見ないと分からないが、何百万部の発行といえども、
新聞は地域版・県版などと小分けできる利点がある。おそらくさまざまなクーポン広告がにぎやかに紙面を飾ることだろう。
そこで初めて、クーポン広告が広告主や一般消費者に理解され、活用されるだろうし、 雑誌にも目を向けられるようになるのではないか。
(日本雑誌協会に在職中、「文化通信」第38回全広連(=全日本広告連盟)全国大会特集号(1990・5・14)に、執筆を求められて…)