似非エッセイ目次

似非エッセイ 2003年6月下旬号

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「必要なのは、大人への道徳教育」
 いま、小中学生の1人1人に「心のノート」が持たされているという。 昨年度、文部科学省が道徳教育の副読本として、全国の1200万人の子どもたちに配布したものである。
 愛国心の欠如を嘆き、教育基本法の改定を目論む議論から出てきたものらしく、 小学1・2年用、3・4年用、5・6年用の3種類に、中学生には1種類と段階を追って、毎日そのノートを見たり、 書き込んだりさせて、コントロール(洗脳)し、"純真な"子どもたちを、 国家にとって好ましい日本人に育てようというのだから、どこかの"ならず者国家"と変わりがない。
 わがHPは「心―こころ―橋本健午のページ」と称しているが、もちろん他人の心の中まで"侵略"しようなどと意図してはいない。 心は、"その人なりの在りよう"である。押し付ければ、反発するのが、まっとうな人間である。 他人がとやかくいう筋合のものではない。
 日の丸論争のとき、中央官庁でもどこでも、(大人たちが)国旗を掲げていなかったのは、 もともと"愛国心"などなかったからであろう。
 そんな大人を親に持つ子どもたちに、"愛国心"が育たないのは、当然の帰結であるが、 いままたわが身を忘れた、大人たちが"愛国心"を口にするのは笑止千万というほかない。
 これでは、お子様ランチ風に、好きな国旗や国歌を選ばせるほうが気が利いてはいないか。 まずは、大人が自らの反省から始めるべきである。それからでも遅くはない。

「ベッカムさまとジーコ・ジャパン」
 サッカー人気が少しずつ上昇しているそうだが、"タレント"ベッカムの来日と、 勝てない"自己チュウ"将軍ジーコが話題の中心とは、寂しい限りである。
 だれのファンになっても自由だが、ベッカムが来た日の成田やその他での大騒ぎは、何なのだろう。 やることは、キャーキャー騒ぐか、ケータイで写真をとろうとするものばかり。 しかし、そんなにありがたいのか、"出稼ぎ"タレントが!
 いつもながら、テレビをはじめ大勢の報道陣が詰め掛け、彼らも興奮気味に"ニュース"として報道するから、 よけい増幅するのだろう。おかげで"タマちゃん"はしばし、静かになったと喜んでいるかと思いきや、 エアガンなどで威嚇されているそうな。いずれにしても、マスコミ報道は常に功罪半ばではある。
 さて、フランスはサン・ドニで戦っている? 日本代表チーム。ジーコ・ジャパンになって1年、 フランスに負け、これまでの戦績は2勝3敗3引分、"サン・ドニ"1度も勝っていないということか(21日現在)。
 選手の自主性に任せるという方針は、ブラジル流かもしれないが、自殺する時も仲間を募るように、 団体行動を好み、組織で動くDNAをもつ日本人には難しいのではないか。
 引分でも"ベスト4に残る"はずだったが、1戦ごとに得点が減り、ついに無得点の敗退。 いよいよ、監督の責任論も出てくるのでは…(23日現在)。
 チームワークというか、管理に厳しかったトルシエ前監督を懐かしむ声は聞かないが、 かといっていつまでも"自己チュウ"に任せておくわけにも行くまい。
 そういえば、ピクシーこと元名古屋グランパスのストイコビッチの姿が、 ちらちらと見え隠れする"生中継"でもあった。

「備えあっても憂いあり?!」
 戦争が起きたときに、自衛隊が動きやすくするための有事法制が成立し、 これで安泰と思うのは"備えあれば憂いなし"とうそぶく小泉首相と、軍需産業と"仲のいい"一握りの人たちだけではないか。
 一方、多くの国民は、老後のためとか、いざという時のために、貯蓄に励んだり、生命保険をかけてきた。 それが、金利は限りなくゼロに近く、保険金も予定利率が引き下げられると脅かされるし、 年金も物価スライド制とかで目減りと、裏切られてばかり。 いまどき、"備えあれば憂いなし"なんていう首相や政府をだれが信ずるのだろうか。
 アメリカに「ショウ・ザ・フラッグ」といわれ(直訳し)て、日の丸を掲げたわが国の首脳陣である。 イラク問題に関し、「スタンドで見物ではなく、プレーしろ(後方支援はダメだ)」といわれたとしても、 どうして野球のユニホームに着替えなかったのだろう。一貫性がないなあ。
 ところで、日本の政治は、永田町ではなく、ワシントンで決まるそうだが、 そんな国に"愛国心"を持てというのも、無理じゃないかねえ。
 もっとも、多くの国民は無邪気に、USAのロゴ入り帽子をかぶったり、 星条旗をプリントしたシャツを着たりして喜んでいるぐらいだから、矛盾はないか。

「有事法制シミュレーション」
 住基ネットが稼動し始め、すでに個人情報保護法が成立し、さらに有事法制も成立した。 この有事法制は、一言でいえば、強大な権限が首相に独占・集中することにあるという。
 われわれ国民は、どのような状況に置かれるのか。"戦前"が教えてくれる…。
 「物資の収用」…昭和14年2月、政府、家庭や街頭の鉄製不急品回収を決定する。 郵便ポスト・ベンチ・街路灯・広告塔・灰皿・火鉢等15品目が対象に。
 「物価の安定」…14年4月、米穀配給統制法が公布され、同年10月、国家総動員法に基づき、 物価などを9月18日の価格に強制的に停止され(9・18ストップ令)、戦時インフレにより物価は騰貴し、 ヤミ価格とヤミ屋が発生した。
 「安否情報の提供」…14年8月、東京市で隣組回覧板10万枚を配布する。 月2回の「隣組回報」の発行も始まった。翌年9月、内務省、部落会・町内会・隣保班・市町村常会整備要綱を訓令。 部落会・町内会・隣組のそれぞれに常会の設置を決定した。
 さらに、日常生活は…15年6月、大都市で、米・みそ・醤油・塩・マッチ・砂糖・木炭など10品目の切符制が実施され、 11月には全国に広がる(マッチ1人1日5本、砂糖は1人月に約300g)。 7月には奢侈品等製造販売制限規則が公布され(7・7禁令)、絹織物・指輪・ネクタイなどが製造禁止となる。 (ゼイタクは敵だ!)
 「金融の安定」…16年6月、国民貯蓄組合法が施行され、貯蓄奨励を法制化、 国民の経済的負担が増大することになった。
 16年12月8日、日本陸軍、マレー半島に上陸開始(太平洋戦争始まる)。
 「電波の利用」…同年12月、日米開戦により新聞・ラジオの天気予報・気象報道を中止。 とうぜん娯楽番組も自粛である。家の中は灯火管制で、黒く塗った電球がぶら下がる。
 「警報の発令、放送」…"大本営発表"は、日本軍の「敗退」を「転進」などとウソの発表をし、 新聞・ラジオはそのまま報道するのだった。(報道管制)
 「土地の利用」…19年1月、内務省、東京・名古屋に改正防空法による初の建物疎開を命令し、 3月までに東京15か所、名古屋8か所の指定区域内の建造物が強制的に取り壊された。 同年9月、東部軍は後楽園球場全部を接収し、高射砲陣地となった。
 「避難の指示、誘導」…19年8月、学童集団疎開第1陣198人が上野を出発。

 いや、何といっても大本は、国民経済や生活を官僚統制下に置き、 統制する権限を政府に委任することを規定した昭和13年4月1日公布、同5月5日施行の「国家総動員法」である。
 そして、20年8月、敗戦。アメリカを主軸とする連合国軍に占領される、 というのが数十年前の日本の姿であった。さあ、平和ぼけニッポンの同士諸君、どうする?

(以上、2003・6・25までの執筆)


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