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「ミニ自分史」(6)「田無学生寮」その2

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(旧稿・詩らしきもの3題)

  百面相の女(1962/10/13,14 20歳4か月)

百面相をやる女/酔いどれはいつものことながら/額に汗して終電に追いすがる/されど女の性(さが)は /いささかの疲れも見せず/ドアのガラスに/化物のお面をさらし/その目の行く手は執拗に/並いる男をなでまわす

やがてこれぞと思った男を前に/あからさまなる身振りでもって/射落とさんものとあがきを始める /休む暇なく/ガラスを見てはお面をなぶり/男の視線を感ずれば/身をくねらせて獣欲をかりたてる

だが天なる神はそれほどバカではござらんかった/押さえがたい欲望の男は/永年の連れ合いの監視の下 /さすが名うて女も女にや勝てぬ

勝てぬと知るや―だが女はそれでもあきらめぬ/近くに来た金も持たぬ若い男に /やる方なく薄衣(うすぎぬ)の背をもたせかける/哀れなるかな 女の性(さが)よ

  しらかべ―白い壁のこと(1962/10/30,31 20歳4か月)

一夜のうちに/七十いくつの裸の/似たりよったりの肉体を/どん欲になめつくし すでに 何千何百もの /黄色い肉のかたまりを/飽かずながめて来た/白い壁

直(じか)に踏みつけられるのを/喜ぶかのように/キュッキュと奇声を発し

ぬるま湯の その下の/青白いタイルの底は/これまた冷たく/裸体をあおぎ見る

水は垢や汚辱や/人間の醜悪なもの一切を/ぬぐい去るかのように/気前よく流れ去る

そして人が安堵の胸を/なでおろすとき/冷えきった湯は/人間の恥のかたまりを /そこここに浮べている やがて終りに近づくと/さすがにやつれはてた額には/でっかい水泡そうのような脂汗 /ぽたぽた落ちては/人をふるえ上がらせる やつれた顔は見る影もなく/眼ははれぼったく /開けていることさえ困難だ 間に挟まれた/お目出たき人間どもは/罪なくはしゃぎまわって /鏡にうつる自らの肉体に/うっとりとする

だが/不気味な白壁の/あくことない表情は/何一つ見逃すものの/ないことを物語っている

  夜富士(1963/1/27 20歳9か月)

ある月が煌々と照り 満天が無数の/星くずで覆われていた夜

雑踏と喧騒の都心から逃れて

清々(すがすが)しい夜気と静かな田舎道を/ひとり帰路についていたとき

寄宿寮の左上方 はるかに遠く/薄ぼんやりとした山を見た

歩くたびに不安げなその姿は/やがて私の中で変ぼうする

白銀の衣装を身にまとい/月の光をからだいっぱいに浴びて/きらびやかに/さながら舞踏会の花のよう

取りまき連中はその存在も忘れられ/彼女は誇らしげに立ちまわる/あふれる微笑は惜しげもなくふりまかれ

そのきゃしゃな手に持つ水差しからは/美酒が止めどもなくしたたり落ちる……


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