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〔寄稿〕作家とその時代研究の一助になれば/「梶山季之と月刊『噂』」を上梓

橋本健午(ノンフィクション作家)「文化通信」(第3699号)2007・06・04発行

 この5月11日、京都の松籟社から梶山季之資料室編「梶山季之と月刊『噂』」が上梓された。 71年7月から32号、流行作家だった梶山季之(75年没、享年45歳)の"責任編集"と謳った雑誌である。
 創刊のきっかけは当時、近代文学館館長だった作家・伊藤整氏との"約束"「作家ごとに担当編集者による座談会速記録を残す」ことなどによる。 玄人受けする雑誌であったが、部数は低迷し赤字もふくらみ、73年秋のオイルショックも重なり休刊に到った。
 本書では、全号の表紙と目次、広告も載せた。随筆や"知られざる作家"特集、出版論など企画ごとに高橋呉郎元編集長が解説を施している。 復刻版として創刊号(全ページ)や対談などの企画も掲載した。

 梶山の助手だった私は、発刊とその反響、流通の問題、梶山の目指した支部作りなどを検証した。 また、美那江夫人を中心に編集部以外の我々裏方の仕事、経理や発送作業などの状況を数字で報告した。
 本書が、作家やその時代の研究などの一助となれば幸いである。
 ところで、私は02年3月、梶山夫人に、没後30年(05年5月)を機に、何か企画を考えられませんかと"梶山復活"の願いを込めて訴えると、 三十三回忌(今年)にはと考えているけれど、とのこと。そこで04年5月、私は夫人の協力を得て、電子版「梶山季之資料館」を立ち上げた (ハワイ大学図書館「梶山文庫」ともリンク)。

 さて、05年からの動きを見よう。1月『赤いダイヤ』上下巻、2月『見切り千両』がパンローリングから刊行され、 7月、祥伝社文庫より時代小説傑作集『辻斬り秘帖』、10月、松籟社から『黒の試走車』が出た。 同年秋、米コロンビア大学による『近代日本文学』(英文)に朝鮮ものの「族譜」が収録される。
 06年秋、青年劇場により「族譜」が紀伊國屋サザンシアターなどで公演され、今秋の再演も決まる。
 今年1月、城西国際大学でシンポジウム「国境を越えた文学、アジアを結ぶ映画」で梶山作品が取り上げられ、 2月、大佛次郎記念館で講演「梶山季之の横浜と朝鮮」(内海孝・東外大教授)がつづいた。

 5月20日、広島で「時代を先取りした作家 梶山季之をいま見直す」をテーマに講演会とシンポジウムが行われた。 作家仲間の藤本義一氏が「梶山先輩と私」と題して講演、シンポでは梶山と生まれ故郷朝鮮・原爆・移民・月刊「噂」を取り上げ、 私は朝鮮と梶山について報告した。
 つづいて同地で6月1日より、文学資料展「梶山季之の仕事と作品」が20日まで開催される。
 さらに7月から、岩波現代文庫で『黒の試走車』、「李朝残影」「族譜」など朝鮮もの、ルポルタージュなどジャンルの違った3点が刊行される予定。
 これら企画は、梶山を直接知らない若い人たちの提案によるものが多いと聞く。"30年"という歳月は決して無為にすぎたわけではなかった。


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