『心-こころ- 橋本健午のページ』「梶山季之」

伊豆の山荘、そして酒
伊豆の朝／伊豆の昼／伊豆の夜／ウイスキー／ワイン／"二杯目のハイボールから"

マジメ人間
態度で示す／見抜く／バカだなあ／マジメ人間／電話ノート／ＡＢＣ／無理難題／濡れ衣？

"困ったときの梶頼み"
スーパーマン／"困ったときの梶頼み"／"創刊号男"／絵組み／タイトル考／映画『族譜』／梶山コレクション／年譜作り／延ばし延ばし

教師と作り話
作り話／モデルと小説／三億円事件／徹底してやれ！／木の芽どき／レスビアン／ホモ／編集者も苦労する／本質は教師／劇画化

仕事を離れて
女はメン類！／どちらさまですか／連想ゲーム／ペット／ブルーフィルム／テレビの功罪

「エロ」と「ポルノ」
一日税務署長／失いたくなかった"特権"／駄洒落／「大衆文学」とは／「エロ」と「ポルノ」／篋底記／五月十一日／前科一犯／呼び出し

筋を通す、手を貸す
"銀座の決闘"／放っておけ！／放っておけない性分／友人、そして会合／マスコミ塾／月刊『噂』の発行／あげまん？／幻の季刊『噂』

死の予感
婚と葬と／花は語らず／生年月日／予感／負け犬？／ライフワーク／悔やまれる／そして、最後の旅立ち

略年譜
あとがき
　　　　　（四六判上製／280ページ／1800円＋税／日本経済評論社／1997年7月刊）

　上記の書が発行された翌8月、私は夕刊フジの著者インタビューを受けることになった（三保谷浩輝記者、平成9年9月17日号に写真付で掲載）。以下に再録する。

　　　【なお、本書に関する書評･感想は「梶山季之に関する著作等」を参照】

　一九七五（昭和五十）年五月、大衆小説を数多く書いた梶山季之が香港で急死した。四十五歳の若さであった。『李朝残影』『雲か山か―若き日の頼山陽―』など純文学から出発したが、トップ屋として「週刊文春」誌上でスクープをものしたり、やがて『黒の試走車』『赤いダイヤ』などの企業小説で流行作家となる。

　本来書きたい大河小説（『積乱雲』）のために、長年にわたり資料を買い集め、取材を重ねていたが、各社の要望に応えて中間小説雑誌に次々と軟文学を書き続け、"ポルノ作家"などとレッテルを貼られたまま、志半ばの突然の死であった。

　二十三回忌を迎えた今年、助手として約八年半、その側にいた私の『回想の梶山季之』（仮題、本体1600円）が当社から上梓されることになった。

　生前、多くの出版社に奉仕した梶山だが、量的に売れないとなると絶版にしてしまう、そのような資本の論理がまかり通っている中にあって、これは冒険であるが慧眼でもある。梶山は、いま見直すべき作家である。

　"ポルノ作家"を自ら否定することもなかったが、ドキュメントでは本当のことを書けないから、小説に託して、これは嘘ですよ、といいながら､ほんとのことを書いているといい、また（政財界人は）悪を書かれた腹いせに"ポルノ小説"を攻撃材料にする、つまり別件でお灸をすえられることが何度もあった（「大森実の直撃インタビュー『噂』の仕掛け人・梶山季之の機密情報」『週刊現代』昭和四十八年六月七日号）。

　そのポルノだが、人にはさまざまな嗜好があることを伝え、人に聞けない性についての情報を盛り込むのはなぜか。「読者はカタイものを書くと退屈してしまう。お色気をちょっと入れて、"読ませる"ということを、週刊誌の特集記事を書いていた時代に痛感したからだ」と述懐している（「エロはサシミのツマ」『二〇世紀』昭和四十四年七月号）。
　本書は梶山自身の言葉、多くの方の証言をもとに綴ったドキュメントである。

　　　（日本経済評論社PR誌「評論」101号・1997年6月所収）
　　　掲載時の肩書：「フリー編集者･ライター」》

「その後の読者から」

（2003年7月23日　追加）

【2000年7月12日、拙著『梶山季之』に関して、版元の日本経済評論社よりつぎのような読書カードが転送されてきた。長野市の会社員からで、

「昨年９月に放送された『驚きものの木20世紀「流行作家梶山季之　無念の死」』を見て、梶山という作家を発見しました。橋本さんの本で梶山季之のリンカクはわかりました。それにしても梶山氏の本は手に入りませんでした。『李朝残影』は絶版。季節社の『積乱雲　梶山季之　その軌跡と周辺』も絶版。長野周辺の図書館にもなく、飯田市の図書館から借りました。ですから橋本健午さんの『梶山季之』は貴重です」。

　担当のＴ氏は「こういう読者もいるのですね。ありがたいことです」と書き添えてきた。文面から想像するに、若い読者からのようで、まことに、ありがたいことだと私も率直にうれしく思った次第である。翌13日記す、橋本健午】