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参考・引用文献一覧表

『有害図書と青少年問題』 ―大人のオモチャだった"青少年" ―

橋本健午(明石書店/2002・11・25刊/四六判/並製/480頁/2800円+税)


 公序良俗の美名に隠れた大人社会のご都合主義が子供たちを翻弄する!!  出版物をスケープゴートに、根拠なく少年非行を「有害図書」に結び付けてきた戦後社会を検証し、 真の責任の所在を明示化する。(刊行案内のチラシより)

 ここに、その目次と「はじめに」「おわりに」を掲載し、また"関連年表"と 新規「〔資料〕戦後の"悪書・有害図書"について」を付し、 青少年問題・出版倫理等の研究者はじめ関係者の参考に供するものである。

はじめに―大人のオモチャだった"青少年"

 青少年が心身ともに健全に育つ、それは誰しも望むところであろう。 しかし、非行など、子どもたちがさまざまな話題を提供するのは、いつの時代も大人社会の投影である。 問題なのは、取締当局や為政者がその時どきの少年非行の原因を何に求めてきたかである。
 カストリ雑誌にはじまり書籍や週刊誌・少女誌・コミック本など出版物は時にワイセツ文書、 あるいは悪書、不良文化財、有害図書とさまざまなレッテルを貼られてきた。 指摘されても止むを得ない場合もあったが、本当に"青少年に有害"であったのだろうか。
 また、国や地方の行政機関、政治家、各種の民間団体など、いつも大人たちは子どもの行動が気になる、 いや干渉しすぎだったのではないか。
 絵本作家の五味太郎はいう。「選定図書とか指定図書とか、あるいは課題図書なんて辛気くさいものが、 子どもをとりまく書籍文化の中にたくさんあります。教科書は検定図書です。有害図書という視点もあります。 子どもたちのためによい本を、あるいは害のない本をということなのでしょうが、 それは大きなおせっかいというものです。いつどこでどんな本に出会うかというスリリングさが本の命ですし、 それが有益か無益か、有害か無害かは、まさに読書そのもののお楽しみなのです。 そこのところをまったく知らない大人、つまりあまり本が好きでない大人が子どもの本の世界をめちゃくちゃにします」 (『大人 の/は/が 問題』講談社・一九九六)。

『有害図書と青少年問題』表紙  有害図書に関し最初に青少年条例を設けたのは岡山県で、昭和二五(一九五〇)年のことであるが、 本稿は戦後における"次代を担わされた"青少年の非行の現実と、 出版物を中心とした"有害環境"との関連について検証を試みたものである。
 それは、大人たちが常に"主人公"子どもたちをないがしろにし、 "オモチャ"として弄んできた歴史のあぶり出し作業でもあった。 つまり、いつの時代も大人たちが勝手に決めつけた"かくあるべし"という子ども観に固執する、 自信のない"先送り民族"日本人の姿でもある。

〈目次〉

第一章 戦後も検閲を受けた言論界、そして子どもたちは……

1 戦時中、今では想像もできない言論統制が
2 占領下――混乱と解放のはざまで、子どもたちは至って元気
3 出版界の再編成――離合集散と倫理問題
4 まずヤリ玉にあがった映画、青少年対策は着々と
5 警察に痛めつけられる地方書店
6 ワイセツ文書と"有害図書"の違い
7 不良といわれても、文化財だった出版物や映画

第二章 昭和三〇年、燃え盛る悪書追放運動

1 追放運動が起こるのはどんな年だったか
2 新聞に見る悪書追放のキャンペーン
3 子ども中心か、大人のお節介か――正反対の見方や意見
4 東京都も考えていた青少年条例
5 この"運動"は何だったのか?「競輪は健全」という母の会会長
6 特別立法は見送られたが……、中青協のハラのうち
7 マスコミ攻勢に防波堤? 「マスコミ倫理懇談会」の設置

第三章 太陽族映画、そして不良週刊誌問題

1 「映画化するなんて、けしからん!」、大人たちはやはり保守的
2 子どもを可愛がらない日本の青少年行政
3 "青少年犯罪の激増、凶悪化"に疑問を呈する家裁判事
4 青少年問題と「マス倫」の役割
5 週刊誌ブームは"不良週刊誌"問題を生む
6 子ども向け「図書選定」をめぐる文部省との攻防

第四章 不良図書追放と「出倫協」の結成

1 安保騒動と、刃もの問題でマスコミは大童
2 子どもはさめた目で大人を見ている
3 身内から起こった不良図書の追放運動
4 ついに東京都青少年条例が成立

第五章 官民結集による青少年育成国民会議の発足

1 出倫協、「自主規制の申し合わせ」を設ける
2 中青協を中心に準備は着々と進められていた
3 古本屋、貸本屋も条例の規制対象に
4 ハレンチや残酷ものの流行、出版物と非行の関係
5 「用紙不足」による出版の危機と、売上げの増加
6 ワイセツも盛んだった五〇年代はじめ
7 子どもに甘い親たち
8 未制定の誇り――長野県、そして大阪府条例改正の動き

第六章 少女誌の性表現に腰を抜かした? 大人たちの攻防

1 自民党、「図書販売規制法案」を検討
2 少年非行、戦後第三のピーク
3 世の中、成熟したのか、テレビも雑誌もにぎわしく
4 淫行、コンビニ問題、投稿写真でかせぐ少年たち
5 昭和から平成へ、残虐ビデオに隠れた出版物?

第七章 "少年少女向けポルノ"コミック本騒動

1 発端は宗教団体のキャンペーン
2 いつも後手に回る出版界の対応
3 条例強化を促進した自民党幹部
4 危機感を抱いたマンガ家たち

第八章 「子どもの権利条約」批准を渋った日本政府

1 批准が一五八番目という意識の低さはどこから来る?
2 ヘアヌードと青少年の実態
3 自主規制「成年向け雑誌」マークの"成果"
4 社会環境・メディアと青少年――世紀末に宿題も
5 ポケモン騒動、バタフライナイフ……テレビは刺激が強すぎる

第九章 感情論を理論で補強する法律の専門家

1 規制強化でますます窮屈な日本に
2 再び"マニュアル本"の是非が問われる
3 いまやコンビニも"有害環境"である
4 青少年"有害"社会環境対策基本法案をめぐって
5 出版界・出版物の特性がウラ目に
6 アウトサイダーは存在するか
7 「パターナリズム」は子どもを支配する大人の"方便"
付/「戦後の出版倫理」関連略年表

おわりに

 本書は、出版倫理に関する戦後の規制と出版界の対応について、「青少年にとって本当に"悪書"があるのか」 「少年非行と出版物の因果関係はあるのか」「規制する側の論理と運動は純粋か」などの観点から、 その変遷をたどるのを目的とした。
 いくつもの証言や"専門"学者の告白にもあるように、"悪書"や"有害図書"と少年非行の発生には明確な因果関係がない。 にもかかわらず、行政や住民、警察、それに新聞報道等によって、常に悪玉にされるのが出版物で、 それはこれからも変わらないであろう。
 ところで、メディア関係者によると、倫理問題など、困った時に講師として呼ばれる学者のなかには、 不安をあおって、次にまたお座敷がかかるような人物が何人もいるという。 それを利用してこと足れりとする新聞、テレビをはじめメディア側の対応も問われるべきである。
 倫理は"現場"である。その点、講談社で『週刊現代』編集長など、 長年編集畑を歩いてきた三代目議長の手腕に期待がかかるのは当然であろう。
 歴史に学ぶとは、過去を振り返り、再び同じ轍を踏まないことにある。 そして、戦後ずっと続く"青少年"(だけではない)の凶悪な犯罪や非行が、 何に由来するのか日本人は改めて認識し、自らの足元を見つめなおすことである。

二〇〇二年十月          橋本 健午


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