『心-こころ- 橋本健午のページ』出版倫理・青少年問題

「『始めに規制ありき』か？／不健全図書『包装義務化』条例に異議／インターネットは放置　出版規制は弱いものいじめ？」

新文化2004･2･12号

　近く、東京都は"有害図書"問題に関し、一部の図書類を"包装"して売るようになどと青少年健全育成条例の改正を行う。その前、昨秋には東京都と神奈川、千葉、埼玉の3県の知事および4市長による首都圏サミットでも、 300万人の市民を"代表"する中田宏横浜市長は、とくにコンビニでの区分陳列を求め、条例化する考えを示した。
　同市長は表現の自由を尊重し、作る・売ることには口を挟まないというが、何をもって"有害図書"とみなすかの見解もなく、また、それらの出版物が青少年の手に渡っているかどうかの実態調査もなかった。やはり"始めに規制ありき"かつ"排除の論理"が垣間見える。それは、このたびの都条例改正についてもいえる。
　1月19日に出た第25期東京都青少年問題協議会（都青少協）の答申は、昨年10月の竹花豊副知事あて緊急提言「子どもを犯罪に巻き込まないための方策」や、平成12年に始まる石原慎太郎都知事主導の「心の東京革命」と、三位一体をなすものといえる。

根拠のない言辞

　いま、それぞれに言及するいとまはないが、答申はまず、「昨今、大人自らの生き方を反映した子どもを取り巻く環境は…、子ども自身の自覚や規範意識とその具体的現われである行動はどのように変化してきているであろうか。大部分の都民は、『現実は、憂慮に堪えないものがあり、危機的状況にある』という認識を共有していると考えられる」と、きわめて根拠のない言辞を弄する。
　そして、インターネットの情報こそ青少年に多大な影響を与えると全委員の意見が一致したが、「それを規制することが極めて困難であり、現在、議論を重ねても短期間で実効性のある方法を見出すことが困難である点でも、大方の意見が一致した」と"困難"を2度も強調して、正直である。
　ところが、「インターネットに比べて図書の持つ影響は小さいという認識から、図書だけの規制を検討しても無意味であるという意見もあったが、不健全な図書の持つ影響を無視して良いとまでは言えないこと、また、できる所から一歩ずつ着実に対応を進めるべき」と、 "不健全図書類"への対応を正当化するのは強引である。
　「不健全図書とは何か、有害情報と犯罪に因果関係があるかなどの視点からの議論もなされ」、「委員の間の意見の一致は見なかった」たものの、「行政を預かる都知事からの現条例の改正に関する諮問を受けての審議」による結論だから、現実無視でもよいのか。
　やはり"始めに規制ありき"の印象で、たびたび規制強化が盛り込まれる都条例だが、昨今は規制反対の意思表示もしない出版側の"協力"も大きいようだ。

「実効性疑問」と包括指定先送り

　答申によると、不健全図書として、これまで採用してきた1誌ずつ個別に指定する方式は実効性が低いため、性表現がそれぞれの雑誌で一定の分量（ページ数）を超えた場合に指定される、包括指定方式の採用も検討したという。
　結論として、出倫協はじめ大方が、この方式も実効性に疑問が多いとしたため、先送りされ、その代わり、書店でもコンビ二でも「区分陳列の強化を求める」となり、具体的には個別指定誌はもちろん、成人向け雑誌も包装しろということになるのだそうだ。
　これなど、イラクは大量破壊兵器を持っているからと、根拠もなく戦争を始めたブッシュ大統領とは正反対で、相手（インターネット）は悪だが、捕らえにくいから放っておこう、しかし何もしないでは面子が立たないから、弱いやつ（出版物）をやっつけよう、というところであろうか。
　この「包括」は、なぜ効果がないというのだろうか。有害図書の指定件数（全国）の推移を見ると、平成元年から7年までは2万2千件が最高で、以後6、8，9年と1万件台に下がり、10～12年は8千件から6千件台に、 13年には2617件と大幅に減少している。ほとんどの自治体が採用している包括指定の"お蔭"であろう。

大きい"出版側の協力"　万引問題で借り？

　ついで、出版側の"協力"について触れよう。条例強化で直接影響を受けるのは書店などだが、一つは万引問題で、東京都書店商業組合が就任早々の竹花副知事に陳情したり都議会に条例改正を要望した結果、警察と一体となり厳罰主義で臨むこととなった。しかし、それを喜ぶのは早計で、一つ借りを作ってしまったようだ。
　このたびの改正では、東京組合は都の言うことを聞かないわけにはいかず、ビニール包装をというのだろうが、隠せばよいというものでもない。ビニールがけに余計な費用がかかるだけでなく、送品にも時間がかかり、また返品後の処理も大きな環境問題になりかねないという。それこそ、本来の意味での"有害"事態を招きかねない。
　書店などは前回（01年）の改正後、5段階の"対応策"をどこまでやったのか？　また、商品を売りたいのか売りたくないのか？　売りたくないのであれば、行政におもねり、"有害図書"の包装を求める前に、送品を断ればよいではないか。
　もう一つは出倫協関係者が都青少協専門部会で、「包括制度は実効性が上がっていないから、導入に反対」したらしいことだ。事実とすれば、包括指定の解釈を読み違えたのか、あるいは何か秘策のある"高等戦術"だったのかもしれないが。
　これは"指定"とあるからややこしいので、"規定"と読むべきところである。すなわち、書店等に図書類が並べられた段階で、青少年に売ったりした場合に、罰金の対象になるものがあるかもしれないという意味で、書店員は相手を見て売ればよいだけのこと、なに一つ"指定"されてはいないのである。つまり、出倫協としては、困った顔を装いながら、しぶしぶ導入に"賛成"すればよかったのである。
　包括一本にすれば、担当の職員もいらず、雑誌等を購入する費用もかからず、健全育成審議会（20名）の"お車代"やコーヒー代もいらず、職員４千人のリストラと財政再建に取り組む、石原都政に貢献すること大であったろうに。

現実を直視し再検討を！

　いずれにしても、当事者の青少年を"人質"に、行政や「大部分の都民」だけでなく、出版業界も現実を直視しない、見事な三位一体！　何の解決にもならないのは、歴史の教えるところである。関係各位どの、再検討はいまからでも遅くはない！
　ついでに、もう一つの、青少年の深夜外出"禁止"に関していえば、すぐに実行でき、しかも効果的な方策は、現代の"誘蛾灯"コンビニの24時間営業を禁止することに尽きる。そうすれば、強盗被害を防ぎ、かつ警官の出動も回避できるではないか。
　最後に、この答申で一つだけ評価できる表現があった。それは「（答申は）大人と子どもの世界の区分け（ゾーニング）という視点を特に重視」したというくだりで、 "排除の論理"で出版物に、「イコール有害」の識別マーク付けを勧告する、出倫協の別組織「ゾーニング委員会」が、いかに的外れであるかを証明したことである。

（タイトル原案「"包括"でなぜ悪い　読み違えた？　出倫協の対応」新文化2004･2･12号所収）

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根拠のない言辞

「実効性疑問」と包括指定先送り

大きい"出版側の協力" 万引問題で借り？

現実を直視し再検討を！

大きい"出版側の協力"　万引問題で借り？