『心-こころ- 橋本健午のページ』出版倫理・青少年問題

【座談会】青少年法案をどう見るか

（『法律時報』８月号特集　青少年保護とメディア―青少年法案とその周辺）

《2004年３月1日付で、日本評論社より私に下記企画のうち、座談会への参加依頼状が届きました。予定者は法律の専門家である大学教授３名に、民放関係者（実際には放送メディア倫理の専門家が出席）、そして"出版研究者"とされる私の５名となっています。おそらく明石書店より02年11月に上梓された拙著『有害図書と青少年問題―大人のオモチャだった"青少年"―』が評価されたからでしょう。私に異存はありません。座談会は04年５月20日に実施されました（８月号の発売は７月27日）。19ページに及ぶうち、私の発言部分を中心に再録します。話の前後関係や用語については他の出席者の迷惑にならない範囲で補足しました。本件に関する趣旨等（目次）は日本評論社のＨＰ（『法律時報』）で見ることができます。2006･4･25橋本健午》

『法律時報』８月号特集　青少年保護とメディア―青少年法案とその周辺(仮)

1.企画の趣旨
　現在、「青少年保護」をその理由とするメディア・表現規制の動きが進んでいる。すなわち、2003年７月に、自民党が「青少年有害社会環境対策２法案」の骨子（案）を発表したのに続いて、同年10月には、首都圏４知事会談において"青少年条例の共通化"が合意され、さらに2004年１月には、東京都が、「不健全図書（有害図書）」のビニールパックと自販機年齢識別装置を義務づける条例改正答申を発表したのである。
　また、2004年１月13日に東京地裁が下した、成人向けマンガ『蜜室』のわいせつ性を認定する判決に対しては、青少年のコミックを「読む自由」に多大な影響を及ぼす可能性があることが指摘されている。
　この企画は、こうした状況を踏まえ、さらには、数年前の『完全自殺マニュアル』をめぐる規制騒動や、同じく数年前のＴＶドラマ「ギフト」における暴力描写をめぐる議論なども遠望しつつ、「青少年保護」を理由とするメディア・表現規制のあるべき姿を考え、自民党や東京都が主導する「青少年有害社会環境対策」の本質と問題性を探求しようとするものである。

2.構成案　座談会青少年法案をどう見るか（出席者５名）／他に、論文など７件（執筆者10名）

一　はじめに

　冒頭、司会者による趣旨説明の後、３番目に発言を求められた。
＊　橋本さんは最近のご著書『有害図書と青少年問題』（明石書店）で、メディア・出版をウォッチしてこられた立場から、戦後ずっと繰り返されてきた、あるいは継続してきた国とメディアとの間の青少年をめぐる綱引きについて、非常に細かく分析され、また厳しく批判されています。
橋本　99年７月に青少年問題審議会が「『戦後を超えて』青少年の自立と大人社会の責任」という答申を出しました。私は法律等の専門家ではないのですが、今回の自民党案や青少年育成国民会議案もその流れをくむものだろうと思います。遡って86年にも青少年問題審議会が「二一世紀に向けての青少年の健全育成の在り方」について意見具申をしています。それについてきちんとフォローしてはおりませんが、国がこういうことを戦後何回かやってきたということが一つ言えるわけです。
　青少年にどうあってほしいのかという意味では、内容はさておき基本になる法律があってもいいとは思います。しかし、青少年、青少年と皆さん、私も含めて口にしているわけですが、青少年って一体何歳から何歳を指すのでしょうか。例えばこの「戦後を超えて」も年齢は特に決めていません。条例等では18歳未満です。 03年12月に青少年育成推進本部が発表した「青少年育成施策大綱」では30歳未満と規定していますが、03年７月の自民党骨子案では18歳未満でした。青少年という言葉一つとっても、大きく言って二つの年齢差があるということは、少し注意する必要があると思います。
　18歳はともかく、もともとの大綱にあった30歳といえば、もう十分に大人ですよね。青年と少年といえば確かに青少年なのでしょうが、ちょっと範囲が広すぎる、そんなにまでして面倒を見なければいけないのかということです。「次代を担う青少年」というのは枕詞的にしょっちゅう使われるのですが、これは真っ赤なうそで、要するに30歳でも大人にならなくてもよいというメッセージだったのではないでしょうか。
　こうあってほしいという日本人像をつくりたいからこういう法律を作るのでしょうが、要するに国のやり方に逆らわない、自分で考えて行動しない、大人ではない人間をつくろうとしているのではないかというのが私の解釈です。
　もう一つ、確かにメディアからすれば自分たちの表現の自由が侵されるし商売が成り立ちません。
　さらに、日本の社会を見ると、ご存じのように国の組織、地方自治体の組織、民間の組織も全部ピラミッド型です。すると本当にＩＴ時代になって、東京から全国に命令すれば、メールなり携帯なりでまず一時間で末端まで行くのではないかというぐらい、情報網が確立している。
　ちょっと話がずれるようですが、たまたま去年１年間、子どもの関係で、ある都立高校のＰＴＡの副会長をやった経験から言いますと、二百いくつある都立高校の「会長会」が、それはもう見事に機能するのです。全国大会なども、本当に想像を絶するほど統率がとれている。青少年育成国民会議にも県民会議があって市町村民会議があります。すべてこうですから、実際に法律をつくれば、運用も非常に日本人的・盲目的になるのではないかと、個人的には危倶するところです。

二　曖昧な定義と親の「見せたくない権利」？

〔具体的に、青少年を取り巻く有害社会環境とは何か？　また、青少年にとっての有害な社会環境と表現物との関係は？　そして、何をもって有害と定義するのか？　親の判断に代って、法律があるのか？　〕
橋本　要するに青少年のために、子どものためにと言いながら、いまお話になったように親・大人が嫌なものは嫌だということですよね。子どもの意見なんて誰も聞いていないんです。だから嫌なものは嫌、悪いものは悪いというだけで、何がどう悪いのかなど全然議論されないわけです。大人が決める「子どもにとってこうあるべき」を目指しているのです。

〔大人の自主的な判断が必要…　〕
橋本　私が申したいのはまさにそこでして、つまりリテラシーの問題ではないか。あるいはいまおっしゃったように、まず親が何をやるべきかという問題だと思います。そこを放っておいて、モノが悪いと言うのは簡単だし、実際親にとってかなりのモノが悪いかも分かりません。でも見たいというものを見せないとか、あるいはまだ早いよといったことは親がまず言うべきであって、それが親の大きな仕事だとこの問題に関しては思うわけです。確かに、社会の変化は非常に激しいです。しかし、どんなに社会環境が変わったって親がすべきことはあるだろうと思うのです。

〔一律に何が有害化を決めるのは難しい…　アウトサイダー問題とメディア自体の自主規制は？　〕
橋本　出版物、主として雑誌の観点から言いますと、前回の自民党の規制法案は、国は実行できないと結論付けました。というのは、青少年育成国民会議にその話を持っていったところ、いまありましたように何が有害であるかは決められないということが一つ。それから大変な人と金が要ることが一つ。毎年10億円必要と聞いたことがあります。しかし、とてもそんな金は出ない、と。つまり、国は監督権を持っていますが実際は協会をつくって末端でやれということでしょう。一つだけ嫌らしく言えば、協会をつくれば役人の天下り先も増えるわけです。

三　包括規定

〔有害と指定すること…　各自治体は個別指定から包括指定へと条例を改正している。一括でやれば楽だからか？　〕
橋本　総務庁（いまの内閣府）による「青少年保護育成条例による有害指定件数の推移」という統計に、 89年から2001年までのデータがあります。雑誌については89年は20,958件、92年には22,608、94年が１万８干台で、 95年にまた２万を超えるのですが、どんどん減り１万台になりまして、98年8,764、99年7,953、00年6,667、01年2,617というように十数年で一割ぐらいに減りました。その理由は包括指定を適用しているからとしか読めません。この状況を見ると、横並びの包括規定による規制になる可能性は、やはり高いと言わざるを得ない。
　ただ、包括規定対象のものは売ってはいけないのではなくて、「青少年に」売ってはいけないもの（"有害情報"）があるかもしれない。それをたまたま、ある18歳未満の少年に売ったときに処罰されるだけです。極論すれば、書店としては毎日届く出版物をいちいち精査しなくていいということです。

〔"包括指定"は、店頭販売よりも、自販機収納物に絡むのでは？　〕
橋本　自販機はまたシステムが違うので分かりにくいのですが、それなりに努力はしているようです。ただ、以前、自販機収納が問題になったときにキリスト教系の出版社が、自社のものを売る自販機を置いていたという例もあるのです。要するに自販機といってもいろいろあって、昔とは違っている。一般的には各県でいろいろ問題になったので、現実には減ったり増えたりして、なくなってはいないようです。

四　コンビニ規制

橋本　いまのお話にありました、コンビニとか書店の流通をまず押さえておいた方がいいですね。各出版社が、大手の取次会社を中心に、書店やコンビニに配本しています。読者からするとどこで買おうが同じものですが、コンビニは書店ではありません。雑誌はコンビニにとってはアイテム（品物）の一つに過ぎないのです。ですから流通は同じようにやっていても、扱う側の考え方は、全く違うのです。コンビニは3,000アイテムが限度なので、売れるものしか置きません。
　そしてコンビニというのは本部が全部受けて各お店に配るわけですから、水道の蛇口をひねればゼロか全部出るかという簡単な構造なのです。さらに、返品自由という特性があって、汚れようが何しようが売れなければ返せばいい。しかも大手四つぐらいコンビニがありますが、まず間違いなく警察から天下っています。ですから、上が止めると言うか、市民に反発を受けるものは返してしまえと言うと、扱う店がどんどん減っていくのが現実だと思います。一部の雑誌に限って言えば書店よりはコンビニで売れる数が大きいので、現在の条例による規制も確かに効果があがるのです。ですから本当に困る雑誌、出版社はあるわけです。
　それから条例というのはそもそもバラツキがあっていいものですが、東京、干葉、神奈川、埼玉の４都県の知事が、統一しなければ駄目だと言い出しました。さらに、去年の11月、中田横浜市長はこの問題に関する記者会見で、コンビニ業界、出版業界からの反発はないかという質問に対して、「コンビニ業界は横並びの心理構造が一番大きいので、コンビニ業界の人たちと話すと条例化等されたほうがやりやすいという話をよく聞く」と言っています。以前、デパートの上の階に書店が入っていたように、いまコンビニは出版物を客寄せの手段として考えているのでしょう。

〔コンビニという箱やテレビという箱、この箱単位でものを論じていいのか？　テレビも書店も何でも有害環境にしてしまうのはいかがか…〕
橋本　権力者とか政治家という人たち、あるいは警察とか住民の有力者が、陳情も含めてこれは有害だと言ったものが有害なのです。同じ論理でコンビニも有害環境の一つになる。有害環境だから、とにかくそこを取り除くのが一番じゃないかと。 24時間営業のコンビニは現代の誘蛾灯で青少年には「有害」です。しかし、国民のほとんどの人はあれを有害環境とは言わないし、絶対に廃止しろとは言いません。有害環境というのは、このように非常に恣意的なものなわけです。しかし多勢に無勢でどうにもならない、これもまた現状です。

〔環境規制という建前で、それに表現物を乗っけてくるウラには…〕
橋本　私もそう思います。しかし、やってしまうんです。なぜかというと楽なんです。出版物はやっつけやすいということです。

五　下からの規制は機能するか

〔例えば基本法案を見ても、「国又は地方公共団体が実施する施策に協力」する責務を出版社、つまり表現活動を行っている者に対して課しているのは…〕
橋本　基本法案の第21条に「配慮」というのがあります。ここも「言論、出版、その他の表現の自由を妨げることがないように配慮しなければならない」とうたっているわけです。それがどうなるのか。

六　刑法175条との関係

橋本　ご承知だと思いますが175条と青少年条例は、似て非なるものです。そのあたり、一般の人も政治家も、あるいは出版関係者でもごっちゃになっている部分があるのです。そこは明確にする必要があります。かなり接近している場合もありますが、青少年条例は、要するにどんなに指定されても、とにかく青少年には売ってはいけません、見せてはいけませんというだけです。175条にいきなりいくわけではないのです。
　逆に言うと、そのあたりも含めて、出版界がもう少しきちんと発言すべきなのです。それがなかなか出てこない。規制法案が出てきたときなどにワッと騒ぐだけです。悪書問題から何から、こういう問題はもうずっと長い歴史があるわけです。しかしいつも後追いで、その場だけを糊塗して、問題の本質がどこにあるのかについての認識がどうも甘いというのが私の印象です。

七　自主規制のあり方

橋本　この青少年問題や性表現だけに限らず、その他の人権問題なども含めて、とりあえず各社、各誌で自主規制をしてきました。しかし、先ほどＢさんもアウトサイダーの問題に触れられましたが、そういうものは自分たちとは関係ない、むしろ迷惑だという発想があると思うのです。身内としてかばう発想に欠けている。ですから「文春」（注1）では大騒ぎしますが、『蜜室』（注2）などについては何もやらないわけです。
（注1：04年3月、田中真紀子議員の長女の私的な問題に関する記事が、プライバシーの侵害だと東京地裁が『週刊文春』の出版差止めを命じた事件。日本雑誌協会（雑協）はただちに"出版･報道の自由を圧殺する事前規制であり、事実上の検閲である"と抗議声明を出す／注2：本稿の冒頭にある、座談会の「企画の趣旨」参照）

　いろいろな意味で余裕がないとは言えます。放送とか新聞と違って、マスコミと言っても出版社はトータルで、書籍も含めてマスであって、一社一社は非常に小さいわけです。ではまとまって意見を述べようといっても、新聞等はマイナスイメージのことはたくさん取り上げますが、プラスイメージのことはなかなか取り上げてくれない。
　独自の研究機関もないし、不況の問題もある。しかし、それはいつの時代もあることですから、結局は不断にものを言っていかないと駄目だと思います。

〔他のメディアに比べて、出版社や出版物による自主規制のＰＲは…〕
橋本　逆に言えば新聞は１面に載せれば、とりあえずやっていることをアピールできる。そういうＰＲの仕方も含めて、出版は金銭的にも余裕がない。もう少し細かいことを言いますと、雑誌も新聞もかなり広告で保っているところがあるわけです。雑誌の表紙は、新聞でいうと１面と言っていいのですが、あそこに社告は載せませんよね。新聞は「今度こういう美術展をやります」から始まって、いかにもの広告を出せます。だけど雑誌では、ほとんどそれは不可能に近い。中でやればもっと埋没します。別に擁護する意味ではなくて、同じ紙媒体でもその辺のメディアの特性はあります。
　たまに合同で、週刊誌が２年前ですか、「雑誌人権ボックス」を設置して関係雑誌で多少ＰＲしたわけですが、そのあとがまたよくなかったと私は思うわけです。もっとやっていることをＰＲすべきだった、まだ精査しているとか、あまり件数が挙がっていないとか言わずに、何件来て何件対応したというだけで、まず動いていることがわかるんだと、私はもう外野ですから言ったのですが……。例えばそういうことならそれほどお金も何も使わなくていい。ちょっと工夫してこれぐらい、雑誌で公共広告的にやればいいと思うのです。

他の意見　ところが例えば出版倫理協議会ではゾーニング委員会をつくって、ちゃんと棲み分けをして、これは大人向けという識別マークも付けましょうということになったのですが、これが全然見えてこない。どうやられているのか、実際現場でそういう本に出会わないとわからないという状況です。

〔…だから、自主規制ではダメ、となるのか　親や自治体、地域の活動は？　子どもたちの意見は？〕
橋本　簡単に言いますと、やはり大人が困るからやらないのです。迷惑なんです。やれば自分たちの出番がなくなりますから。『有害図書と青少年問題』の副題は「大人のオモチャだった"青少年"」としましたが、もうずっとそうなんです。おまえたちはまだ子どもなんだ、だからおれたちが議論する。乱暴な言い方ですが、だから小ボス、中ボスがいろいろなところでできるわけです。
他の意見　するとそれは子どもの利権化ですか。
橋本　子どもを人質に取っているといいますか。
他の意見　それを克服する道はないんですか。

橋本「子どもの権利条約」が発効して、今年やっと10年目です。私はあの条約の精神は、一言で言えば「大人は黙っていろ」ということだと思います。これに関して、小さな自治体が、選挙権を18歳からにし始めました。例えばそのようなことからやっていくべきではないか。それと同時に、まずは教育ですね。いきなり18歳から選挙権と言われてもよく分からないので、要するに関心を持たせる。つまりそれぐらいの意識を持たせる。自分たちがどこにいてどうなるのか、権利条約のいう自己の確立とは何かとか、中には子ども時代に考えている人もいるでしょうが決して多くないでしょう。少なくとも半数以上の人間が考えるぐらいのことが必要だろうと思います。

〔少年たちは、すべてが無口ではない…〕
橋本　意識の高い子はかなり立派にしゃべりますね。

八　ＩＴ産業は規制せず?

〔いま、日本のＩＴ産業を担う大企業の営業を妨げるような議論は控えさせられている？〕
橋本　東京都の条例を改正するにあたって青少年問題協議会の答申が出ました。会長が石原知事ですから、石原さんから石原さんに出したわけですが。「昨今、大人自らの生き方を反映した子どもを取り巻く環境は、どうであろうか。子ども自身の自覚や規範意識とその具体的表れである行動はどのように変化してきているであろうか。大部分の都民は、『現実は憂慮に堪えないものがあり、危機的状況にある』という認識を共有していると考えられると勝手に決めているわけです。
　そして、インターネットの情報こそ青少年に多大な影響を与えると「全委員の意見の一致を見たが、一方、それを規制することが極めて困難であり、現在、議論を重ねても短期間で実効性のある方法を見出すことが困難である点でも、大方の意見が一致した。協議会委員の中には、インターネットに比べて図書の持つ影響は小さいという認識から、図書だけの規制を検討しても無意味であるという意見もあったが、不健全な図書の持つ影響を無視して良いとまでは言えないこと、また、できる所から一歩ずつ着実に対応を進めるべきであるということから、不健全図書類への対応も含めて協議会として検討することにした」。非常にはっきりしています。
他の意見　それでいいんですかね、本当に。（笑）

橋本　こんなに見事に言い切るとはね。答申の前文ですよ、これ。恐れ入りましたね。

〔今回の法案の出し方は、手続をきちんと踏んで、いろいろな分野に対する目配りをしていないのでは？〕
橋本　たぶんおっしゃるような手続を踏もうとしたらこういうものは出ませんよね。大して根拠がないのですから。

九　おわりに

橋本　先ほど紹介した東京都の審議会では、当初のテーマは引きこもりだったそうです。それが副知事に竹花さんが来て、去年の８月１日から、要するにこういう治安対策の一つに変わってしまった。
　もう一つは青少年育成施策大綱の前に、青少年の育成に関する有識者懇談会が2002年から2003年まで議論しました。メンバーは、弁護士とかボランティアとか大学の先生とか、女性が多い。一、二の議論を紹介しますと、「子どもたちの年齢層でも置かれている状況はかなり多角多様になっている。その子どもたちに対してどのように大人たちが、そして政府がやっていくのかは、かなり難しい課題であると改めて感じた」。さらに、「子どもを守られ、与えられ、導かれると見るだけでなく、自分の意見を持ち、自分を表現し、他者を理解し、他者に働きかけ、家庭や社会のために自ら主張・行動する主体として、能動性を大事にしたい」。両方とも女性の意見です。じゃあどうして、イラクで人質にされた今井君の行動は認められないのか、バッシングするのか。
　要するに能書きを並べただけの大綱なんだという印象を持っています。
　それともう一つ、市民社会のお話がありましたが、市民社会は青少年問題にほとんど興味がありません。うちの子はうちの子でやる。コミュニティや社会の将来を自分なりに憂えるなんていう人は、ないわけではないですが、一般的にはほとんどいません。そういう印象です。

これに対し、他の意見として　出版だけでなく、新聞や放送に対しても世間には批判が先にあって、だんだん聞く耳を持たなくなっている。いま、政権がメディアの規制をいろいろなかたちで狙っていることは間違いない。メディアへの規制をしたがる彼らの批判は世論と一体になっており、いまやそれを無視できない。……

もう一つ結論的に　マスコミ希望の学生たちに、あるジャーナリストが「嘘でもいいから社会のために、社会の木鐸として公共のために尽くすということを、なぜ言えないのか」と問うと、ある学生が「あなた方は本当に社会公共のためにやっているのか。あなた方の嘘でもいいから言えという、その二枚舌こそが倫理に反するじゃないか」と反論した。
　若い人は大人社会をよく見ていると思う。大人社会の腐敗をそのままにしておいて、子どもに伝統を愛し、自然を愛し、コミュティを愛せと言っても、ふざけるなということだろうと思う。子どもに健全さを押し付けるだけではなくて、本当に腐敗した社会の中で大人もあがいているとすれば、その腐敗や汚い部分も子どもと共有するという姿勢ができれば、子どもとのつながりができてくるのではないか。青少年問題というのは、大人の問題である。（文責橋本）

ご意見等は・・・

kenha@wj8.so-net.ne.jp

『法律時報』８月号特集 青少年保護とメディア―青少年法案とその周辺(仮)

一 はじめに

二 曖昧な定義と親の「見せたくない権利」？

三 包括規定

四 コンビニ規制

五 下からの規制は機能するか

六 刑法175条との関係

七 自主規制のあり方

八 ＩＴ産業は規制せず?

九 おわりに