出版倫理・青少年問題・目次へ

平成5年度・青少年育成国民会議 第2分散会「今、雑誌のここがよくないと思う」

 私は仕事柄、出版業界の“代表”として平成6(1994)年2月24日開催の青少年育成国民会議・平成5年度「青少年と社会環境に関する懇談会」のうち“情報提供1”として、 テレビ業界・出版業界・カラオケ業界のそれぞれから報告されたもの(代々木のオリンピック記念青少年センター)。 私は第2分散会「出版業界」について報告を行った。また、育成者からの問題点の指摘に関し、いくつかの回答もしている(2009・04・20)。

業界の近況(要旨) 2.出版業界      出版倫理協議会 事務局 橋本健午

 まず、はじめに出版倫理協議会についての説明をいたしますと、雑誌、コミック本など雑誌中心の団体としての「日本雑誌協会」と書籍中心の団体「日本書籍出版協会」、 これらの出版物を流通させるのに「日本出版取次協会」、さらに、皆様のお手許にお届けするための「日本書店商業組合連合会」の4団体から構成されています。
 さて、コミック本に関する問題についてですが、出版界では、これまでも各団体がそれぞれの倫理綱領を持ち、青少年への配慮を行ってきました。 しかし、京都府・大阪府・広島県の条例強化や最近は千葉県の包括指定を盛り込んだ条例改正案などの動きがあります。
 そこで、出版界としましては、反省すべきところは十分反省し、なおかつ青少年にとってどのようなものが良いのか、改めて取り組みをしています。
 ただ、問題点を整理してみますと、一つは、雑誌などを出版している出版社が数多くあり、その中で少年向け出版物の問題と、 大人向け出版物を子どもが見る問題などがあります。ですから有害図書指定されたかなりの部分は、少年・少女向けというよりは大人向け雑誌の問題が大きかったのではないかと思います。
 ここで大変残念に思いますのは、雑誌形態をとっているコミック誌と書籍の形態をとっているコミック本とを混同して使われている場合が非常に多いのではないかという点です。
 問題となったコミック本に限って自粛の状況を説明しますと、総務庁の月別の資料「青少年保護育成条例に基づく少年少女向けコミック誌・単行本(漫画)の有害図書指定状況」のうち、 平成3年から5年のそれぞれ1〜3月の3か月間の指定状況を見てみますと、社数・コミック本のタイトル数・指定件数の平均のいずれもが減少しています。
 それから、大人向けに出しているコミック本及び青少年に好ましくないコミック本に関しては、「成年マーク」をつけるよう、 平成3年1月に出版倫理協議会で決めました。なお、出版社の中には、1)明らかに成人向き、2)青少年に誤解される恐れがある、 3)当初指定を受けたシリーズもので、止むを得ず他の巻にもつける、などの理由でマークをつけています。
 さて、今まで出版物を作る側のことばかり述べてきましたが、書店での対応につきましては日本書店商業組合連合会等が、 傘下の組合員に対して成人コーナーの設置や愛の一声運動などを指導しています。東京や大阪のデータを見ますと、かなり徹底されているようです。 ただし、最近では雑誌類は書店に限らずコンビニエンスストアや駅の売店などでも購入できますので、正確なところは掴み切れないのが現状だと思います。
 最後に、出版界としましては自主規制だけではなく、前向きな取り組みとしての「子どもと本の出会いの会」や学校図書の充実のための活動も行っています。
 この「子どもと本の出会いの会」では、子どもが本を読まないことを憂慮し、学校や公共図書館で、子どもの読書に関わっている人々、 戦後一貫して子どもと本をつなぐ役割をしてきた人々、作家、画家、また子どもの本に関わる人たちが声をかけて集まり、昨年3月に発足しました。 その趣旨については、本日配布された資料をお読みいただければと思いますが、井上ひさし会長のあいさつ“…大人が本を読むようになると、 (子どもが本を読まないという)問題の半分は解決します。この会の目的の半分は、大人に向けての仕事だと思います。” という言葉で、 ご報告のしめくくりとさせていただきます。

    <関連して個別の問題と回答(橋本分)>
   女性を対象としたもの(レディースコミック含む)
   刊行形態  雑誌名               出版社名
   月 刊   コミック・フィズ 2月号       三和出版
   月 刊   コミック・フィズ 2月号       三和出版
   月 刊   コミック・フィズ 2月号       三和出版
   月 刊   コミック・フィズ 2月号       三和出版
   月 刊   コミック・フィズ 2月号       三和出版

 理由:だれでも手にすることができる雑誌としては性描写が過激である

 橋本(出版倫理協議会)…レディースコミックについてのお話がありましたが、これもほとんど雑誌です。 一般に出版されているレディースコミックは大人向けであるということで、 そういうものには性表現にかなりきついものがあるように思いますが、子供はほとんど読みません。
 レディースコミックに関しての余談ですけれど、ある社の人が創刊するのに23歳ぐらいの女性を対象として考えていたところ、 実際の反応は36,37歳で、結婚しているけど、子育てに忙しくて外に出られない人が主な読者だったと。 先ほどの少年ものの読者に40代の人もいるということはまたちがった意味で、レディースコミックが読まれている面があるように思います。

   その他(対象不明を含む)
   刊行形態  雑誌名                       出版社名
   一般書籍  完全自殺マニュアル(鶴見 済著)           大田出版
   週 刊   フォーカス2月2日号(完全自殺マニュアルについて)   新潮社

 理由:どこを見てもいろいろな自殺のやり方が書いてあるというのは問題

 橋本(出版倫理協議会)…『完全自殺マニュアル』を出した編集長の話ですが、自殺した中学生のお父さんが、有害図書の指定をするように福岡県に申請したが、 県は指定対象とはしなかったと。その理由は、性表現、暴力表現等ではひっかからないし、残虐だといっても写真があるわけではないと。 それから、著者は淡々と書いているというようなことで、いわゆる残虐性を助長するものではないということで指定対象とはしなかったという話をしておりました。

   刊行形態  雑誌名                        出版社名
   一般雑誌  電脳通信ピピ(ゲームボーイ2月号増刊)         マガジンボックス
   一般雑誌  美少女パソコンゲーム大研究9             三和出版

 理由:だれでも手にすることができる雑誌としては性描写が過激である
 理由:未成年者には販売禁止になっているパソコンソフトの内容を紹介するのは問題

 橋本(出版倫理協議会)…CD-ROMやパソコンは子供でもアクセスできるところに問題がありそうです。 女性の裸のものとかいろいろなものがあるようですが、本来、子供に性的好奇心がなくても、そういうソフトがどんどん出てくるということは、 目に見えないというか、意識されないうちに潜在的に植え込まれるものがあるのではないかという意味で非常に危機感を覚えます。 ですから、こういう雑誌で、読者対象はよく分からないんですが、こういうソフトがあるということを紹介するのは、 間接的には青少年にとってはどうかなということが起こるかもしれません。

【出典:平成5年度「青少年と社会環境に関する懇談会」報告書(社団法人青少年育成国民会議:平成6年3月発行)】


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