”書くこと”「新 詩のようなもの」その2

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新 詩のようなもの

               1998年10月  橋本健午

  学生時代(1962年4月〜66年3月)のノートより抜粋

その1より続く。

1964年

1/21  場末の小さな喫茶店で
    夕暮れ
    テープが独りで回っている

    誰もいない

    さびれた音が哀れっぽい

    冬の雑踏の中を
    ここまで来ると

    女主人が
    店を閉めるところだと言った

    空腹に
    身を切るような冷たい空気

    私は安堵の胸を
    なでおろした

    タンゴは
    単調に流れている

    ストーブのそばで
    ひとり

    話相手もなく うずくまっている

    カーテンの外を、石だヽみの上を
    人が
    急ぎ足で通りすぎる

    ドアを開けるものは
    ひとりもいない

    友はみんな去った
    愉快そうに

    タンゴだけでも と願ったが
    私は相変わらず
    ひとりだ……

    遠くで 女主人が
    食器をかたづける音がする



1/23   女への賛美
    女は被造物だ
    感情豊かな ではない
    本能的なのだ

    たったひとりの女
    向いの席に黙ってすわる
    交わす言葉が見当たらない
     <解り切ったことだったのに>

    女は何かを望んでいる…
    地下で意地悪そうに
    二十四才のカミュが笑っている

    カミュとモダンとオンナ
    何となく関係がないようだ
    私だけが その中で
    どうしようもなく 座っている

    女の脚、それは彼女の自慢だ
    私の前に惜し気もなくさらして
    右手の執拗な愛撫を受けている
     <少し太いと思うのだがね>



1/23  大人のおせっかいに対して
    何を相手に
    戦えというのだろうか

    われわれの前には 何もない
    未来も幸福も そして生きる目的も

    われわれは
    何を求めたらいいのだろうか

    女の腹? うまいビフテキ?
    それとも世界の平和?
     (何と歯の浮くような文句じゃないか)
    こんな写真はどうだろう
    煩悶する男の歪んだ顔の…

    あなた方はきっと こういうだろう
    青年は大いに悩むべきだ
    そして次には 成功を夢見るのだと
    俺たちにもみんなそういう時期があったのだと…

    くそくらえ!
    世俗的成功が何になるのだ



1/23  突然老人となった自分の幻像
    私は道を歩いていた
    五六歩前を一人の女が歩いている
    もうだいぶ前からだ
    若い女だった

    私は黙って歩いていた
    同じ歩調だった
    彼女が止れば私はすぐに追いぬけた

    彼女はイライラしているのが判った
    どうしてそんなに私のあとばかり
    つけるのですかと言ったからだ

    私は仕方なく答えた
    別にあなたのあとを追っている
    わけではありません、ただ同じ方向に
    歩いているだけなんです
    きっと同じ処に行くんでしょう

    人生だってこんなものですよ
    皆死に向ってこうやって黙って
    歩いているのですよ
    あなたには判らないかも知れませんがね



2/3   「木馬」での幻覚
    自分が仲間に入っているかどうかを
    考えている
    いつもはどうかと自問して見る
    他人の顔をうかがって見る

    音楽が裸の体と調和するかを考えて見る
    タバコの煙が身体に影響を及ぼすかどうかを
    考えて見る
    暗い処にいると、どれくらい瞳孔が開くか
    考えて見る

    ピアノがぶっこわれたときの音を
    想像して見る
    コーヒーはどのくらい冷めると不味くなるか
    試して見る
    すわっていてどうしたら自慰を遂げられるかを
    考えて見る

    人間の口を針で縫いつけてしまったら
    どんなことになるかを考えて見る
    今誰かと喧嘩をしたら、相手をなぐり
    倒せるかどうかを考えて見る

    やっぱり自分は仲間に入っているかどうかを
    考えて見る



3/4   ひとりの友の死
    それも突然の死

    彼女は恋をしただろうか
    人間的な歓びを知っていただろうか

    死はあまりにも多くのものを奪う
    愛、友情、信頼……

    それはすべてのものを裏切る
    愛、友情、信頼……

    冷酷で無残な仕打ち
    どうして彼女だけが望もうか

    それなのに彼女は
    一言もいわずに去ってしまったのだ



     佳人薄命
    若くて美しくてきれいなまヽ
    彼女は永遠に



3/26   愛と憎しみ
    いつもいっしょにいる
    兄弟だろうか
    それとも夫婦みたいなものだろうか
    あのけんか夫婦のように
    それ故に永年連れそっているような

    どっちかだけがあるというものではない

    愛のみの本当の愛はなく
    憎しみだけということもない

    だからこそ人とは
    歓びや悲しみを
    わかち合うのだ



3/30  汚れを知らない
    白い清浄な手

    無心に動く
    感動的な仕草

    本当の意味を理解するまでに
    至っていない年令

    短くはかない生涯の
    この輝き



9/20  夜を逃れて さ迷い出る
    重苦しい足どり
    雨が降って来る

    それでも私は憂うつかというと
    そうではなかった

    私はひとつのことを考えながら
    雨に濡れた街路を
    歩き続けた 目的もなく

    なかなか考えがまとまらず
    ひらめきもなく
    私は疲れを感じ始めた

    貧しき人々……
    彼らは何故貧しいのだろう
    そんなにいやだったら
    どうして考えを持たないのだろうか

    私は遺書を書かねばならない
    遺書こそがすべての始まりなのだと
    私は確信したのだ

    ぐずぐずしていると
    私は遺書を書きそこなってしまう



11/3  ぼくはメチャメチャだ
    起きてから寝た後までも
    メチャメチャだ

    ぼくという一個の主体のない
    もぬけのからが てんでんばらばらに
    動いている

    誰も皆自分を知っている
    それなのに ぼくは全く
    どうしていいか判らないでいる

    ぼくには ぼくという他人が
    分らなくなった
    ここに何故ぼくは座っているのか

    どうしてぼくは自分に
    親切でないのだろう
    何故他人に好意的なのだろう

    ぼくは自分で自分の首を
    ゆっくりと しかも確実に
    しめているのだから

    ぼくは自分をどうしようと
    しているのだろうか
    何がしたいのだろうか

    空腹と寒さと いつも
    隣り合わせでいる
    ぼくは心の中が凍っているのか

    力まかせに自分をぶったところで
    何もうまくいくわけではない
    あったかくなるわけでもない

    ぼくはこのままひとりでいると
    だめになってしまいそう
    気が狂ってしまいそうだ

    ぼくのわがままなのは
    単に悪いだけだろうか
    それゆえにぼくは敗北するのか

    他人が信じられない
    そして人間全体が
    はかないものに見える

    ぼくにはぼく本来の道があるのだと
    常に自分に言いきかせなくては
    ならないのだ

    それは決して他人と
    共同のものでも 一緒にやる
    ものでもないのだ

    ぼくはもっと自分に
    厳しくならなければならない
    自分を監視しなくてはいけない

    ぼくの前途を 誰も
    保証はしてくれないのだ
    (現在がそうであるように)

    ぼくは自分をまもることから
    考えねばならない
    その為に決意がいるのだ

    もはや他人がどうであると
    関心を持つことは
    出しゃばりでさえあるのだ



11/17  久しぶりの対話の後で
    たとえ一時的な感情であろうとも
    どうして君の意志を無視してまで
    一緒にいようと思うだろうか

    君が一個の人格を有する人であることは
    百も承知だ
    だからこそ君の去るのをとめることは
    できなかったのだ

     caprice(気まぐれ)とはいい言葉だと
    君はいった
    気まぐれなのは君ばかりではない
    だから君はぼくに腹を立てたのだ

    ぼくと君の間には絶対的な溝がある
    それを越えようと思うのは無駄なことだ
    容易だったら、すでに親しくなって
    もう他人同志になっているであろうから

    ぼくは君をどうしようと思ったわけでもない
    いわば目的のない対話だ
    それを君に愉快になってくれといっても
    しょせん意味のないことだった

    それにほんの二三時間で君の全歴史を
    ひっくり返そうたって無理な話だ
    目的もなしに、好きでも何でもない人間と
    一緒に歩いたりお茶をのんだりすることは
    退屈以外の何ものでもないだろう

    それに君にはやらなければならないことが
    いっぱいある
    時間が惜しいにきまっている
    無理してまで一緒にいたって得るものはないのだ

    ぼくはもっと早く、君の頭に浮かぶよりも早く
    君にさよならを言えばよかったのだ
    そうすれば君のために 君の気分が
    損なわれなくて済んだのだ

    君の眼には抗議の激しさがあった
    手に当たるものをぶっこわしたい気持が見えた
    君がこんな時に煙草が喫えたらといったとき
    ぼくには言葉がなかった

    隔てなく話ができたことは幸福だった
    先のとがった槍を突き出せば
    互角も 待ったもありはしない
    どちらかが傷つくのだ

    現にその話をしていた僕たち自身が
    気付かなかったのが不幸の始まりだった



12/17  悲しみの時にのみ
     詩をうたわねばならぬのか

    自分の顔ばかり 何故
     のぞかねばならぬのか

    愛するのは
     力だけなのか

    夜の、他人の気も知らぬげに
     お前は立っているのか

    力の限り
     短い生命を生きるのか

    何事も さして
     考慮は要らぬのに

    どうして お前は
     頭をかヽえるのか

    ゆらゆらと 激しく……

1965年

1/13   愛する女へ
    お前がいつも手紙の中に
    手なぐさみに
    絵を画いてくるとき

    私はお前の文章を
    読まなくても
    お前が幸福であるということが判る

    私はそんなお前が
    いじらしくなる
    お前をもっと強く抱いてやりたいと思う

    お前の心の動きが
    判りすぎて
    私はお前の不幸も飲み込んでしまう

    私はいつもお腹いっぱいだ
    だからお前のことを思うと
    私は夜毎うなされるのだ

    愛しいお前が
    いつまでも
    私を寝かそうとしないのだから



1/19  ぬくぬくとしていたのでは
    詩は生まれては来ぬ

    きびしくはげしく生きてこそ
    感覚は生気をおびてくるのだ
    お前の顔には
    まだ何のシワもよっていない

    それはお前が今まで
    苦労のなかったことを意味する

    いつまでも幼な顔をひっさげて
    表通りを歩くことはできない

    だが生活のシワだけは刻むな
    思想の、精神のシワを残せ

    お前の未来は 在る
    しかし、お前のためにあるかどうか判らない

    心せよ 何ごとも注意せよ
    お前はひとりですべてなのだ

    詩が生まれ、文章がほとばしるとき
    お前には未来が約束されるのだ



1/22  肉太の下弦の月が
    まだ色薄く、人家の灯と戯れるころ

    すでに終電は
    赤いランプと共に走り去った

    懐に小銭もなく 私は
    歩いて帰らざるを得ない…

    何を嘆こう 誰が
    待ちわびているのでもないのだ

    軌道の枕木の上を
    小石の間を つま先立って

    黙々と歩く
    道は遠く 人気のない世界が続く

    だが、かたわらの大道を右に左に
    車が華やかに行き交う

    それも束の間
    隨道をくヾると真っ暗闇

    まだ夜も浅いのに
    電車だけが はや店終いだ

    隣接の、夜の世界のさヽやきを
    さまたげるのを潔しとしないかのように

    暗い中の私は
    注意深く、しかも足早に歩く

    次第に身体が熱くなって
    熱を持ち始める

    犬の姿も見えず
    男女の恋もお休みらしい

    <そうだ、冬の夜道なのだ
    どんなに暖かくても>

    ひとり私だけが
    王様のように歩いている

    何時までかヽろうと
    月が沈むまでには到着するだろう



5/10  抱きしめたいと思う胸の中に
    君の姿なく

    ぬくもりはほど遠く
    心にひヾくは空しい君の声

    いたずらに時は過ぎ
    物想う夜は長く哀しい

    悶えるは君のみか
    我が心さらに悩ましく

    夜々に君を想い、君を慕い
    この現実を呪う

    それもまた力なく空しい
    死と交換でも君に逢いたい

    力の限り君を抱きしめ
    君とともに深く眠りたい



5/10   ある婦人に
    あなたが男をさしおいて
    秘かに私の手をきつく握りしめたのは
    どうしてでしょうか

    男があなたの頬に接吻
    しようとしたとき
    あなたは何処を見ていたのでしょう

    あなたが自分にあてがわれた男に
    満足しなかったとしても
    私にはどうすることもできないのです

    あなたが若い頃、恋に酔った
    ように、あたヽかい春の夜気に
    思う存分、身を任せばよかったのです

    あなたは私に、私のことに
    軽い嫉妬の気持でも
    抱いていたのでしょうか

    私があなたの腕を何度か
    ふりほどいたのは
    あなたを想うからこそなのです

    いく分、騒ぎ過ぎました。でも
    道化役者はいつもさびしいのです
    それだけでも判って下さい

    大騒ぎができるだけでも
    幸福なのです
    一生静かだったら"静か"の意味を
    知らずに終わるでしょう

    あなたの心中はよく判ります
    それは、しかしあなたの弱みなのです
    あなたにとって幸いだったのは
    男がそれに気がつかず、たヾ
    あなたの肩に手をかけていたことです

   "母の日"にさえ、あなたを
   "マヽ"と呼ばなかったのは
    私には"マヽ"が多すぎるからです

   "明日"に思い煩うことなく
    夜の明けることを恐れないとしたら
    どんなにか楽しく過ごせたものを



5/31   直ぐ書けない手紙
    受取り手のない手紙を
    どうやって書いたらいいのでしょう

    何とあいさつしたら
    充分なのでしょう、誰も読んでくれないのに

    寒い薄暗い処で
    じっと手にとられるのを待つ手紙

    そんな手紙に何を書いたら
    慰めになるのでしょう

    雨が降っています
    お天道さまはずる休みです

    みんな怒っています
    心の中までカビが生えたからでしょう

    でもいつか日の目を見る手紙は
    きっと幸福の来るのを待つ気持です



6/6   わたしをもっと知りたいのなら
    わたしの奥深く入らねばならない

    わたしをどうかしたいのなら
    わたしの涙を見なければならない

    わたしの心臓の鼓動を聞きたいのなら
    わたしの胸にそっと耳をそえねばならない

    もし、わたしとふたりだけでいたいのなら
    自分の心を偽ってはいけません

    わたしに声をかけたいのなら
    恋の心、恋の瞳をひらきなさい

    偽っているのがわたしだとしたら
    わたしこそ不幸な人間なのです

    いつも笑顔でいるひとは
    かげでそれだけ泣いているのです

    ひとり得をしているのは
    わたしかもしれません

    お眠みなさい、安らかに



6/9  愛しいお前の姿が眼に浮かぶ
    うれしそうな顔、いたずらっぽい顔
    悲しそうな顔、物想いに沈んだ顔

    白く細い形のよい腕、そしてその脚

    いつまでも若いお前の肉体

    愛しいお前
    憎めないお嬢さん

    放っておいたら消えてしまいそうな
    頼りないお前

    かわいらしいお前
    とてもうれしそうなお前

    涙が出て来るわたし

    放っておいたら消えてしまうお前
    どうすることもできないわたし



6/24  不毛である

    肉体のあちこちに、いや精神のあらゆるひだに
    カビが生えている

    頭の中がクモの糸をはりめぐらすように
    がんじがらめに犯されている

    気違いである

    生まれるものはない

    すべてが苦痛であり腐ったものだ

    頭をぶち壊すために
    カナヅチを持つ手に力が入らない

    空っぽの頭、空っぽの心臓

    何も思考しない頭脳

    他人より
    自己しか憎めない悲しい心

    泣いているのは誰だ!
    いまさら後悔しても仕方がないじゃないか



10/10  何の意味もなく、たヾ大声で
    どなりたい欲望
    定まった方向もなく全速力で
    掛け出したい欲望
    秋の夕暮れの
    人恋しい一時

    気持ちのよい外気にふれて
    われを忘れる 酔心
    他愛なく微笑み 戯れ
    邪心なく遊ぶ気持ち

    何の約束も 契りも
    共犯関係もなく
    たヾ静かな夜の
    愛しいまでの ひとヽき

    想う人の遠く 面影を忍びつつ
    長い夜半を ひとり
    明け方の望月に思いをはせる



11/3   霧の中 −В Тумане−
    真冬の朝のように
     あたり一面立ちこめている
     濃い霧の中で
    さっきから
     じっと私を見つめているのは
     お前ではないか
    たった二つの街灯だけが
     ぼおっとかすんでいる
     そんな下で
    私が窓を開けるまで
     お前は何時間待っていたのだろう

    お前は そこに立っているお前は
     二年前にさよならも言わずに
     とつぜんこの世から姿を消した
    あれは冬だ 珍しく雪の降った日だった
     私の眼前から消えて久しい
    そのお前がまた突然この霧の夜に
     私の前に現れるとは
    お前は雪の精か それとも霧の子か
     いやいやそんなものではない
     きっと神の造った妖精なのだろう

    でもお前はいたずらっ子だった
     お茶目さんだった
    今もまるで以前と変わらない
     相変わらずお前は天真爛漫に
     とびまわっているのだろう
    お前が私の前にだけ現れたと言ったら
     みんなが嫉妬するだろう
    でも私はみんなに
     お前が来たことを伝えよう
    濃い霧にまぎれて お前が
     天上から舞い降りて来たことを
    そしていつものくりくりした眼と
     愛らしい笑顔をもって
    白い衣装がよく似合うのが
     少し気にかかるけれど
    ともかく元気だったと伝えよう

    お前は天上界でも
     思慕者をたくさん引き連れているらしい
    それが証拠に お前の純白のはずの
     着物に処々真っ赤な血の跡が
     あるではないか
    お前はもっとつつましくしていないと
     天上界からも追い出されるにちがいない
    そして行くところがなかったら
     私のところへそっとおいで
     私がかくまってあげよう

    お前はそんな処にいて
     寒くないのかい
    風邪を引いたら本当にお前はどうするのだ

    早く帰りなさい
     お前の住んでいる処へ
     もっと暖かい国へ

1966年

3/2  それは島なのか港なのか

    何時行っても必ず笑顔で
    迎えてくれるのは

    酔いどれ船のたどりつく処
    それは静かな海の
    奥まった入江

    波風を避けて
    ようやくたどりつく小舟の
    安らぎと哀愁を満たす

    小さな港の小さな入江

3/4  俺は気が狂ってしまったぞ

    俺は遂に体力の限界、神経の
    極限まで来てしまった

    馬鹿野郎! お前たちチンピラに
    おれの気持なんかヾ判って
    たまるものか!

    俺はくやしい、俺は悲しい
    しかし、俺は今泣いたって
    何も始まりはしないんだ

    俺はやっぱり余計者なのだ

    俺はこの二カ月余り殆ど毎日
    酒を飲み、タバコを多量に喫い
    そして疲労困憊してしまった

    他人に頼まれヽば、いやとは言えない
    それでおれは連日、何の利益もなく
    たヾ他人の為に走りまわった

    おれは他人の前では決して不機嫌な
    顔なぞ見せたことがない 誰に
    おれのこの苦悩が判るものか

    俺は酒とタバコと疲労および
    睡眠不足で完全にぶっ倒れる
    寸前に来ている 俺はしかし
    負けないぞ

    おれの苦悩が判らないヤツの前では
    よけい阿呆面下げちゃいられない

    昨日も女 今日も女
    しかし、馬鹿を相手に、それ以上の
    馬鹿であるオレ、オレは一体何を
    しようというのか

    きのうのほろ苦い酔いが一夜にして
    醒めてしまうとは夢にも思わなかった

    おれの生活が乱脈なのではない
    おれの思想がたヾれているのでもない
    たヾおれは自分をぎりぎりまで
    試して見たかったヾけだ

    おれはきょうヤケ酒を飲んだのではない
    気をまぎらわすためでもない
    要するにおれは馬鹿だったんだ


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