出版倫理・青少年問題・目次へ

「49"有害図書"の指定」

日本出版学会編『白書 出版産業―データとチャートで読む日本の出版―』


 雑誌等の性表現などが、自治体ごとに設けた"青少年健全育成条例"により、青少年に"有害"だと指定されれば、 彼らへの販売等が禁止される。違反した場合は販売業者等が処罰される。指定された図書類を"有害図書"、 都では"不健全図書"という。この条例は、直接"出版・発行"を制限するものではないが……。
 図書類の規制に関する条例第1号は1950年の岡山県であるが、55年の悪書追放運動以来、制定が活発になり、 東京都も64年に設けた(全国で25番目)。なお、長野県は制定していない(長野市にはある)。
 近くは90年に起こったポルノコミック問題など、常に悪書と少年非行との関係、そして"中央立法化"問題とからめて論議され、 制定が促進され、また改正を繰り返し、規則や罰則が強化される青少年条例である。
 たとえば、01年4月改正の「東京都青少年の健全な育成に関する条例」によると、 「その内容が、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、又ははなはだしく残虐性を助長し、自殺若しくは犯罪を誘発し、 青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」が指定の対象となる。 "自殺"は単行本『完全自殺マニュアル』(太田出版)で少年2人の自殺者が出たという警視庁からの要望などを受け、追加された。
 図書類指定の過程は、(自治体職員の)図書購入→選別→審議会に諮問→知事名による公示が一般的だが、東京都の場合は、 審議会に諮る前に、自主規制団体による「諮問図書に関する打ち合わせ会」が設けられており、 職員の専断に歯止めをかける役目を果たしている。
 その図書類とは、書籍・雑誌・文書・図画・写真・ビデオテープおよびビデオディスク・コンピュータ用のプログラムまたはデータを記録したCD−ROMその他の電磁的方法による記録媒体・映写用の映画フィルムおよびスライドフィルムなどをさす。
 指定された図書類は、青少年に販売し、頒布し、または貸し付けてはならず、閲覧や観覧もさせてはならないとし、 違反した場合の罰則として、警告に従わない者は"30万円以下の罰金または科料"に処せられる。
 この改定の際、コンビニ等での一般向けと成人向け雑誌の混売状況を憂慮して、成人向け雑誌の区分販売を義務化し、 指定図書と紛らわしい雑誌には、何らかの表示をすることも勧告するなど(「表示雑誌」)、より厳しい状況となっている。 根底には、性表現が刑法175条には該当しないが、条例の範囲を超えるにもかかわらず、取り締まれないという当局の"苦々しさ"があるようだ。

 さて、総務庁(現・内閣府)による全国の"有害指定件数"の推移をみると、総数で7万件を超える年もあったのはビデオのせいであるが、 そのビデオも減少気味で、2000年より2万件を下回った。2万件台で推移していた「雑誌」は94年から(95年を除き)、 1万件台に減少し、さらに98年から1万件を割り、01年には約2600件と減少している(図1)。
 この減少は、一見好ましく見えるが、これは"個別指定"の数字であり、現在、東京都と長野県を除き採用されている"包括指定"(性表現が、一定基準以上のものは自動的に指定対象)により、 雑誌個々のチェックが省かれているためと思われる。
 なお、04年4月から包括指定を取り入れる秋田県の)02年4月〜03年7月の図書の指定数は、03年1月(42件)、 同2月(41件)を除いて、すべて40件であり、ビデオテープは毎月8件に "統一"されるという不思議さである (cyberstationのホームページ有害」規制法案・条例等の状況一覧より)。
 東京都は月に10件前後と、他道府県に比べ指定件数が少ないが、近年は雑誌そのものより付録のCD-ROM等によるものも出てきた (02年度の指定79件のうち、CD-ROM付は6件)。2000年12月、CD-ROM付雑誌を連続で指定された宝島社が「憲法違反だ」として、 東京都を相手にその取り消しを求める行政訴訟を起こしたが(この種、初の訴訟)、03年9月東京地裁は原告敗訴の判決を出し、 同社は控訴。04年2月から東京高裁で控訴審が行われている。
 ところで、出版界では63年12月、書協・雑協・取協・日書連で構成する出版倫理協議会が設けられ(初代議長は布川角左衛門)、 出版の自由を守り青少年の健全育成に寄与する自主規制団体として活動している。 とくに近年、東京都に対し、さまざまな対応を行っているが、96年に採用した「成人マーク」の導入は成人向け雑誌の性表現をエスカレートさせる傾向にあり、 その対応はかなり変容している。
 また、主に成人向け出版物を刊行する出版社で構成する出版倫理懇話会も、自主規制団体として、 東京都の「打ち合わせ会」に参加している。他には、古書業・貸本業や映倫・チェーンストア協会などがある。
 最近の動きを見れば、石川県では02年4月より有害図書販売者に「懲役6ヵ月以下または30万円以下の罰金」 と条例を改正しており(懲役は全国初)、福島県でも自動販売機の有害図書の販売に懲役刑を設け、 03年度中の条例改正を目指しているという(現行の「20万円以下の罰金」を「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」に)。 また、大阪府は03年7月より「犯罪を誘発するおそれ」のある図書を指定対象に加え、区分陳列の義務化などを盛り込んだ改正条例を施行し、 東京都はインターネットに比べれば図書の持つ影響は小さいと認識しながら、成人向け雑誌などを"包装"販売するようにと罰則強化をもくろみ、 04年2月開催の都議会に条例改正案を出す。
 3年前に参院自民党から提案された出版物などを規制する有害環境自主規制法案や青少年健全育成基本法案が、 また国会に上程されるおそれもあり、予断を許さない。このほか、99年11月より施行の児童買春・児童ポルノ処罰法の見直しもあるはずで、 マンガを含め、出版界はいつの世も性表現に腐心している。
 いずれにしても、時代を反映した誌面づくりと、青少年健全育成に名を借りた"政治的"な指定という構図は変わらない。

青少年の保護育成条例による有害指定件数の推移    総務庁(現内閣府)調べ
 H元H2H3H4H5H6H7H8H9H10H11H12H13
140,81455,85870,54764,33768,46871,82665,45175,84052,46428,79723,68519,68014,352
24,2114,2643,6323,2013,2892,4702,6662,8412,8881,1911,1921,207727
320,95820,97420,06822,60820,94918,30420,47417,90810,9538,7647,9536,6672,617
4011430002118416016
515,64530,60946,84338,52544,23051,05442,31155,07038,60518,80114,53411,80610,992

(注)表の左欄(追加)1…総数、2…映画、3…雑誌、4…広告物、5…ビデオ等
個別指定方式による件数
 平成12年度までは、暦年で、平成13年からは同13年3月〜14年2月


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