出版倫理・青少年問題・目次へ

「出版倫理」 ある年次報告について (その1)

橋本健午


 青少年に関わる問題は、いつの世も難しいものである。ここでは、日本雑誌協会(雑協)に在職中の「公的報告」における"私見"ついて、記録をたどってみようと思う。
 私は雑協に勤めた翌1983年から、マスコミ界の横断的な組織「マスコミュニケーション倫理懇談会全国協議会」(マス倫)の会報「マスコミ倫理」に、 毎年秋に行う全国大会用の資料の一つとして、出版界の倫理状況を報告している(年次報告のため、重複部分は省略)。 欠号もあるが、およその状況はうかがい知ることができるであろう。最初のものは、まだ勤めて10か月に満たない時期に記したものである。 なお、文末の筆者に関する表記は編集部による。(2006・12・04)

「マスコミ倫理」第286号(1983〈昭和58〉年8月25日)

[出版界]公的規制強化に反対/一部に成人誌規制強化の動き

 昨今"雑誌の時代"といわれ、出版界は新雑誌の創刊が相ついでいるが、この1年、青少年問題関係では、さほど大きな動きもなく推移した。 とはいえ、ビニ本・ウラ本などとともに、主としてスタンド・自動販売機で扱われる成人雑誌が、相変わらず青少年問題関係者や自治体を刺激し、 一部に規制強化の動きも見られる。
 出版界としては、言論・表現の自由が侵されるような公的規制の強化には、あくまで反対する立場から、こうした動きをきびしく見守ってきた。
 大阪府の青少年健全育成条例制定問題については、昨年5月に出版4団体(日本雑誌協会、日本書籍出版協会、日本出版取次協会、 日本書店組合連合会)で構成する出版倫理協議会は、布川議長はじめ関係委員が大阪に赴き、府知事に要望書を提出したが、 ひき続きその後の動きに注目している。
 出版倫理協議会は昭和38年に発足して以来、青少年の健全な育成のための出版界の社会的責任を果たす立場から、 倫理活動をすすめてきた。40年には「自主規制の申し合わせ」を取り決め、東京都青少年条例によって連続3回もしくは年通算5回指定された雑誌について、 書店が特別に注文しない限り取次は配本しないようにし、また18歳未満には販売できない旨の帯紙添付を義務づける措置を決めた。

自主規制と条例 基準の問題点

 また42年には、各都道府県制定の青少年条例にもとづく指定状況を勘案し、特に問題とせざるを得ない雑誌を「要注意取扱誌」として指定することとし、 54年からは年2回の指定を行い、業界全体に自主規制の注意を喚起している。
 昨年11月12日と今年6月27日には、各県の「有害」指定をもとに、56年後期、57年前期分として、それぞれ22誌、36誌を 「要注意取扱誌」として指定した。この作業の際、考えさせられるのは、県によって指定にバラつきがありすぎ、 一度指定すると(その雑誌が廃刊になっても)機械的に指定するケースが多いことである。
 該当の各版元には、協議会から文書で通知するだけではない。取次協会では書店が取次に注文をする際の参考にするため、 各取次を通して要注意誌の表を配布した。書店組合でも機関紙を通じて全国の書店に告示し、青少年の目にふれないようにするなどの注意を呼びかけた。
 現在まで、帯紙措置を受けた雑誌は45誌、要注意指定誌は252誌に達している。これらの雑誌の版元は、いずれも出版倫理協議会のアウトサイダー(*)であるが、 加盟社に対しても、ある程度指定回数の多い雑誌には文書で注意し、協力を要請している。
 《(*)ここでいう「アウトサイダー」は、雑協・書協の加盟社でなければアウトサイダー出版社といえるが、 出倫協を構成する団体である、取協に属する取次会社や日書連加盟の書店で扱うものであれば、"インサイダー"と、 広義に考えるのが妥当といえる。次にある「自販機もの」は、別のルートで流通するもので、アウトサイダーとなる》

自販機と住民運動の現状

 ところで、自販機ものについてであるが、総理府の集計によれば56年後期は8,018回、57年前期は約7,000回と数多くの指定を受けており、  各地での自販機の撤去や不買運動が根強く行われている所以であろう。
 東京では昨年10月15日に都主催の「成人向出版物と雑誌自動販売機について考える」パネルディスカッションが開かれ、 協議会からも多数委員が参加した。
 自販機の撤去については、練馬区など住民運動の強いところでは、かなり進んでいるというが、 別の都のデータ「雑誌委託販売店及び雑誌自動販売機の実態調査結果の概要」(57・11発行)によれば、 監視のきびしい地区では減っても、その隣接の地区に増えている、と報告されている。
 またパネラーの1人、日本新雑誌協議会(加盟20社ぐらい。制約を受けたくないと、昨年の約100社から一挙に減った由)の代表は、 送り手として反省する点もあるが、成人向けの雑誌を買わないように 青少年を育てるべきではないかとし、 全国雑誌自動販売協議会からは、自販機を使用してほしいと訴えていた。
 自販機業界にも自主規制があるものの、組織率が低く、悩みはつきないようである。都の調査では、49業者(2,830台)のうち、 大手6社で約62%を占め、あとは1社に1台というのが多いという。

送り手・受け手―大人としての責任

 今年2月25日に代々木・国立オリンピック記念総合センターで行われた、57年度「青少年育成国民会議―青少年と環境に関する懇談会―」(6分科会)には、 出版倫理協議会から議長はじめ、各団体の委員が参加し、活発な討論を行った。特に第2テーマ「青少年向け及び一般出版物と青少年」については、 雑誌協会長野倫理委員長ほか少年向け週刊誌から3人の編集長が出席、送り手としての意見を述べた。
 国民会議側の意見は総じて、良書・ためになる本・教育的なものなどを要求するが、読者である青少年は学校と塾通いに疲れ、 その息抜きに求めるのがコミック誌であり、テレビである。
 そこで、送り手として望むのは画一的な子供ではなく、個性あふれるたくましい少年たちに育ってほしい、 作家と編集者と読者が一体になって雑誌づくりをしている。各社は雑誌協会の編集倫理綱領にしたがって、それぞれ内規を持っており、 それで十分適応しているとした。
 たしかに、年々、性非行が低年齢化する中で、スキャンダル・性情報とマスコミが"提供"する話題は豊富である。
 それを大人として、ただ、良い悪いというだけで、「大人が楽しんでいるのに、子供(未成年)が楽しんではいけないのか」との問いに、 明解に答えられない現状をどう考えるのか。家庭でのしつけをはじめ、受け手側の"倫理基準"こそ求められてしかるべきではないだろうか。 〔日本雑誌協会事務局・橋本健午〕

「マスコミ倫理」第299号(1984〈昭和59〉年9月25日)

[出版界]"青少年"を人質/出版の自由に危機感

 出版界、とりわけ雑誌にとって暑い夏はまだ終わっていない。
 2月14日の衆議院予算委員会で、一部ティーン誌に性表現上行きすぎがあると問題にされ、ただちに自民党が"有害図書類規制法案"を発表、 国会に上程しようとした。
 野党の同調が得られず、立法化が難しいとなると国会決議に切りかえられ、前国会終盤近く、 8月はじめ"有害図書類から青少年をまもるための決議案"が与野党間で検討されたが、これも審議未了となった。
 とはいえ、次の通常国会で再燃する恐れもあり、楽観は許されない状況である。

用意周到だった政府自民党

 ことの起こりは直接的には、昨年11月はじめの文部政務次官らと日本雑誌協会(雑協)倫理委員会との懇談会がキッカケだが、 それ以前にテレビ関係者から政府自民党への"ご注進"があったとか。
 この種の問題は「4,5年周期でくりかえされる」(布川角左衛門・出版倫理協議会=出倫協=議長)のだが、 今回は一般の父母や育成関係者からの声が聞かれなかった。それだけ政府自民党の用意周到ぶりがうかがえ、 広告税・事税税・物品税課税問題などマスコミへの締めつけと深く連関している。先の予算委での中曽根首相の答弁も巧妙である。
 「全国の父母は、自分たちは何ともできないが、政治家がなんとかしてくれると考えている、と思う。 憲法上の出版・言論の自由は考慮しなければならないが、青少年を有害な環境から守るためには、立法も辞さず、 行政措置を至急検討したい」(朝日2月15日付)。
 これに呼応して、2月末に開かれた青少年育成国民会議では、例年とちがって少女誌問題が中心となり、 条例強化を望む声が一段と高まった。各県では"有害"図書の指定件数が普段より増え、 3月には極めて異例なことに書籍『悪の手引書』まで緊急指定するエスカレートぶりを見せた。
 マスコミは一斉にこの問題をとりあげ、教育関係者・有識者・一般市民を含め、立法化への賛否、 少年少女をとりまく環境等について、繰り返し繰り返し論じられた。

出倫協はじめ出版界の対応(全文省略)

性表現のあり方求めて誌面点検(全文省略)

青少年抜きの論議は不毛

 社会環境は大人にとっても必ずしも健全とはいえず、風営法の大幅な改正を促し、広範囲にわたって取り締まりが厳しくなるという現実が一方にある。 娯楽が少なくなり、楽しみが減ると文句をいう大人は、少年少女の"非行"を非難する資格があるだろうか。
 子供の社会は大人社会の反映でである。法の規制による前に、大人としてやるべきことがある。
 出版の自由があるように、見たいものを見る自由、見ない自由もあるはずだ。この自由を享受するのは判断力であり、 雑誌やテレビの影響をうまくコントロールするのは知恵である。青少年に判断力や知恵をつけさせるのは、 家庭や学校の責任であろう。
 彼らが何を考え、何に悩み、何を欲しているのか、それを的確にとらえるのも父母や大人たちの義務ではないだろうか。
 送り手(編集者)だけが(表現方法に多少の行きすぎがあったものの)彼らのニーズに応えていたというのでは寂しい限りである。
 当事者の少年少女を抜きにして、雑誌が悪い、環境が良くないという議論は不毛でしかない。〔日本雑誌協会事務局〕

 *番外≪昭和59年度「青少年と環境に関する懇談会」≫「第一分科会 テレビ」の報告(青少年育成国民会議主催…『マスコミ倫理』昭和60(1985)年3月25日・第305号所収)。new!!
 私は本来、出版関係の分科会に出るべきだが、この年まで三回続けて「テレビ」を傍聴している(無署名)。

 各県からPTA、婦人団体関係者をはじめ青少年問題に取り組んでいる人たち約三十名が出席、業界側は番組向上協、 民放連、NHKに在京五社の民放代表ら十一名が参加した。オブザーバーとして郵政・労働・厚生・総務の各官庁担当者が各一名。
 冒頭、司会者の「昨年も出席した方は?」との問いに、三名ほどしか手があがらず、「各県の皆さんは要望したことが、 その後どうなったかを確認しなくてもよいのですか」といわれ、にわかに会場が静まってしまった。
 「少年少女を主人公とするドラマの意図は?」から、アニメの再放送、CMの音量、幼児番組での悪いコトバ、 アイドルタレントの服装や髪形に至るまで"さまざまな注文"が出された。
 NHK番組と比較、いつも各民放はヤリ玉にあげられるが、「トウナイト」や「11PM」「全員集合」「キン肉マン」など番組名も決まっている。
 今年がIYY(国際青年年)ということで、各局ともそれに関連する企画を用意していることや、動物や自然についての番組や少年少女を主体とした番組について説明。 これには出席者は教育番組のテーマ以上に賛成していた。
 このほか、各地の出席者から、岐阜県などモニター制度による"俗悪"番組の指摘や大阪でのロマンポルノの放映中止など、 地域での活動状況も報告された。また、テレビを子供たちがうまく利用する活動についての発言もあった。 しかし、全体を通じて子供たちにとってテレビはこうあってほしいとのお願いごとが強かった。
 ある年輩者からの「NHKをはじめ各局は21世紀をになう青少年を育てるような番組づくりに努力してほしい。 しかし、今やテレビは一家に三台の時代で子供部屋にもある。しかも、母親の半数が仕事で外出しており、 子供は送り手の意図を理解できないから、番組に配慮を願いたい」という発言は、テレビなしの生活が考えられないことを物語っていた。
 家庭でのしつけを"放棄"してしまった、豊かな国の心貧しいお願いごとと言ったら言いすぎだろうか。

「マスコミ倫理」第***号(昭和60年分は手元になし)

「マスコミ倫理」第323号(1986〈昭和61〉年9月25日)

出版界今こそ送り手の自覚が/性の"解放"と規制強化の間で

 年々、出版物への規制が強化されているが、60年8月から10月にかけて警視庁管内や神奈川県警でアダルト雑誌など9誌がワイセツ物として摘発され、 版元責任者が逮捕されたりした。
 これらの版元はその6月に成人向け雑誌出版社33社で結成された出版問題懇話会のメンバーであるが、 きわめて異例だったのは取次の仕入れ担当者も被疑者として取り調べられたことである。
 11月に、出版倫理協議会は、警視庁より申し入れのあった「出版物の現状に関する懇談会」に布川議長ほか十数名の委員が出席し、意見交換を行った。
 席上、警察庁は各種実態資料をもとに、とくにこの2,3年を非行の戦後第3のピーク期ととらえ"テレビの普及、 雑誌の氾濫"をその原因の一つとした。これに対し出版側は原因だけをならべても、なんの解決にもならない。 子供の非行を防ぐには子供の心の痛みを知り、それを取り除いてやらなければ……。悪書や有害図書ばかりをいうが、 それらは出版物全体からすればごく一部で、良書もたくさん出ている。青少年の健全育成のためにということでは、 我々も同じ認識を持っていることを強調した。
 先の取次担当者の取り調べについて警察庁は、流通の流れを確認するためで、明らかにワイセツ物であるとの認識があれば、 取次の段階で止めるべきだとし、刑事罰を課すときは末端だけでなく、根源まで遡るとの見解を示した。
 これは行きすぎると"事前検閲"のおそれもあり、出版倫理協議会では今後とも、内部連絡を密にするよう申し合わせている。

肝心の「青少年」を忘れていないか

 ところで、10月に各都道府県の青少年条例による有害図書販売規制にも影響を及ぼすと見られる判決が出た。 最高裁大法廷は福岡県青少年保護育成条例に関する違憲訴訟判決で、同条例に定める「青少年に対する淫行・わいせつ行為の禁止」を合憲とする判断を限定付きで示したのである。 (これを受けてか、淫行処罰規定のない都条例について、鈴木知事は見直しを関係審議会に諮問、千葉県は12月、処罰規定を盛り込んだ条例改正を行った)
 12月、総理府は性意識に関するアンケート調査結果を発表。性の"解禁"には20%が賛成だが、一方、54%の人々が週刊誌の行き過ぎを指摘しているとした。 送り手側からすれば信じられない数字だが、見たい自由、見たくない自由とのかねあいの難しいところである。

今度は「広告」が、…からめ手の当局サイド(全文省略)

CVSでの販売中止 アメリカでも日本でも

 4月に東京都は「雑誌委託販売店及び雑誌自動販売機の実態調査結果の概要」を発表した。 コンビニエンス・ストア(CVS)ついては、雑誌も多く売られており、青少年に与える影響が大きいとして、 都は全国展開の大手など約20社を呼んで"自主規制"を要請している。
 米国CVSの最大手セブン・イレブンが「プレイボーイ」や「ぺントハウス」の販売中止に踏み切ったというが、 日本にも波及し始めており、日本雑誌協会では6月初め「最近の倫理をめぐる状況について」のレポートで報告している。
 6月、出版倫理協議会は61年度前期「要注意取扱誌」48誌を指定し、公表した。
 7月、大手新聞社発行のカメラ雑誌の別冊写真集で、ヘア・性器の露出写真が多く見られるとして、 警視庁はワイセツ容疑で同誌編集人を事情聴取している。

雑誌協会の倫理活動(全文省略)

 以上、主として性表現を中心とした動きを概観してきたが、アメリカでは最近「ポルノ報告書」が発行され、 全米をポルノ規制か表現の自由かの大論争に巻き込んでいるという。米政府の意図はポルノ規制だが、その動きが、 同日選挙後とみに保守化傾向の強い日本にも飛び火し、規制強化の火種になることをおそれる。〔日本雑誌協会事務局〕

*番外≪昭和61年度「青少年と環境に関する懇談会」≫「第二分科会 青少年と出版物」に関する報告 (青少年育成国民会議主催…『マスコミ倫理』昭和62(1987)年3月25日・第329号所収) new!!

子供の立場から考える大切さ/「青少年と出版物」

 昨年まで青少年向けと一般・成人向けに分かれていた分科会が一本化されたが、育成者側の出席は三十数名と例年より少なかった。
 出版界から出版倫理協議会およびその構成団体(当協会・書協・取協・日書連)の代表のほかに、出版問題懇話会が初参加した。
 育成者側のアンケート回答をみると、その活動状況と成果、業者団体への要望・苦情などに、地域ごとの特長がうかがえる。 総体的には販売に関するものが多く、書店(組合)との話し合い、自販機の撤去運動、コンビニエンスストア対策など、 "有害図書"の排除に力をそそいでいる、と憂える。
 一方、"優良図書"の推奨には積極的で、日書連が主催して昨年から始めた「サンジョルディの日」(4月23日、全国9カ所)の図書普及キャンペーンについては、 大いにPRしてくれと要望が出た。
 最近は24時間営業のコンビニエンスストアが全国的に増え、青少年の溜り場となり、非行の温床となるのではと懸念されている。 そのような店ではよく売れるマンガや成人向けが多くなっている。
 ある育成者はコミックも目の敵にして、これらが店の入り口近くに置いてあるのがいけないという。店長に話しても、 ラチが開かないと、不買運動を起こす準備をしているとの報告もあった。
 性表現等について―本来、自主規制は自ら行うもので、それが公表され、第三者がとやかくいうものではないが―出版問題懇話会が、 この日の印刷物に、その罰則をも含め掲載していたために、話が混乱した。
 育成者は当協会に対しても、違反が何件で、どのような雑誌がどの罰則を適用されたかを明らかにせよというのだ。
 当協会では月二回の通覧作業を行い、当該編集部に意見を求める際にも、青少年への配慮について問うのであって、 表現についての具体的な指摘は行っていない。
 青少年を思う気持ちは同じだろうが、議論はいつもかみ合わない。青少年の悩みや心の痛みを、大人や行政の立場からではなく、 彼らの立ち場から見直してはどうかの当協会からの提言に関し、自分たち育成者や行政を無視するものとの反論があった。
 青少年を論ずるとき、いつも彼ら抜きに行われるところに問題があるのではと思う。"有害"とは何か、何が"有害"なのか、 そう安易に決めつけられるものではないのだから。(日本雑誌協会事務局・橋本健午)
 ≪昭和62(1987)年3月2日、東京の国立オリンピック総合センターで開かれ、全国各都道府県の青少年健全育成担当者約150人が参加。 テレビ、出版物、映画とビデオ、雑誌自動販売機、ゲーム場、スポーツ新聞の5分科会にわかれ、各業界代表と意見を交わした。≫

「マスコミ倫理」第334号(1987〈昭和62〉年8月25日)

[出版界]「青少年と性」をどうとらえるか/日本雑誌協会の倫理活動を中心に

 編集倫理委の下に、(1)綱領委、(2)人権委、(3)少年少女委がある。(1)は倫理全般にわたり討議し、会員誌通覧作業(後述)に関する担当委であり、 (2)は報道と人権にかかわる諸問題についての窓口でたとえばビートたけし乱入事件に関連して取材のあり方について何度も討議を行っている。 (3)は読者投稿欄など、少女誌等の性表現が行き過ぎにならないよう注意を促している。

日常的に行われる自浄行為(全文省略)

青少年の実態把握が先決

 今の日本の社会状況、性と青少年を取りまく環境をどう捉えるかは各人各様であり、立ち場によって受け取り方に違いがある。
 今年5月に公表された、ある都の諮問機関の中間報告は、現代青少年について"この数十年の間に彼らの発達過程で「性成熟の早まり」と 「社会的成熟の遅延」という、二つの「成熟のギャップ」が青少年にさまざまなストレスを加え、不適応行動を起こしている…昔に比べて性体験を急ぐ青少年や、 売春婦のような違法な性行為に走るものも次第に増えている"と指摘している。
 客観的な分析といえるが、少し前までは必ずといってよいほど、(非行)少年を補導してみれば、そのたまり場には雑誌が転がっていた。 だから雑誌が非行を助長するのだという、直截な論法がまかり通っていた。
 毎年3月に開かれる青少年育成国民会議でも、各県の育成担当者は「環境」だけを悪とし、肝心の青少年を抜きに議論する。 今年も少年少女向け雑誌や漫画から、性表現を排除すべきだという強硬な意見が出ていた。
 これについて、雑誌協会は子たちが性的好奇心を持つのは健全な証拠である。しかし、性に関するものを見たり読んだりしたからといって、 すべて性行動に走るものではない。その子なりに善悪の判断をつけて行くことが必要で、子供をもっと信頼すべきだとした。 先の中間報告でも、都条例に淫行処罰規定を盛り込む必要があるかどうかの、今回の大命題に対し、時期尚早と、むしろ、 青少年に十分な性的「自己決定能力」を備えさせることが肝要と提言している。
 青少年にとって、いちばん身近で大事な「環境」は家庭であり学校であるが、性風俗環境を野放しにしているところも問題である。

人権への配慮を慎重に

 最後に人権について――昨今、他メディアからの批判だけでなく、日弁連や市民団体の動きも活発になってきた。
 雑誌協会では人権委員会を中心にひんぱんに会合を開き対応している。真摯に受けとめるべきものもあるが、 中には言論の規制に加担するような動きも見られ、慎重に対応することがますます重要になってきたと考えている。
 「成熟のギャップ」を乗り越えなければならないのは青少年ばかりではないようだ。〔日本雑誌協会事務局・橋本健午〕


ご意見等は・・・ kenha@wj8.so-net.ne.jp