出版倫理・青少年問題・目次へ

「出版倫理」 ある年次報告について (その2)

橋本健午


「マスコミ倫理」第341号(1988〈昭和63〉年3月25日)

*番外<青少年と環境に関する懇談会>が3月8日、東京の国立オリンピック記念総合センターで開かれ、 全国都道府県の青少年育成担当者約180名が参加、(1)青少年とテレビ、(2)青少年と出版物、(3)青少年とゲーム、 (4)青少年とビデオの4分科会に分かれ、各業界代表と意見を交換した。ここでは、私の担当した、(2)の報告のみ取り上げる。

[出版界]「青少年と出版物」自主規制の実態について説明/「悪のマニュアル」で論議

 ここ数年の"出版物"の分科会は、昭和57年度「青少年向け及び一般」と「成人向け」、58〜60年度は「青少年向け」と 「成人及び一般向け」と二つに分かれていたのが、61年度から単に「出版物」と一本化された。
 これは、時代とともに雑誌は多様化しているものの、青少年をとりまく性表現問題は一つであり、分科会を細分化することに無理があるからである。
 とはいえ、今回各県から参加の50人を超える育成者より寄せられていた意見・苦情は、かなり具体的で、少年少女向けマンガ、 青少年向け雑誌、投稿雑誌、美少女ポルノコミック等、一般単行本、一般週刊誌及び若者向け雑誌、成人向け出版物に分けられ、 また、販売方法について書店やコンビニ店への注文があった。
 分科会そのものは例年に比べ、発言者の数も少なかったが、全体として意義のある会であった。
 前半は各団体の活動報告を行う。出版4団体で構成する出版倫理協議会(布川角左衛門議長)では、総務庁が四半期ごとにまとめる"有書図書類"の資料をもとに、 年2回行っている「要注意取扱誌」の指定作業を行っている。
 これについて、"後追い整理協議会"ではないか、との発言もあったが、布川議長は「育成者のみなさんの日常の努力を評価し、 それを尊重するものである」とし、現に指定された雑誌は書店での扱いが減少するなど、効果をあげていることも説明された。
 ある県で、指定されたものについて当該版元に何度も文書を出したところ、やがて内容が改善された、という報告もあった。
 また、自主規制ゆるやかになっているとの批判があった。青少年の現実は、編集者の想像を超えるところまで進んでいる。 しかし、青少年への配慮は怠っていないとした。
 これらは雑誌についての議論だが、単行本「悪のマニュアル」についても時間がさかれた。昨年10月に発行され、 現在26都道府県で有書図書の指定を受けている。内容は強姦、殺人、盗みなどの"悪の手口集"で、版元はすべて公になったものを集めただけと反論しているが、 青少年に好ましいものではない。中でも、洗剤による自動販売機荒らしの手口をまねての少年犯罪が全国的に行われていると、 オブザーバーの警察庁の係官が報告し、各県の対応に不満のようであった。
 しかし、"有害図書"であっても、条例の適用は慎重に行われるべきであり、まだ生ぬるいと中央立法化の声でも出ると危険である。
 もっとも、やはりオブザーバー参加の総務庁の担当官が最後に、「国がやるべき仕事はどこにあるか常に考えている」と、 世論による自浄作用に期待する旨の発言があった。各県、各団体のたゆみない活動こそ肝要である。〔日本雑誌協会事務局・橋本健午〕

「マスコミ倫理」第***号(昭和63年分は手元になし)

「マスコミ倫理」第***号(平成1年分は手元になし)

「マスコミ倫理」第370号(1990〈平成2〉年8月25日)

[出版界]ビデオに影響される?この一年/暴力、残酷・残虐表現にも配慮/ビデオ規制強化傾向に要注意

 昨今、活字よりもビジュァルなものがもてはやされ、出版界もビデオ関連事業が増えつつある。
 そして昨年8月犯人が逮捕された宮崎事件は、その氾罪の異常性だけでなく、ビデオの持つ魔性をも改めて認識させた。
 昭和天皇の崩御・改元・好景気などとあいまって、その春ごろまでグラビア・漫画などに見られた性表現上の配慮が、 解放感や競争からか、やや緩くなった感がある。
 また、アダルト・ビデオに関するものも、一部の雑誌で盛んとなった。ビデオ女優の写真や、さわりシーンの紹介、 広告など成人向家のもので、青少年にはどうかという点で問題視されるが、現実は彼らの方が進んでいないか。
 毎年春に開かれる青少年育成国民会議では、育成者の方から漫画、とくにコミックがひどいという声を聞く。
 コミックには、コミック誌とコミック本があり、同会議で言われるのは後者が多い。いまの若い人はビジュアル感覚であり、一気に読み、見てしまう。
 青少年が主人公になりきり、現実と混同するなど影響を受けているとすれば、レディス・コミック誌(女性向け漫画誌)であろうが、 その多くは大人を対象としたものである。
 また、育成者から、倫理綱領には、格調高く"品位"をうたっているが、現在はどうかとの発言もあった。 "品位"自体も時代の流れによって変わってきている。

販売上、青少年への配応を求める(全文省略)

内容も多様化する雑誌

 性表現・性産業紹介・性産業広告などだが、広告は通販ビデオが多くなっている。(中略)
 前の1年間に比べると、性表現での指摘は、180近くと20誌ほど増えた。A〜C3ランクで、Aの指摘はあまりなく、 アダルト・ビデオ関係のほか、連載浸画、実生活漫画、女性向けコミックなどでの"好評につき"的なエスカレートぶりが目立つ程度。
 これは、東京都での指定でも同じ傾向で、グラビアよりも漫画誌の方が多くなっており、グラビアでは会員外の投稿写真誌に稚拙で露骨なものがある。 また、東京都で見る限り、自販機収納のものは技術的にも遅れをとり、ほとんど問題にはならないようだ。
 青少年にとって暴力・残酷・残虐な表現も配慮されなければならす、通覧作業でも、一昨年あたりから注意してはいるが、 性表現以上にその判断基準か見い出しにくい。例えば、焼死死体、事故現場などの報道写頁をどう見るかで、議論は分かれるだろう。
 怖いもの見たさの少女向けには、夏の怪談シーズンにホラーものが目につき、少年向けには妖怪、正体不明の異星人ものから、 暴力・暴行シーンのおおげさな表現など、漫画・劇画誌に見られるが、彼らは意外に"友達感覚"で受け取っているのかも知れない。

その他

 いずれにしても、時代を反映するマスコミだが、新しい分野であるビテオの普及・氾濫は、止どまるところを知らない。 各県では、青少年条例を改正するなどして、ビデオの指定に急であり、この7月、鈴木都知事も条例見直しを諮問した。 規制強化のなか、図書取締りの強化につながらないよう注意する必要があろう。〔日本雑誌協会事務局・橋本健午氏〕

「マスコミ倫理」第***号(平成3年分は手元になし)

「マスコミ倫理」第394号(1992〈平成4〉年8月25日)

[出版界]コミック本問題が中心/平行線たどる議論の中での対応

住民運動というけれど…

 90年夏から、全国的に急激に広がった"有害コミック""少年少女向けポルノコミック"排除運動は、 「ようやく落ち着いてきた。業界の自粛と住民運動の成果である」と総務庁青少年対策本部次長は話していたが ……(7月25日放映のテレビ東京『タイム・アイ92親子の対話・防げ青少年非行』で)。
 91年1月、出版界では、刊行するコミック本によっては表紙等に「成年コミック」マークをつける、ことを申し合わせた。 内容が青少年に好ましくないものにこの識別マークをつけ、書店等では他と区別して置き、青少年へ売らないように、という趣旨だった。
 ところが、新聞等の報道でマーク付=有害図書との印象を与えてしまったため、マーク付のものは予期したほど増えず、 十数社約70件にとどまっている。
 もちろん、今後マークをつけなければならないようなものは出さないという社もあり、 また出倫協内に外部の有識者2名を含む「コミック特別委員会」を設置し、91年10月から「勧告」措置をとるなど、 自粛はかなり徹底しているが、自民党・警察関係などの一部には、まだ不十分との声があるようだ。
 和歌山県・福岡県等で火の手が上がり、またたくまに全国に波及した排除運動は、「子供を守る親の会」 (ある新興宗教の下部団体)の組織的な動きであった。一方、法制化を目論んだ警察庁の指揮のもとに、 全国の警察署内に事務局を置くという「母の会」が中心となって、排除・摘発がくりかえされた。 ≪訂正:「母の会」は警視庁管内の警察署だけ≫
 青少年を有害環境から守るという大義名分のもとに展開されたこの運動に、目を白黒させたのは当の出版界、 とりわけコミック本発行社であった。
 しかし、"有害コミック"や"少年少女向けポルノコミック"などを出版しているという認識はだれにもなかった。 "少年少女向向け"の"ポルノコミック"などあるはずがないと(もっとも、身内の週刊誌からも批判されるようなものもあったが)。
 指摘された中には、表紙や絵柄に子供が描かれており、大人顔負けの不自然で露骨な性描写のものがあった。 現案には、二十歳前後のクライ青年たちを主な読者とする"ロリコン"漫画なのだが、初めて手にする大人たちにショックを与えた。
 そして、こんな漫画を出す出版界はけしからんとなり、コミックとつけば何でも有害だと、自治体に条例強化を迫るだけでなく、 地元選出の代議士にも働きかけ、地方議会や中央の省庁に陳情、講願活動が活発に展開されたのだった。

"民主主義的"手続きの怖さ

 91年2月自民党内に「子供向けポルノコミック等対策議員懇話会」が設けられ、同時に加藤政調会長名で"請願の書き方"が配布され、 やがて立法化を含む図書規制の講願が衆参両院に届き、同年5月の第120国会で衆議院5件、参議院4件の請願が採択された。
 このような"民主主義的手続き"にのっとり、やがて12月には、それまで業界の自主規制を尊重して個別指定すらなかった大阪府・京都府・広島県で、 緊急・包括指定などを含む厳しい条例改正が行われたほか、年が明けて岩手県・青森県でも強化改正された。
 コミック本の規制に慎重な態度をとってきた東京都も例外ではなかったが、都議会で講願が採択されたものの、 出版界の新たなコミック本に関する自主規制(「勧告」制度)を評価し、野党などの表現の自由を擁護する意見や青少年問題協議会の意向を尊重し、 審議会に小委員会制度を設けるなどの、小幅の改正にとどまった(今年3月)。

他メディアの受け止め方

 91年の夏ごろまでは中央紙も紙も"有害図書続出"などと書き、テレビでは興味本位に扱うなどしたため、 国民の関心は高まったかに見えた。秋口から大阪等の条例改正の動きに対し、出版界では自粛の成果を説明し条例強化反対を訴える一方、 現地を訪問して自治体をはじめマスコミにも現状を訴えた。
 しかし、地元紙はともかく全国紙(地元紙)の関心は薄かった。府政記者クラブに所属していても、まったく知らないという人もいた。 他に比べて小さい問題だと思ったのか、自治体が巧妙に操作したのか、"有害図書追放"の字面どおりに受け止めて、やむをえずと思ったのだろうか。
 "有害図書追放"は全国的規模だが一部の人たちの"運動"であり、その標的にされたコミック本は主として大人向けのもので、 警察等の主張する青少年非行との"因果関係"も顕著には現われていない。ほんとうに青少年に"有害"なのか、青少年はどう思っているのか、 だれもその声を聞いていない。またしても"主役"不在の論議であった。
 しかし、結果として青少年を"人質"にして条例が改正強化され、その運動の"成果"はとりあえず上がったといえる。

出版界の対応と今後の動き

 これまでも出版社は編集段階で内容をチェックし、単行本化にあたって修正をほどこす、指定されたものは出荷停止にする、 マークをつけて出すなどの自粛をしている。回収をしたものや、発行を取り止めたケースもあり、経済的な打撃をうけた社も少なくない。
 取次会杜は小売書店等への配本に際し、青少年への配慮を怠らないように注意を呼びかけ、書店では従来にまして、 成人コーナー、成年コミック・コーナーの充実をはかり、対面販売を励行し、青少年には売らないように心掛けている。 またコミックを専門に出している出版社では改めてマークを付ける、青少年の手の届かないように書店に専用コーナーを設置するなどの方策を検討し始めた。
 規制側の最終目的は立法化=出版規制であり、いままた事業税の減免措置の撤廃をとゆさぶりをかけてきている。 これは他のマスメディアについても同様であろう。
 自粛が不十分、指定件数が減らないというのは、住民の"たゆまぬ努カ"に自治体が応えているからである。 改めて"有害"とは何かを考えてみてはどうだろうか〔日本雑誌協会事務局・橋本健午氏〕

「マスコミ倫理」第406号(1993〈平成5〉年8月25日)

[出版界]コミック本規制問題 自主規制の成果と問題点

"コミック本問題"調査報告書に見る現実とのギャップ

 90年の夏から、社会的な話題となった"コミック本問題"の経過と現況についてご報告しよう。
 出版界はこれまでも青少年への種々の配慮を行なってきたが、昨年8月に出版倫理協議会長名で、当協会・書協など構成四団体の長にあて、 出版社・取次会社・小売書店に改めて自粛の趣旨徹底を要望した。すなわち、青少年にふさわしくないコミック本には「成年マーク」を付ける、 成人コーナーのない書店にはそれらを送品しない、などである。
 「成年マーク」付は、今年5〜7月には成人向け出版社を中心に一五社から八六点発行された。
 また、取次協会の調査(93年4月)によれば、全国で「成年マーク」付コミック本などの専用コーナーを設けた書店は前回調査(91年9月―37・5%)に比べ、 59・9%と大幅に増加してきた。
 出倫協では、都道府県で指定されたコミック本についての自粛勧告措置を都指定は91年10月から、他は93年1月から実施している。
 出版界の自粛の成果は、条例による"有害図書"の指定件数の大幅な減少からも証明される。
 〔参考〕総務庁青少年対策本部の集計データにより、三年間(91年〜93年の1月〜3月平均)の比較(省略)。

かなり恣意的な指定の状況

 ところで、指定は各自治体の"自主性"により行なわれている。
 90年10月〜93年3月まで三〇か月間の前記データによると、総数では前半が六〇七〇件、後半は四四二六件と約三分の二に減少し、 中には宮城県のように前半三六二件に対し、後半は三七件と極端な例もある。
 全体的に多いのは青森六九七件を筆頭に島根六五一、静岡五一六、和歌山四九八、大分四七四と続き、少数派は徳島二二、 奈良四七、東京五四、神奈川六〇など。
 昨年4月に改正条例が施行された京都・大阪・広島はそれぞれ五四・六五・一二二件である。
 自主性によるのだから、"指定に熱心"なところがあってもよいが、バラつきがありすぎないか?
 中には"魔女狩り"的な運動を展開しているところもあるようだ。一例をあげれば、特定の出版社のものを"狙い撃ち"する自治体もあることが、 先の総務庁のデータからもうかがえる。

作為的な規制運動が…

 90年夏から秋にかけて和歌山・福岡両県の母親たちが、いち早く立ちあがり、出倫協へも積極的に働きかけてきた。
 同年11月に久留米市の母親たち数十人から"ポルノコミック反対"のハガキが、91年3月には田辺市の住民から二〇〇通以上の抗議のハガキが、 同じく兵庫県加西市の住民を中心に"出版の自粛、販売方法の改善"について二万三千余名の署名が届けられた。
 これらには警察と密接な関係にある「母の会」系と、ある宗教団体を母体とした「子供を守る親の会」系のものがあり、 文面が全く同じなど、いずれも組織的な運動であることが分かる。
 一方、各種団体の自民党代議士への陳情・国会等への請願なども展開され、第一二〇国会を皮切りに請願の採択が多数行なわれ、 条例強化に拍車がかかった。
 91年2月に自民党内に「子供向けポルノコミック等対策議員懇話会」が結成され、同じころ幹事長名で請願書の書き方が同党の全国会議員に配布され、活用された。
 都内の規制派の請願・陳情文書の分析を見ると(91年5〜92年3月)、総数一九四件(うち二二五件が91年12月に集中)のうち文章が存在する七七件中、 七一件が同一か極めて類似の文面であった(「ポルノコミック問題調査研究―都区内規制派・反規制派調査研究報告書―」〈中央大・矢島ゼミ〉93年3月)。

本当に青少年に有害か

 大阪など二府一県で条例の改正・強化の際、非行少年とコミック本の因果関係が大きな理由とされたが……。
 中・高生とマンガの影響についての「青少年とマンガ・コミックスに関する調査」(〈財〉日本性教育協会92年6月)によれば、 性行動の有無ではマンガ雑誌の読書傾向の違いはなく、むしろアダルトビデオの影響が大きいという。
 また今年6月末、総務庁は「青少年とポルノコミックを中心とする社会環境に関する調査研究報告書」を公表した。 ポルノコミックと暴カ・性衝動に短絡的には因果関係はないと分析し、親の半数は「読むのは止むをえない」としている。
 ところで、今回問題とされたのは、成人向けでありながら、少年少女向け・コミック誌・コミック単行本(漫画)と決めつけられたものである。
 現実には、"少年少女が主人公でセックス場面の多いエッチなマンガ"(総務庁・調査の際の定義)もあったが、"子供向けポルノコミック"などは存在しない。
 ところが、6月末の閣議である大臣から、唐突に「ポルノコミックの性描写が過激である」との発言が飛びだしたり、 まだ巷に氾濫しているなどの報道も見られる。
 現実をどこまで把握されているのか、かなりのギャップを感じざるをえない。〔日本雑誌協会 橋本健午氏〕

「マスコミ倫理」第418号(1994〈平成6〉年8月25日)

[出版界]終息した"コミック本問題"

 三年ほど続けて、本欄でご報告したコミック本問題は、昨年秋ごろにはようやく終息した感がある。(中略)
 しかし、青少年への配慮に関して、小売書店は一定の評価を得ているものの、最近はコンビニ店での混売(陳列の乱れ)が、 各地で頭を抱える問題となっているようだ。
 24時間営業、深夜まで青少年のたまり場となっており、その中で雑誌も単なる商品、書店のように成人コーナーがなく、 成人向けと子ども向けの区別がない(混売)ため、子どもが手にとりやすい(のはまずい)と指摘されている。 それがただちに青少年に悪い影響を与えるというの短絡的だが、全国展開のコンビニ店はともかく、業界的には未組織で、 行政も実態を把握していないのが実情である。

倫理専門委の10年(全文省略)

時代とともに変わる……

 『悪のマニュアル』が東京都でも指定され(全国で26番目)、尊門委では残虐・暴力表現にも対象を広げたが、 青少年向けにはさほどの事例は現れなかった。裏ビデオやダイヤルQ2の広告も一部の成人向け雑誌に限られていた。
 90年夏からコミック本が全国的に問題とされると、コミック雑誌とコミック本が混同され、あらゆるものが指定対象となった。
 販売・発行の自粛、「成年コミック」マークの採用(91年―58タイトル、92年―87、93―332と増加、94年は未集計)などのほか、 指定されたものの回収などにより、一時は書店の棚からこれらのものがなくなるほどだった。
 一方、レディース・コミック誌の刊行が盛んになり、現在かなりの点数・部数が出ているが、いずれも大人の女性が読者対象である。
 昨年はヘアヌード写真集が多く出回り、それらを掲載する一般週刊誌もグラビアに工夫を凝らした。 この春、写真集が摘発され、発行元の社長らが逮捕されたり、7月には写真月刊誌が警視庁の警告を受けた。 ヘア解禁の流れと女性蔑視的写真とを混同してはならない。
 コミック本問題では、当時の自民党主導による国会請願などで国会決議がいくつか採択され、 その結果91〜92年春にかけて各自治体での条例の強化となって表れたのは残念である。

マルチメヂィア時代での配慮

 ところで、今はヘアヌード写真に関する話題が中心のようだが、青少年にとって、どんなメディアが興味の対象となっているのか。 東京都生活文化局の『ビデオ業界と自主規制に関する調査』(平成6年7月)によると、都はビデオ業界にはまだ自主規制団体がない上、 青少年に良くないビデオゾフトも少なくないとの認識により調査をした。
 それによると、アダルトものは比較的きびしいビデ倫の審査を受けてはいるが、自販機や通信販売で青少年も容易に手に入れられ、 問題があるとした。
 総務庁青少年対策本部による『青少年とアダルトビデオ等の映像メディアに関する調査研究報告書』(平成6年7月)では、 アダルトビデオ、ホラービデオ、残酷なゲームやエッチなゲームの三種の映像メディアと青少年(4地区の中高生、各2年生および保護者)の接触の実態を調べている。
 アダルトビデオは男子高校生の77%が接触し、次に男子中学生25%、女子高校生24%、女子中学生10%となっており、 「一人で見る」のは全体で60%、男子高校生ではその80%を占めるという。
 今ここで、それぞれのメディアが青少年に与える影響の度合いを論じる余裕はない。
 しかし、やがてマルチメディア時代を迎え、さまざまなメディアが複雑に絡み合うとき、各メディアが協力して青少年の健全育成への配慮を行う必要があるのではないか。〔日本雑誌協会・橋本健午氏〕

「マスコミ倫理」第431号(1995〈平成7〉年9月25日)

[出版界]多様化する社会環境/順応する青少年

 青少年を取り巻く社会環境は、年々発達するさまざまなメディアと彼らの"闘い"とはいえないか。(中略)
 今年の調査(自販機利用)では、アダルトビデオを買ったり借りたりした男子高校生は33%で、うちビデオショップ利用が67%。 男子中学生の入手経験は9%、うち約3割が自販機利用とのこと。
 一方、昨年、文部省の読書調査によれば、一か月に読んだ本は小学生は10冊だが、中学生は2冊程度(1冊も誌まなかったのは半数近い)と、 中高生の活字離れの実態が浮かび上がっている。ところが、マンガは学年に関係なく、よく読まれているという。
 最近はゲームソフトばかりか、CD―ROMまでアダルト物がはびこり、青少年も夢中になると心配してか、 今年3月には栃木・茨城両県で、これらニューメディアが"有害図書"の対象とされた。
 青少年が本を読まなくなり、テレビを見る時間が短くなっているのは、何時間も遊べるテレビゲームの方が面白いからである。

指弾しやすい古典的メディア

 さて、それらに比して、古典的メディアである雑誌・出版界の状況はどうか。
 ヘアヌード写真(集)の話題に明け暮れた昨今だが、今年2月ワイセツ容疑で逮捕されたテンメイの転向や自粛傾向、 また読者も食傷気味で全般的に下火だが、代わりに投稿写真誌などが増え始めた。
 この間、出版倫理協議会(出倫協)では昨年11月に当協会ら構成4団体に対し「青少年への配慮について(要望)」を出し、 写真(集)の扱い等に、より一層の注意を促した。
 この9月に北京で開かれた国連世界女性会議に呼応してか、フェミニスト関係の動きが活発化し、 春から夏にかけて出倫協や当協会等への働きかけがあった。
 一つは「ストップ子ども買春の会」からで、"子どもを被写体に使ったポルノグラフィーが身近な書店やコンビニで野放しになっている"が、 それらが買春や性的虐待を促すとして、「子どもの権利条約」第34条をタテに、18才未満をヌード・ポルノの被写体に使ってはならないという自主規制の要望である。 これにより、警視庁は東京都への通報で、少女が被写体めものをとくにマークしている由。
 また、日本PTA連絡協議会からは"有害図書販売規制に関する要望"が寄せられ、コンビニ等での販売を問題視している。
 数年おきに出版を取り巻く環境は厳しくなるが、出版界では、1991年から出倫協内に設置していたコミック特別委員会を発展解消し、 青少年と出版物全般を対象とする「特別委員会」(外部委員2名を含む8名)を再編し、いつでも対応できる体制を整えた。
 雑協では倫理専門委員会が毎月2回、会員誌を通覧する作業を続けているが、この委員会に限らず、 成人向けのものでも"青少年には有害だ"という議論に、出版界はいつも頭を悩ませている。

"コミック"を見直す動きが

 ところで、学校では落ちこぼれ、いじめや校内暴力、登校拒否といった問題がある。中でも、いじめたよる自殺は深刻だが、 担任は気が付かなかったといい、校長はいじめなどなかったという。自殺した子供には味方がいなく、 親をはじめ誰にも相談できなかったようだ(第二東京弁護士会、いじめ110番報告より)。
 この7月から8月にかけて、少年少女向けのコミック誌は「一人で悩むのはもうやめよう」などと、 各地の児童相談所などの"悩み相談テレホンコーナー"の存在を、それぞれ独自の扱いで知らせた(4社の週刊、月刊9誌に延べ14回)。
 自分の悩みを身近な人に打ち明けられない子供たちが、コミック誌の主人公には共鳴・共感し、 その雑誌の人生相談の回答者(人気プロレスラーなど)に悩みを打ち明けるところに着目した、 総務庁青少年対策本部からキャンペーンの依頼に応えたもの。
 実際に『週刊少年ジャンプ』では3月初めより、実話に基づくいじめ問題をテーマにコミック「元気やでっ」を緊急連載、 4月12日NHK総合では朝7時のニュースでその反響を報道している。
 このように、主たる読者である子供の身近な問題にいち早く取り組んでいる、 少年向けコミック誌の編集者は相手が子供であるだけに、常に真剣なのである。
 90年夏から起こったコミック本問題は何だったのか、改めて検証すべき時ではないか。
 なお、ここ数年来コンビニでの販売方法(混売)が問題視されているが、これは出版界だけで解決できる問題ではなく、 関係業界などの協力と対応が急がれる。〔日本雑誌協会・橋本健午氏〕

 《なお、この1995年末に私は13年3か月勤めた雑協を辞した……。 参考:当HPの「出版倫理・青少年問題」および拙著『有害図書と青少年問題―大人のオモチャだった"青少年"―』明石書店2002・11、 『発禁・わいせつ・知る権利と規制の変遷―出版年表―』出版メディアパル2005・04》


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