『戰線文庫』研究

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期せずして"戦況"を伝える編集後記と巻頭言 その2

第29号(昭和16年2月5日印刷、昭和16年3月1日発行)

 『戰線文庫』29号に巻頭言はなく「渡洋爆撃の詩 森 霞 翠」が掲載され、『銃後讀物』では「洋心を衝く」とあるが、内容はわからない。
 【巻頭言】(第4巻第3号通巻第29号)渡洋爆撃
 縹渺西方千里程/雁行連翼向長征/既呑大敵尽忠血/一挙爆摧屠陣営
 (「*右の詩は我が赫々たる海の荒鷲の武勲を讃し、海軍将兵諸士慰問の一端にもと、朝鮮咸鏡南道端川郡北斗日向大新里、 森霞翠氏より佐世保海軍人事部経由海軍省恤兵係へ送られたものであります。」と筆書きによる詩を掲載)

 〔編集後記〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 いまや、時局は、アメリカ大統領の「炉辺閑話」や「教書」の発表によつて、米国の援蒋行為は露骨となり、 太平洋の波はいよいよ高からんとするかに見えます。巻頭の平出大佐の「再編成後の米海軍と太平洋問題」は、 この国際情勢に就て語り、田代中佐の「海洋と国防国家」米田祐太郎氏の「米国と蒋介石の秘密取引」とともに注目すべき記事であります。
     ○
 さらに戦線の皆様の熟読を煩したいのは「銃後文化新体制問答」で、銃後の雑誌出版文化はどうなるかを、 雑誌出版統制の第一線に立つ方々が忌憚なく論じた近来の大文字であります。 次に平沼棋一郎男は「復古と革新」といふ早春にふさはしい時局随筆を発表され、科学界の第一人者竹内博士の 「科学する海底」もまた見遁せぬ科学記事であります。
     ○
 毎号大好評の小説は、前号に勝る多彩な顔ぶれで、まづ女流花形作家大庭さち子氏が、力作を携えて華々しく登場、 海野十三氏が得意の科学小説で奇想天外な構想を誇れば、人気作家笹本寅氏は母子二代の忠孝にからむ哀切限りない時代小説を発表され、 新鋭清水鉄也氏の「鳳雛」絢爛たる明治革新期の裏面を衝いて、波瀾万丈の社会小説をくりひろげました。
     ○
 其他「大相撲漫画回顧帳」「出直した春の映画界」は最近の新体制下銃後の話題読もの、宮本三郎画伯の銃後女性の春姿スケツチなど、 皆様にも充分興味あるものと存じます。
 さて巻頭を飾る、毎号評判の慰問原色版口絵は、南画檀の大家田中咄哉州画伯描くところの「瑠璃鳥」で、 八重桜に大和魂を表現した、皆様に贈る傑作であります。
 太平洋の波騒しく、将兵各位の任務愈々重からんとする折柄切に御健勝をお祈り申しあげます。

第30号(昭和16年3月5日印刷、昭和16年4月1日発行)〕

 【巻頭言】(第4巻第4号通巻第30号)すべては太平洋に通ず
 ドイツ、三月本土上陸作戦!
 アメリカ、つひに参戦すか?
 ――春来りなば、若草の萌え出るごとく、世界はあげて歴史始まつて以来の未曾有の狂乱が予想されてゐる。
 しかし、銘記せよ、すべての波瀾の中心が太平洋にかゝつてゐることを。云ひ換へれば、嘗てすべての道がローマに通じてゐたごとく、 今ではすべての紛争の成行は、太平洋の渦紋より生ずる。
 さらに、この太平洋の護りこそ、皇国の興廃を決する重大な鍵であることを忘れてはならない。
 国破れて山河あり、とか、また文化のみ残して、あへなくフランス敗れたり、と書き記すやうな惨めなことは、 絶対に甘受できないのだ。
 我が海軍に鉄桶の備へありと雖も、銃後も亦戦線と同じ決意をもつて、春季の危局に対処して皇国三千年の運命を拓くべき秋である。(『銃後讀物』…同一の原稿)

 〔編集後記〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 春季の危機が目睫に迫つて、欧州では英本土上陸作戦、東洋では太平洋の波いよいよ高しとの噂がとんでゐます。 この時、まづ巻頭を飾るものは、「皇軍の興廃太平洋にあり」と題して大宅大佐、田代中佐が波高き太平洋に於いて、 三千年の運命を拓くべき日本の決意を促す憂国の大筆陣を張れば、一方イギリス本土上陸作戦の噂の中で、 駐日独逸海軍武官ヴエルネル少将は「ドイツ春期対英新作戦」を寄稿され、共に必読すべき最新情報であります。
     ○
 太平洋の波高き現在、わが海の護り、軍港の姿はいかにと本誌記者は、人事局長長屋中佐に引率されてわが軍港を歴訪し、 その報告の発端として「横須賀軍港訪問記」を齎しました。以下号を追うて訪問記は誌上に掲載いたします。 切に御愛読を願ひます。さらに、世界各地を駆け廻つてゐた第一流新聞特派員が一堂に会して語つた 「世界新情報座談会」は各国の最近特種秘密が曝け出された大読物、また「太平洋波高き議会傍聴記」と共に、 時局柄必読されたいを思ひます。
     ○
 さて評判の小説陣は、文壇の花形丹羽文雄氏の「あねいもうと」の美しき姉妹〈きょうだい〉愛と哀恋、 ユーモア作家玉川一郎氏の「南洋の旧友」のたのしさ、嘱目の新進丸山義二氏の「鳳梨」〈パインアップル〉の牧歌的な美しさ、 城昌幸氏の「くろがね小唄」に新黎明期の先駆者を描いて逞しく、本誌ならではの大盛観であります。
     ○
 慰問口絵は画壇の大家川端龍子画伯が「菜種と蛤」と題して、海軍前線勇士慰問のために特に揮毫された傑作であります。
 終りに臨んで将兵各位の御健闘を祈り上げます。

第31号〜42号まで欠本

第32号(昭和16年5月5日印刷、昭和16年64月1日発行)〈神奈川近代文学館・蔵〉

 〔編輯後記〕…〔カット〕帆船、海軍旗
     ○
 思ひおこせば、Z一旒が、波高い日本海に翻つてより、星霜三十六年、帝国海軍の制海権は、渺たる東洋の島国たりし日本を、 世界の大日本帝国に躍進せしめたのであります。
 三十六回海軍記念日を迎へて、今や波は、太平洋にいよいよ高からんとしてをります。されば、海軍大臣及川大将は、 巻頭に於て、「常に待つあるを恃む」を寄せられました。熟読すべき名言であります。
     ○
 危局をはらむ欧州の戦火はいよいよ広がり、バルカンが新舞台として登場して来ました。 鈴木東民氏「ドイツはバルカン制覇後どこへ?」は今後の欧州情勢を洞察する鍵となりませう。
     ○
 さて本誌の近頃素晴らしい大収穫は、戦線慰問演芸家が一堂に会して語つた抱腹絶倒の「戦線を爆笑させた座談会」です。 これは近頃「笑和」の不足を憂慮された情報局の主催で開催された「笑和漫画展」をのぞいた石黒計七誌のユーモア記と共に大いに笑つてお読み下さい。 また本誌特派記者の軍港訪問記は、前号に引き続き、今月は呉軍港の横顔を詳細に報告いたしました。
     ○
 小説陣は先づ木々高太郎氏の興味津々の傑作小説「愛馬」を初め、北町1(ママ)郎氏の明朗小説「人形海を渡る」など、 面白読物満載の豪華陣であります。
 今月の慰問口絵「軍鶏」は日本画壇の大家奥村土牛氏が前線勇士の皆様のためにとくに揮毫された傑作であります。
 銃後では、戦線の海軍将兵各位に感謝して「恤兵強化」の種々の催しが、一斉に開かれます。将兵各位の武運長久を祈りあげます。

海軍恤兵雑誌 第43号(昭和17年4月10日印刷、昭和17年5月1日発行)

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 忍苦二十年の帝国海軍の猛訓練が、見事な戦果をあげて、我が海軍の出動するところ、大東亜海と云はず、印度洋と問はず、 忽ち敵は撃滅慴伏(しょうふく)される状態であります。国民一億の無敵海軍への信頼と感謝の念は、愈々深まり、 独伊盟邦を初め、敵味方を問はず、帝国海軍の真価実力について今さらのごとく過少評価してゐたのを狼狽してゐる始末であります。
     ○
 しかも、我が海軍魂の精華とも云ふべき特別攻撃隊の攻略状況が初めて発表されて、銃後国民に感激的大衝動を与へると共に、 全世界に驚愕の波紋を投げ与へたのであります。
 今はなき護国の九勇士の冥福を慎みて祈ると同時に、いささか本号に於いてその編集を致しました。
     ○
 さて、南方作戦は、東印度諸島は全く我が手に帰し、印度洋、豪州、ニユージーランド水域へ作戦は進展し、 第二段階戦局に入りましたが、偶々北方は春暖の解氷期を迎へて、愈々厳たる護りを固くしなければならぬ時となりました。
 我が海軍独特の特別攻撃魂を持たれる海の勇士の皆様が、南に北に東に西に、愈々御武運の長久ならんことをお祈り申上げます。

海軍恤兵雑誌 第44号(昭和17年5月10日印刷、昭和17年6月1日発行)

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 雄渾無比なる大東亜戦争下の赫々たる大戦果のうちに、はじめて迎へる第三十七回海軍記念日こそ、 まことに感慨のふかきものがあります。緒戦以来、未だ半歳ならずして、わが無敵海軍の征くところ、 立ちどころに米太平洋艦隊を撃滅し、英東洋艦隊を屠り、大東亜海を制覇し、随処に米、英、蘭、豪の連合艦隊を潰滅し、 いまやその鋭鋒は印度洋にのびて、制海権はわが海軍の確保するところとなりました。
 銃後一億の国民は、この無敵海軍への信頼と感謝に対して、如何にむくひるか、殆んどその表現のすべを知らなひくらひであります。
     ○
 思へば、今を去る三十七年前(ぜん)、日本海々戦にバルチツク艦隊を破つて、東亜における皇国の興隆を不動の基に置いたのでありました。 そして今日、盟邦独伊とともに、暴戻なる米英制覇の世界秩序を打破し、新しき世界、新しき東亜の建設のために聖戦を進めてをります。 しかも半歳にして、東亜の敵を撃滅慴伏せしめて、戦局は第二段階に入りました。この不屈の闘魂こそ日本海々戦以来、 渝(か)はりなきわが海軍の伝統的精神と忍苦猛訓練の賜ものであります。
 敵はいまや、わずかに窮余のゲリラ戦をもって、頽勢挽回をあがきつヽありますが、われらの無敵海軍健在なる限り、 大勢は最早どうすることも出来ないでせう。
     ○
 さて、本誌は海軍の第一線の慰問雑誌として、その使命の愈々重大なるを自覚し、常に戦局の推移に呼応して、 御期待に添うやう記事の充実に留意努力いたしてをりますが、尚御不満の点や御希望は、御申越し下さるやうお願ひいたします。 終りにのぞんで、御武運の愈々長久ならんことを、御祈り申し上げます。

海軍恤兵雑誌 第45号(昭和17年6月10日印刷、昭和17年7月1日発行)

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 さきに、印度洋に凱歌を奏した我が無敵海軍は、勇躍赤道越えて珊瑚海に会戦、有力な敵の航母集団を見事撃滅してハワイ海戦に匹敵する大戦果を収めました。
 かくて、このわづか半歳に撃沈した敵艦隊二百五十一に及び、その燦然たる功績の蔭には、二十有余回に亘る海戦における海の勇士諸士の辛酸たる苦心が窺はれ、 これことごとく、帝国海軍の大精神躍動の賜と、銃後一億の感激に声は鳴りやみません。
     ○
 一方盟邦独逸は、長大な独ソ戦の南方面に猛進撃を開始すでにケルチ半島を突破ソ連の誇る強要塞パルパッチ線も一瞬の間に潰え去りました。
     ○
 わが海軍の太平洋、印度洋制圧と、大西洋に於ける枢軸戦艦の活躍によつて、いまや断末魔の悲鳴を上げながら、 なほ僅かに醜いあがきを続けてゐる米英の末路も、もはや遠いことではありますまい。
     ○
 しかし、前途の苦難はまだ決してすくなしとしません。銃後も一丸となり、不抜の信念の下にひたむきに前進する覚悟です。
 わが無敵海軍勇士の御武運長久を、ひたすらにお祈り申上げます。

海軍恤兵雑誌 第46号(昭和17年7月10日印刷、昭和17年8月1日発行)

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 北方アリユーシヤン列島に対し、又もやわが無敵海軍部隊が、電撃的な攻略作戦を開始して、キスカ、アツツ両島を奇襲攻撃し、 なほ付近の諸島を徹底的に掃蕩中である事が今また、明白になりました。
 氷雪と濃霧と、これら自然の悪条件に悩まされながら、第一線の海軍勇士が如何に死力を尽くし奮戦したか、 南方戦線の燦として輝く戦果とともに、一方には、黙々として寒冷肌をきる北洋の海面を睥睨しながら、 北方鎮護の使命を果たしつヽある北方海軍勇士に、われら銃後国民は、心から感謝の念を新たにする次第であります。
     ○
 思へば昭和十二年八月十三日の上海事変勃発以来、今年は満五周年、その間、行われた海軍部隊の上海陸戦隊の活躍や渡洋代爆撃など東西大作戦の辛苦は、 われら回想するだに涙ぐましき感激湧き、益々銃後の任務重大なるを痛感する次第であります。
     ○
 今や支那事変は大東亜戦争に発展し、さらに米英に対し鉄槌を下されることになりました。 米英蒋は、展開されたわが海軍の実力の前に、滅亡の岐路を辿りつつあります。 われらますます「勝って兜の緒をしめて」邁進せねばならないと思ひます。 南方に、北方に、酷熱と氷雪を冒して戦ふ勇士に対して満腔の感謝を捧げると共に、益々御武運の長久ならんことを、 ひたすら祈り上げます。

第47号〜50号まで欠本

海軍恤兵雑誌 第51号(昭和17年12月10日印刷、昭和18年1月1日発行)

 【巻頭言】(第6巻第1号通巻第51号)新春と帝国海軍への期待
 大東亜戦下に再び新しき年を迎へて、感慨また新たなるを覚える。
 顧ればわが精鋭なる海軍が過去一ヵ年余に闘つた戦域と、打ち樹てた戦果はまことに広大であつた。 大東亜海をわが戦略態勢下に抱き寄せ、やがてその鋭鉾は北太平洋に伸び、アリューシャン群島一角の占拠となり、 東はアメリカ西岸に及び、西はインド洋の彼方まで顕現されるに至つてゐるのである。
 しかし敵米英は決して弱敵ではない。第一次ソロモン海戦以来、敵アメリカがソロモン群島を中心とする執拗な反撃は、 大東亜海の失地と資源を回復することであり、そのためには、敢へて消耗を辞せぬ強大なる補給増強の生産力をもつて、 我れに向はんと意気込んでゐるのである。
 米英徹底撃滅の精神と報国の赤誠にのみ凝結せる帝国海軍の真骨頂の具現は、今後益々期待されるところであらう。

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 不滅の戦勝記録に輝く新しい年を迎へ、先づ劈頭、前線海軍勇士様方の御健勝を慎んでおよろこび申上げます。
 かへりみると、この一年間に挙げられた帝国海軍の戦果こそ、まことに世界戦史上に比類ないものでありました。 緊密なる海軍部隊の作戦と、果敢なる海軍将士の尽忠誠心の賜は、やがて大東亜建設の朝を、誇らかに呼ばうとしてゐます。 このさ中に迎へた紀元二千六百三年こそ、我等一億国民にとつて、最も意義深い新春でなければなりません。
     ○
 さきに、厳寒アリユーシヤンに於ける凛冽たる護りが報ぜられ、今また敵の有力艦隊を殲滅せしめた、 南太平洋海戦の壮絶な戦果をきく――その二万キロに及ぶ広大な戦域に戦はれる海軍勇士の方々の辛苦には、 たヾ感激の一語あるのみであります。殊に、南太平洋海戦に於て、軍事、政治的にも大なる波瀾を見た敵国の狼狽ぶりも痛快の極みと云はざるを得ず、 茲に到って尚、財力を頼みに、あらゆる手段を尽くす彼らの反攻作戦が、今後如何に展開することでせうか、勿論我らに於いても、 前線と銃後を問はず、不抜の信念を以て、この年も戦ひぬかん覚悟であります。
     ○
 わが政府も、この程、国内行政機構の画期的改革を断行し、聖戦完遂をめざして、強靭な体勢を構へました。 すべてを挙げて米英打倒に帰一する、銃後の意気も亦壮であります。
     ○
 目ざす道は一路。
 一億一心、断々乎として、悠久の歴史樹立に、この年もまた必勝の気概を以て当りませう。
 北に、南に、海外各地で新春を迎へられた勇士様方の御健闘と御自愛を、はるか祖国よりお祈り申上げます。

海軍恤兵雑誌 第52号(昭和18年1月10日印刷、昭和18年2月1日発行)

 【巻頭言】(第6巻第2号通巻第52号)西南太平洋と東京湾の制海権
 敵アメリカは西南太平洋ソロモン群島方面海域の奪回をもつて、わが大東亜共栄圏の一角の崩壊であると称し、 打たれても敲かれても性懲りもなく兵力を出撃して来る。
 もとより、帝国海軍の出動部隊はこれを随所に迎え撃つて、敵の有力部隊に対して遥かに劣勢であったにも拘らず、 戦史未曾有の大戦果を挙げてゐるのだ。かくの如き大海戦が連続的に行はれたことは、この方面の海戦が如何に全局的に影響する所、 重大なるかを実証している。大本営海軍報道部田代中佐の云へる如く、ソロモン海域は直ちに東京湾に通じてゐるのであるから、 この制海権を喪ふことは東京湾の制海権を喪ふことであるのだ。
 敵の反撃は日を逐って熾烈となり、西南太平洋のみならず、北洋アリユーシヤンのアツツ、キスカ両島にも敵の反撃は繰返されているが、 帝国海軍の護りは磐石であり、わが海軍と、忠勇なる将兵に対する感謝と期待は益々増大するのみである。

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 疾風の如き神速進撃――海の勇士の時をへるにしたがつて、益々その猛威をふるふ死闘精神には、我々銃後国民、 唯大いなる期待と感謝の他はありません。
 世界戦局は、益々動乱の渦巻に血腥い民族の興廃を続行して居りますが――腐敗の態勢を緒戦に依って築いた帝国は―― この開戦以来二年目に入つていよいよ最後の勝利を肝にめいじて進軍せねばならないでせう。
     ○
 戦前の戦略態勢と、あり余る南方資源を喪った敵米英は、現在南太平洋の一隅に於いて、ひたすら防戦の余儀なき立場に至つたのでありますが、 この敗戦につぐ敗戦によろめきつヽも米英は次第に戦意を高揚しつつあると伝へられてゐます。 まさに戦ひはこれから本格的な段階に入りわれわれの前にたちはだかる障碍は容易ならざるものがあることを痛感する次第であります。 この運命の岐路にあがく米英に、われわれは断乎最後の鉄槌を打ち下さねばならないと思ひます。
     ○
 云ふまでもなく、今次世界の動乱は、前の世界大戦とは異った、大きな民族の戦(たたかい)であります。
 大東亜諸民族の岐路――それは我々大東亜諸民族が長き歴史の間、敵米英に重圧に重圧されながら時の至るを待つて、 立ち上つた絶好の期であり、その意味におきまして、この戦ひは民族と民族の戦ひであり、――我々大東亜諸民族の死活の問題でもありませう。
     ○
 さて銃後は、戦線の勇士の敢闘にこたへて、生産戦に一路邁進、――各々の職場を戦場と思いあくまで、勝ち抜くまではと、 一条の信念にもえて居ります。
 最後に、海の勇士の方々の御自愛と御健闘をひたすらお祈り申上げます。

海軍恤兵雑誌 第53号(昭和18年2月10日印刷、昭和18年3月1日発行)

 【巻頭言】(第6巻第3号通巻第53号)帝国海軍への期待と米の抹殺
 広袤(こうぼう)、灼熱、酷寒の前線に於けるわが海軍将兵の壮烈なる勇戦敢闘は、南はガダルカナルより、 北はアリユーシヤンに至るまで、執拗なる敵の反撃をことごとに粉砕し、その野望に不断の鉄槌を下してゐるのである。
 アメリカのウヰリアム・ウヰンターと云ふ男が云つた。「すべての日本人を地球上から抹殺せよ。」と。 我等はこの暴慢無礼なる言葉をそつくりその侭返戻しよう。彼等の野望は他民族圧迫による世界制覇であり、自己繁栄である。 そのためにはルーズベルトは一千九十億ドルといふ予算を議会に送つて、飽くまでも野望を強行しようとするのである。 神国日本は断じてこの人類の敵をゆるしては置けない。この暴慢アメリカの粉砕は、たヾ帝国海軍将兵の敢闘に待つのみである。 我らは声を大にして呼ばう。「すべてのアメリカ人を地球上より抹殺せよ」と。

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 灼熱のソロモンより、酷寒のアリユーシヤンに至るわが所在部隊並びに航空部隊の寸刻のゆるみない攻撃精神は敵の小癪な反撃をその都度撃退し、 銃後の血を湧き立たせてゐます。
     ○
 既にソロモン海域の数次に亘る大海戦は、敵米英の最後の希望の綱を断乎として断ち、愈々出でヽいよいよ輝くわが無敵海軍の不敗の名はふたヽび、 みたび、世界を圧した感があります。
 かうして、多年悪辣な搾取を恣にした米英勢力は、命とたのむ大東亜の諸域から、遠く南太平洋の一角に追ひつめられてしまつたわけです。
     ○
 いまはたヾ残る財力のみを唯一の頼みとして、みにくひあがきを続ける米英を、グット睨んで北に南に、 不抜の護りを固められる前線海軍将士の辛苦、それこそ、銃後われわれのいかなる想像をもはるかに超えたきびしいものでありませう。
     ○
 さてこそ、この決戦二年目、銃後も全力をあげて、戦争完遂に猛進撃であります。
 増産に、貯蓄に、勤労等、あらゆる部門に於ける努力も、前線海軍将士の奮闘に比すれば、無論、まだまだ遠く及ばぬものでありませうが、 この二年間に、旧体制の衣をあざやかにぬぎ捨てた銃後陣も亦、不敗の態勢であります。
     ○
 嬉しい戦果に感激の日をやり、月を送る中、銃後はいま、清らかに匂いこぼれる梅のたよりのちらほら耳に入るときとなりました。
 やがて、陽春桜の候。
 花にまつはる武人のいさしをかずかず偲びながら、銃後鉄壁の陣中より、海にたヽかふ勇士のかたがたの、 なほ一層の御自愛と、御武運長久をひたすらお祈り申上げます。

海軍恤兵雑誌 第54号(昭和18年3月10日印刷、昭和18年4月1日発行)

 【巻頭言】(第6巻第4号通巻第54号)大戦果累積の帝国海軍
 レンネル島沖海戦に引続き、ソロモン群島方面、西南太平洋方面、アリユーシヤン方面に、わが海軍航空部隊、 水上艦艇部隊の赫々の大戦果の累積はたヾ賛嘆するのほか何もない。かくて第一次ソロモン海戦以来、日米軍が全精魂を傾け、 凄烈なる死闘を続けてゐた南太平洋戦局も、新作戦遂行に必要な基礎が固つたのである。
 この間、蒙つた敵勢力の損害は、今後の作戦に対する打撃をいよいよ高めたのである。これに比し、我方の損害は、 まことに少なかつたとは云へ、報国挺身して散華した幾多の英霊に対し、我等は慎んで感謝を捧げるものである。
 さて敵は、この損害の真相をひた隠しに隠し、あらゆる空虚な揚言をして、国民の気力を振ひたヽせやうとしてゐる。 ルーズベルトは「われ等は島から島へと攻め上つて、日本を打破する」と、笑止なお題目を称えてゐるが、 最早やわれ等は敵がどのやうな手を打って来やうとも怖れない。帝国海軍のいよいよ健在なる限り、過去のやうな打撃が、 また彼等の前に待つてゐるばかりである。

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 レンネル、イサベルと、相次ぐ海戦に、画期的戦果を収めたわが海軍部隊の赫々たる武勲は吉報待機の銃後陣に、 またもうれしい感激の嵐をまきおこしました。
 南海特有の悪天候と、長距離飛翔に悩みながら、一日もたゆまぬ猛闘を続けられる勇士達の辛苦をその蔭に偲ぶとき、 報ひられたこの戦果を聞く我々の感謝の色もまたひとしほであります。
     ○
 思へば、第一次ソロモン海戦より半年有余、その間の帝国海軍部隊の樹てられた鏤骨の作戦と海軍魂は、 遂に南太平洋に不抜の新態勢を確定しました。
     ○
 その戦果に喜び、その労苦に胸を熱くし――銃後も戦局に副って、いよいよ心構へも固く、大戦完遂を目ざして、 休まぬ前進をつヾけてをります。まだまだ侮りがたい敵米英の反攻に対応すべく、増産への協力戦、物資の持久戦と、 張切つての、総力戦です。
     ○
 時は陽春、百花こぼれる中に、やがては雲雀の声も聞こえやうと云ふのどけさながら、併し些かの弛みもない、 故国の春――さくらの香りに、つきせぬ銃後の思ひをこめつヽ、はるかに海軍勇士がたの御自愛を祈りあげます。

海軍恤兵雑誌 第55号(昭和18年4月10日印刷、昭和18年5月1日発行)

 【巻頭言】(第6巻第5号通巻第55号)光栄ある帝国海軍伝統の精華
 米英両国に対し戦線の大詔煥発せられてよりこヽに再び、第三十八回の海軍記念日を迎へんとする、 洵に感慨のふかきものを覚える。思へば帝国海軍が日本海々上に皇国隆運の礎をきづいてより三十有八年、今や、 北は酷寒のアリユーシヤンより、南は灼熱のソロモンに至る広大な海域を決戦場として、米英に対し、 相次ぐ大戦果を挙げてゐるのだ。
 しかも第二次特別攻撃隊十勇士の、抜群の武勲は天日の下に余栄燦として輝き、 さきに九軍神を仰いだ銃後一億の国民は再び十勇士の誠忠にたヾ頭を垂れるより他に知らない。 この十勇士の七生報国の敢闘精神こそ、帝国海軍の光栄ある伝統の精華といふべきである。
 海軍将兵は、常に、聖旨を奉戴し、士気益々旺盛、あくまでも敵を撃滅せねば止まぬ堅き信念をもって戦争最終目的の達成に邁進されたいと思ふ。

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 マダガスカル島デイゴ・スワレス湾と豪州シドニー港を奇襲した第二次特別攻撃隊の殊勲は、畏くも天聴に達しました。 尽忠滅私に透徹した十勇士の赫々たる武勲は今ぞ千載に燦としてかヾやき、さきに九軍神を仰いだ銃後一億の国民は、 ふたヽび十勇士の誠忠に頭を垂れました。第二次特別攻撃隊の熾烈な攻撃精神は、豪州海軍において慰霊祭を執行した事実に鑑みても、 帝国海軍々人の忠烈を遍く中外に宣揚したものと云へます。
     ○
 このとき第三十八回の海軍記念日を迎へることは、ひとしほ深い感慨であります。 大東亜民族の開放と共栄を聖旨として進む世紀の建設戦に、わが海軍に課せられた大なる使命――それを思へば、 この日前線海軍将兵の眦に浮ぶであらう決意と覚悟のかげにも、護る銃後一億の胸にも、意義深い感激がこみ上げるのを禁じ得ません。
     ○
 戦局が如何に有利に展開しやうと、銃後も亦戦場であります。勝ちぬくためにはすべてに耐え、 十勇士の精神をわが心として大東亜戦を勝ちぬく決意であります。
 春光みなぎり、身心鍛錬の好季節。海軍勇士がたの御自愛をはるかに祈り上げます。

 海軍讃歌        船越 章
  神日本(やまと)ますらたけをはいにしへゆ海の心を自がものとせり
  わたつみは母の胸かもますらをは生命のはても笑みをわすれず
  五百重(いおえ)なす潮路のかなた今日もかもかちどきひヾく大かちどき

海軍恤兵雑誌 第56号(昭和18年5月10日印刷、昭和18年6月1日発行)

 【巻頭言】(第6巻第6号通巻第56号)意義ふかき第三十八回海軍記念日
 太平洋か大西洋か、大東亜圏か欧州大陸か、その何れに作戦の主力を傾けるべきかが、敵陣営内で論議の花を咲かしてゐる時、 わが海軍部隊の作戦は休みなく、また緩みなく進められてゐる。ソロモン諸島、ニユーギニヤ島、アリユーシヤン列島、 カントン島、モレスビー港と、八方に神出鬼没の積極作戦に出でヽ、連勝の戦史にさらに輝かしい章を加へつつある。
 このとき、茲に第三十八回の海軍記念日を迎ふは意義また洵に深いものがある。
 大御稜威の下、わが前線の海軍将兵が、赫々の偉勲を樹てつヽあるのは、伝統の撃滅精神を遺憾なく発揮してゐるのであつて、 国民は斉しく感謝すると共に、銃後では戦ふ海軍記念日の数々の催しが盛大に挙げられた。 三十有八年前の壮絶なる撃滅戦を回顧し、米英撃滅の決意を新たにされんこと願ふこと切である。

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 昨夏北はアリユーシヤン列島より、南ミツドウエーを攻撃目標として、決然敢行された東太平洋作戦において、 しづみゆく艦と運命をともにし、七生報国米艦隊撃滅をねんじつつ護国の鬼と化した、山口、加来両提督の烈々たる純高の大精神は、 つよくわたくしたち国民の胸底をゆさぶり、敵撃滅への道に一億国民をふるひたヽせたのであります。 加来提督の最後にのこされた一言、東太平洋は米国撃滅への突撃路――この突撃路は南太平洋の不抜の新態勢とともに、 今や着々、帝国海軍部隊によって切りひらかれてゆきつヽあります。
     ○
 この突撃路、万波あれくるふ太平洋上にたヽかはれるみなさまに、銃後のわたくしたちは無限の感謝と信頼をさヽげると共に、 銃後のたヽかひ必勝の生産へ挺身して居ります。
     ○
 決戦態勢下銃後の雑誌は、殆どみな百頁内外となりましたが、本誌のみ現在の頁を以て、名実とも日本一の雑誌としてみなさまにおくりすべく、 鋭意努力いたす覚悟でございます。
 初夏の青葉眼にしみる故国より、勇士さまがたの御武運長久を心より御祈り申しあげます。

 山口・加来両提督の武勲を偲びて      松村 英一
  敷島の日本男児がさきがけて立つみいくさぞ神も知らさむ
  為すべきは為しをはりぬと海中に艦もろともに潜き入りたまふ
  大君のみさきつかへし益荒男の尊きこころわれらは継がむ

海軍恤兵雑誌 第57号(昭和18年6月10日印刷、昭和18年7月1日発行)

 【巻頭言】(第6巻第7号通巻第57号)永遠に輝く山本精神
 大東亜戦争の戦局は、今や本格的な決戦の段階にいり、南北太平洋において日夜苛烈なる実戦がつヾけられてゐるとき、 全国民の信望を一身にになつた山本提督の崇高壮烈なる戦死の報が、雷霆のごとく国民の耳朶をうった。
 自ら醜の御楯として南溟の空とほく、武人はかくたヽかふものぞ、と国難に殉じた元帥の忠烈をおもふとき、 われわれ一億同胞は、烈々火の玉となつて米英撃滅に邁進するを神かけて誓ふものである。 全軍将士の痛惜の情また察するにあまりあるが、されど元帥の大精神は、偉大なる力となって、全海軍をふるひたヽせ、 帝国海軍の威力をますます全太洋に発揮することヽ信ずる。
 実に大偉人山本元帥の戦死こそ、元帥が身をもつて南太平洋にあげた大東亜戦のZ旗であり、 やがて皇軍勝利への一路をかためる大礎石となり、元帥の精神は万代不易に輝くことであらう。

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 第三十八回の輝く海軍記念日を前にして、突如、連合艦隊司令長官山本五十六元帥の名誉の戦死が報ぜられました。 元帥は南太平洋戦線に於て、激戦の最前線に進出せられ、身を以て陣頭に奮闘せられたのであります。 その不朽の敢闘精神は、爾後帝国海軍将士への声なき永遠の導きとなり、米英撃滅一途の推進力とならうとは云へ、 この稀代の名提督の死は、限りなき惜別を禁じ得ず、我等等しく頭を垂れて、ふかい哀悼の意を捧げるものであります。 而して、わが海軍将兵の方々が、元帥の精神を心として、いよいよ米英撃滅に憤激せられんことをお祈りする次第です。      ○
 時、あたかも北方に於ける海軍部隊の壮烈な激闘がつたへられてをります。わが軍が北洋を攻めてから一年、 ふたヽび氷とけそめる北洋にわが海軍部隊苦心の戦闘をきく――未曾有の大業完遂のため、南に北に寧日ない奮戦をつヾけられる前線海軍将士の労苦に、 銃後一億の胸は、たヾあつい感謝に沸立つてをります。
     ○
 さて、海に涼風わたるの好季節となりました。夏をむかへ、益々奮起した鉄壁の銃後陣から、皆様の御自愛を祈り上げます。

 あヽ 山本元帥           齋藤 茂吉
 なげかむに言も絶えつヽ天地も極まらむとぞかなしみわたる
 もののふは和(のど)に死なじとさやけくも天のみなかにかくりたまひぬ
 かぎりなき勲功(いさおし)まちし国民(くにたみ)は今のうつヽを泣くに堪へめや

海軍恤兵雑誌 第58号(昭和18年7月10日印刷、昭和18年8月1日発行)

 【巻頭言】(第6巻第8号通巻第58号)興隆を堵す決戦は続く
 大東亜戦の緒戦に於ける海上権の制圧が、爾後の作戦を有利に展開し、こヽに大戦果累積となって現はれたのである。 海を制するものは世界を制する、まこと制海権の帰趨は、一国の興亡を支配するのである。決戦の現段階をみるに、 熾烈なる航空撃滅戦が間断なく続けられてゐるが、この航空決戦こそ、海上決戦の前提であり、制海権獲得への段階となるのである。 換言すれば、制空権を伴ふ制海権の確立があつて始めて、近代戦の勝者となり得るのである。
 先づ我等は、空のたヽかひに勝たなければならない。勝ち残って栄えるか、敗れて亡びるか、祖国の興廃、大東亜百年の運命が、 そこに於て戦ひきめられんとしてゐる大空――山本元帥が身をもつて示された『雲染む屍』の垂範にこたへる銃後国民の灼熱の愛国心は、 今や米英撃滅への熱火の敵愾心となって大空の一点に凝結している。
 前線の勇士また、必勝の信念のもと米英撃滅、大東亜確立に向つて邁進されんことヽ確信する。

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 大東亜戦は、まさに重大なる決戦の段階に日一日とその凄絶、苛烈な様相を濃くしてゐます。 しかし求敵必殺の闘魂にもえるわが海軍部隊は日夜敢闘を続け、ことに海鷲は寸刻も休む間もなく鵬翼を張つて敵艦隊、 船団の爆砕に、敵基地の征圧に、輝かしい戦果をあげてゐますことは、何とも心づよい限りです。 云ふまでもなく、今や大空こそは決戦場です。山本元帥も身を以って、「戦場は空だ」と示されました。 されば銃後の学生、若人たちは、続々として海軍予備学生、少年飛行兵へと志願者殺到の有さまです。
     ○
 さきに山本海軍大将が赫々たる戦死の功を勒せられて元帥府に列せられ、国民に異常の衝動を与へましたが、 こヽに又、永野軍令部総長が元帥に列せらるヽの名誉を荷はれたことは、まことに目出度き極みであります。 永野大将はわが海軍最高位にあって、活躍されてゐることであるから、海軍の威容はこヽに磐石の重みを加へ、 国民の信頼はますます厚く、真に心づよき感があります。
     ○
 大東亜戦争勃発後、第三回目の臨時議会が開かれました。此議会の与へられた責務は、 前線のますます苛烈となつてくる戦局の様相に応ずる決戦施政の方針をあきらかにすることであり、 先の議会で成立した戦力の飛躍的増強のための施政を実行するにつき、議会側に協賛をもとめた点にあります。 何しろ、三日間にわたる短期決戦議会で、休憩なしに「米英撃砕一億敢闘決議案」は、 全議場をゆるがす怒涛の様な拍手の中(うち)に可決され一億不退転の勝ちぬく決意を全世界に示したのであります。
 さて戦線の皆さまもますます御健在、御武運の長久ならんことを御祈り申しあげます。

第59号〜62号まで欠本

海軍恤兵雑誌 第63号(昭和18年12月10日印刷、昭和19年1月1日発行)

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 偉なる哉、帝国海軍! ブーゲンビル島、ギルバート諸島にあがる大戦果こそ、ハワイ海戦の戦果を凌駕するに至るものであります。 この戦果をあげた帝国海軍航空部隊ならびに海上部隊の偉勲は戦史を絶し、銃後の国民は不撓不屈勇戦奮闘された勇士に対し、 心からなる感謝を捧げるとともに、敵撃砕の急先鋒として南海に散華した幾多の英魂に、深き敬悼の意を表するものであります。
     ○
 この偉大なる戦果に酬ゆる銃後国民の務めは、一段と必勝の決意をかため、 がっちりと手を握り合って邁進することでなければなりません。次々にあがる戦果に一億は感激と感謝のるつぼに叩き込まれましたが、 全生産陣は、「われらまた戦はん」と前線につヾく戦果を、工場に鉱山に各職場に陸続とあげつヽあります。 その意気もの凄く、出勤の足取りもいつもと変る決意にあふれ、出動率爆(マ)は(マ)発的に上昇してゐる有様です。
     ○
 大戦果のうちに意義ある昭和十八年は暮れ、かくて迎へた昭和十九年こそ必勝の年であり、 全太平洋に日の丸をうち樹てるべき年でなければなりません。
 前線の勇士がたに新年の御挨拶をおくるとともに、御武運の長久ならんことを祈り上げます。

 ブーゲンビル島沖の戦果をきヽて  土屋 文明
  南(みんなみ)を仰ぎて祈る天の御神国の御神もゆきて守れよ
  箸とりて夕べの飯に向ふ間もただ思う天に戦ふ猛男(たけお)
                  逗子 八郎
 極まりて吾らなみだす米艦隊勢力の半ば屠りたらずや

 《この号あたりからか、「監修/配布 海軍省恤兵部 作製/編纂 興亜日本社・戰線文庫編纂部」となり、 編集後記ほか一部の表記がルビなし、となる》

海軍恤兵雑誌 第64号(昭和19年1月10日印刷、昭和19年2月1日発行)

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
 タラワ、マキン両島上の壮烈鬼神を哭かしむる玉砕は、われ等一億国民、限りない讃仰と、悲憤のうちに投げこまれました。 あヽ、三千の海軍陸戦隊員は、その兵力において十数倍にあたり、その火力において百幾十倍にも達するであらう敵の大軍を邀撃して最後の一兵、 最後の血の一滴まで戦ひ抜いたのであります。その尽忠の精神に対して、われらは誓つてその復讐と聖戦完遂の決意を新たにしたのであります。
 いまや戦局は、太平洋上の一大決戦に直面しつヽあります。現下の決戦の焦点はソロモン海域よりギルバート、 マーシヤル諸島へと北上して、敵はニユーブリテン島に辿りつき、その戦意は軽視をゆるせません。 しかし大反攻の豪語をする米海軍は、仰々しい大兵力集中作戦の展開にもかヽはらず、わが戦略要線の外側にあつて、 わづかに一歩の歩みよりをみせたに過ぎません。かく敵の侵攻速度を緩慢ならしめたものは、一にかヽつてわが海軍将兵の善謀と勇戦によるものであることを思ふとき、 私たちは感謝の辞もありません。
 いま、銃後は酷寒二月、如月の空には寒風すさび、春はいまだ遠くとも、前線の勇士がたの敢闘に呼応し、各職域、 各地域において生産増強に総突撃を敢行してをります。勇士の皆様も御武運の長久ならんことを、ひたすら祈り上げます。

  ☆             高濱 虚子
  大本営発表霜の威を以て 強霜といふ言葉こそ其日より
  ☆             佐藤 佐太郎
  あらはなる珊瑚礁の島に戦ひし猛きみいくさ諸人泣かむ
  千五百の兵に劣らぬまごころを大君にただ献げし御魂

海軍恤兵雑誌 第65号(昭和19年2月10日印刷、昭和19年3月1日発行)

 【巻頭言】(第7巻第3号通巻第65号)帝国海軍の善謀と時の獲得
 敵が今明年をもつて総反攻の年とするとは昨年来喧しく呼号するところである。 事実、量において如何なる打撃を蒙つても損害としない敵米国は、ますます我方に膨大なる消耗戦を挑んでゐる。
 クラウゼウイツツは、その不朽の名著「戦争論」で「守勢の利は攻勢に転ずる時機が遅いほど大きい。 極端に云へば最も受動的なものほど守勢の利益を享有する」と云ってゐるが、一昨年八月以来、ソロモン戦局は、 何れの点から見ても、われに有利であった。「時」の獲得について帝国は一年有半の貴重な日子を稼いだ。 これとりも直さず海軍将兵の善謀と勇戦による戦略守勢に成功したのである。
 しかしいま敵が執拗に続けつヽある突破作戦は、わが南方資源地帯を包括する戦力培養圏へ敵戦力の及ばんとするかに見える。
 言ふまでもなく、航空機の発達が齎した戦線の短縮によるのである。されば今、我が航空機増産の予定実現も近きにあり、 わが海軍将兵の術力と相まつて、敵が一年半かヽって侵攻した地域を、二分ノ一、三分ノ一の短期間に、僅少の消耗をもつて回復し得ると断言する。

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
     ○
 今年こそ総反攻の年であると呼号する敵は、ますます攻勢の手を強めて来ました。 敵必死の来襲を邀撃して南方戦線を頑固として厳乎として維持してゐるわが海軍の卓抜せる戦闘精神には敬服の外はありません。 それにしても敵の総反抗の熾烈さは断じて軽視をゆるされません。銃後国民も亦、戦線の勇士と共に、生活の全部をあげて敵撃破のため、 戦力増強に向って決起してゐます。
     ○
 勝つために、全般に亘つて増税される事になり、また男子を第一線に送つた後の生産陣営への女性の奮起も一段と要望されてゐます。 衣服が高くならうと砂糖の税が上らうと、一億国民はみな増税戦線への勇敢な兵士となるのです。 われわれは今こそ、この増税に応へて質素で素朴な生活を創意と工夫をこらして建設しなければなりません。 また家庭にある奥さんもお神さんも家事を切りもりする一面に、軍衣や、コイル巻きに勤労するのは、 それによつて直接戦争に参加することとなり、あはせて増税による物価高に即応し得るといふ一石二鳥の効果もあるわけであります。 女性こそ生産増強の一つの鍵であり、ひいては戦争の分岐点をなすものであります。昨年決定した男子の就職制限職種の範囲を拡大されたので、 女子動員範囲も拡大されることになつたのであります。
     ○
 かうした厳しい生活に即応してわれわれ銃後の国民は、必勝の信念をもつて敵撃滅に邁進してゐますが、 自然の推移は変りなく、早や三月の天地には春の息吹が甦つて来ました。 戦線の皆様も亦御武運の長久ならんことをひたすら祈り上げます。

  ☆             岡 麓
  今日までの勝をいはひて後に来る大決戦のそなへおこたらず
  ☆             半田 良平
  たたかひに年を重ねて盛り上るこの国力何処(いずく)より来る
  神業に仕へまつるとみ民われ身も魂もいよよ清(さや)けし

海軍恤兵雑誌 第66号(昭和19年3月10日印刷、昭和19年4月1日発行)

 【巻頭言】(第7巻第4号通巻第66号)帝国の隆替を賭す内南洋基地
 白き珊瑚礁を真紅に染め、クエゼリン、ルオツト両島守備部隊将兵及軍属は、最後の一兵、最後の血の一滴まで戦ひ抜き南海の華と散つた。 かくして洋鬼の爪牙は、遂に皇土の一角を侵寇したのである。
 マーシヤルよりトラツクへ驕敵米は内南洋深く飛び込んで艦隊決戦を挑み、こヽに我が海の生命線内南洋は、 彼我死闘の激戦場と化さんとしてゐる。
 建国以来茲に二千六百四年、我等は今こそ有史未曾有の国難に直面したのである。大和民族の存亡を賭する最大の事態が、 開戦以来二年二ヶ月、敵の太平洋中央進行企図に依り、まさに勝ちて栄えるか、滅びて山河空しく残るか、 の現実とならんとしつヽある。
 されど吾に百戦錬磨の無敵艦隊在り、銃後一億国民は今や、見敵必滅の帝国海軍に絶体(ママ)の信頼を寄せると共に、 太平洋の守護神と神鎮まる英霊に応え前線勇士の奮闘に応じ、不動の敵前国民生活を築き上げ、眦決して神州防衛の御楯とならんと深く期してゐるのである。
 刻一刻戦局重大にならんとする秋、はるかに前線勇士の御武運長久を祈る。

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
 海軍少佐音羽正彦侯爵は、クエゼリン島の激戦に壮烈なる戦死を遂げられ、またクエゼリン、 ルオツト両島守備部隊将兵及軍属約六千五百名は、皇土マーシヤル諸島を朱に染め、南海の華と散りました。 最後の一兵まで戦ひ抜いた勇士の尽忠無比の精神をおもひますとき、怒髪天を衝き眦決して復讐を誓ったわたしたちは、 必らずや英霊に応へその血の叫びに応じ、身を捨て一億その血の最後の一滴をも敵に叩きつけん決意を固くしたのであります。
 内南洋のわが皇土の一角は、遂に聖史にその比なき鮮血で彩られたのであります。戦局はまさに重大なる岐路に立ち、 わが海の生命線内南洋は、日米艦隊決戦の激戦場と化さんとして居ります。しかしわたしたちは、わが海軍が、 必らずやこの思ひ上つた米醜に一大鉄槌を加へることを固く信じて居ります。
 いまや銃後に於ても、政府の画期的な国内体制の改造強化が断行され、一切を勝ち抜く為の戦力増強へ集結し、 国民またあらゆる部面に於て不動の敵前国民生活を築き上げ、皇土をあげて武装化し、皇統連綿たる三千年の歴史を守り抜かん決意に燃えて居ります。 前線の勇士諸君また益々御自愛御奮闘の程只管お祈り申上げます。

 仇をうたでやむべしや 佐佐木信綱
  敷島の日本ますらを幾千人全員壮烈なる戦死を遂ぐといはずやも
 珊瑚礁永久にくれなひの色をまさむ日本健男が尊き血汐に
  アツツよマキン・タラワよ今はた此クエゼリン・ルオツト言ふにしのびず
  一億の胸もえたぎる仇をうたでやむべしや、仇をうたでやむべしや

海軍恤兵雑誌 第67号(昭和19年4月10日印刷、昭和19年5月1日発行)

 【巻頭言】(第7巻第5号通巻第67号)神州不滅の栄光を堅持せよ
 皇土の一角マーシヤル諸島を侵寇した敵は、トラツク、マリアナ諸島と吾が海の生命線内南洋深く食い込みニミツツ麾下の大艦隊を以て我に短期決戦を挑んできた。 敵の策する武力戦の目標は、これに依つても明らかな如く、「日本に時を藉すな」の標語のもと莫大なる犠牲をも顧みず一挙に我が本土を狙はんとし、 また我々の生産力覆滅を期する本土爆撃を敢行せんとしてゐるのである。斯様に敵米の鋒先は総てをあげて日本に集注され、 戦局愈々重大ならんとする秋、われわれは祖国の興廃をこの一戦に賭けた日本海々戦の勝利の日、第三十九回海軍記念日を迎へんとしてゐる。 四十年前吾等の父祖の頃も今も、尽忠の精神には少しの変りもないが、四十年の月日は戦争の形態を一変し銃後即戦場となつた。
 今こそ吾等一億同胞は、前線も銃後も渾然一体、祖国の隆替をになふ戦士となつて皇国三千年の伝統「神州不滅」の栄光を堅持しなければならない。 一億国民真に米英撃たずば已まぬ熱火の闘魂を燃え立たせるならば、敵の大軍何の恐るることがあらう。
<下段の絵は「晩春」矢沢弦月・画>

 〔銃後通信〕は、185ページより千切れて、不明。

海軍恤兵雑誌 第77号(昭和20年2月10日印刷、昭和20年3月1日発行)〈岐阜県立図書館・蔵〉

 【巻頭言】(第8巻第3号通巻第77号)神州断じて護り抜かん
 敵のルソン島上陸を機に戦局は愈々最後の段階に突入した。比島をめぐる、乾坤一擲を賭けての彼我血戦の様相は、 日一日と悽愴苛烈の度を増し、膨大なる物量を恃みとする敵は、戦意も鋭く執拗果敢な補給を続けつゝ、 ひた押しにルソン島へ殺到してきてゐる。
 亦B29に依るマリアナの本土爆撃も漸く凶悪の度を加へ、遂に一億国民崇敬の中心たる伊勢の神域に投弾するの不敬極まる暴虐を敢てなしたのである。
 まさに今こそ、帝国三千年の栄ある歴史を堅持するか否か、危急存亡の秋に直面したのである。 しかしながら比島周辺に於ては、わが前線将兵は全員体当り戦法を以て敵に多大の出血を与へつゝあり、 翻つて伊勢神域侵襲に対しても、銃後国民の憤激の血潮は火と燃え立つてゐるのである。もし敵が本土空襲に依つて、 一億国民の戦意を破砕し得ると思ふならば、それこそ大和民族千古に亙る純忠至誠の高邁なる精神力を解せざるも甚しきものと言はなければならない。
 前線将兵は勿論、銃後の一億同胞の総てが、戦場の、生産の特攻隊となり体当り、捨て身の戦ひを挑むなら、 必ずや敵撃滅の神機到来するであらう。そして亦、この特攻魂を吾等の子孫がその血潮に受け継ぐ限り、 日本民族は断じて滅亡することはないであらう。

 〔銃後通信〕…〔カット〕同前。同前
 乾坤一擲を賭ける比島の決戦はいまや深刻苛烈、わが前線勇士の果敢な体あたり戦法によつて、 敵の膨大な物量攻勢に対し多大の出血を余儀なくさせてゐますが、銃後にあるもの斉しく感謝の念を禁じ得ないのであります。 しかし敵の戦意もまた侮りがたく、執拗果敢な補給をつゞけて殺到しつゝあります。 いまこそ敵の物資に思ひ知らせる絶好の神機が到来したのだと、銃後国民もまた前線勇士に後れをとることなく、 体あたり戦法をもつて闘つてゐます。
     ○
 皇国の興廃を賭した決戦のいよいよ重大化せる秋、第八十六議会は深沈たる緊張の空気をたゞよはせて今開かれてゐます。 今日の戦勢の転換は、一に一億同胞のあます所のない総努力によつてのみなし遂げられるのでありますが、政府としては、 国政運営の根本態度として、いたづらに戦局に一喜一憂することなく、あくまで必勝の大道を騰進する強力な政治を具現するといふことを強調しました。
 とくにこの議会で力強く感じたことは、技術院総裁八木博士の必中新兵器論です。 「連日のごとく前線で特別攻撃隊の方々が、必死必中の体当り攻撃を続けられ、多くの若人が国に殉ぜられてゐるのを聞く度に、 非常な感激を覚えるとともに、科学技術者として慙愧にたへない次第であります。我々としては一日も早く必死ではなく、 必中の決戦兵器を造りあげるために、献身的な努力をつゞけてゐるのであります。まことに今日においては、 科学技術こそは大きな戦力であります」と淡々たる学者的態度で説く八木技術院総裁の一言一句は、満場にふかい感銘と、 将来に対する明るい希望をあたへ、議会側からは拍手の音がしばし鳴り止みませんでした。
     ○
 さて、自然ははげしい戦火を余所に、銃後には今年もまた三月がめぐつて参りました。 あゝ、美しきこの国土、母なるこの国土、我々は全力をあげてこの国土をけがすことなく護りぬかねばなりません。 前線の勇士方も、銃後のことには安んじて御奮闘あらんことを祈り上げます。

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