《私は日本エディタースクール「昼間部」の講師を10年務めたが、その間これとは別に「夜間部」でも、
文章関係の臨時講師を3期(各2回)ほどやっている。生徒は働いている若者が多いが、女性の中には30代以上の方もいた。
彼らは仕事上で、どうすればわかりやすい文章が書けるか、あるいは説得力のある文章は、などとそれぞれの"悩み"を抱えていた。
そこで、決して安くない受講料を払って、20週連続の講義を受けるのだが、回を追うごとに受講生が減っていくという状況でもあった。
理由は受講生側にある場合や、講義の進め方などに問題があるかもしれないが、昼間部での経験から"講師はサービス業"に徹することではないか、
ということだった。つまり、講義は「文章はこれが模範、このよう書きなさい」ではなく、「何を克服したいか、身につけたいか」
という個々の要望に応えることではないかと。
しかも、私が彼らに接するのはたったの2回である。そこで考えたのが、次のような「文章や文書のまとめ方」という提案である。
あとは「自分でよく考え、精進してください」というメッセージを添えて、各自の努力に待つだけであった……。》
ただ漫然と書いたものが、だれにでも分かりやすく、あるいは面白く、また感動を与えられるものであればよいが、
文章や文書はそんな簡単なものではない。
文章と文書のちがいを簡単にいえば、前者は主観的で自由に書けるが、後者は客観的で形式を重んじるものである。
以下、とくに断らない限り、両者に共通する要点である。
文章は、内容が大事なのは当然だが、第一印象によって、読もうという気が起こるかどうかにかかっている。
紙いっぱいに書いてあるが、何が要点なのか、何が言いたいのか、どこを見れば簡単にわかるのか、
などという"不満""疑問"を持たせるようでは、どんなによい内容でも、敬遠されるか減点は免れない。
では、どうすればよいか。いくつかの工夫やテクニックについて述べよう。
(ここでは、A4判の紙にパソコン等で印字した文章を対象とする)
1、形式について
(ア)見た目にすっきりしたレイアウトを心がける…
人は読み始める前に、まず"カタチ"に目が行くもの。つまり、タイトルや見出しなど、活字を大きくしたり、
装飾を施したり、改行したり、段落を設けたりして、余白の部分を設けること。いわゆるメリハリをつけるのだが、
過剰にならないこと。
(イ)何について、どういうことを言いたい、訴えたいのか…
だれでも、いきなり書き出して、分かりやすく、説得力のある文章が書けるものではない。
失敗しないために、事前の準備に時間を割こう。
主張・提言・反論・賛意・代案・感想・意見など、どの場合でも、書いたもので判断してほしい・説得したい・理解を望む、
わけだから、問題(テーマ)についての、はっきりした考え(対応)を、事前に整理することである。
○ 課題(テーマ)がある/字数(枚数)の制約もある/時間の制限もある/自分の考えか、全体(グループ、会社など)の考えかによって、 書き方はちがってくるが、事前の準備は共通する。
○ ひとつの方法をあげよう。
まず、課題(テーマ)にそって、(1)思いつく言葉(キーワード)、書きたいことなど、単なる言葉でも、
メモとして、いくつもアトランダムに書き出す。その場合、一つずつカード(名刺のウラ・名刺大の紙)などに書く。
つぎに、(2)それらをどの順序で書くかを考えながら、並べ替える。新たに加える、削ることも行う。
(3)文章の字数(枚数)が多い場合、三つか四つの部分(段落とか"章"に相当する)に分ける。
書き出すまえに、(4)仮のタイトルを書こう(考えよう)。
(5)同じく、段落とか"章"の仮のタイトル(小見出し)を付ける。
もっとも、これは1行アケするなどして、あとで見出しを付けてもよい。
それと同時に、(6)先の「(2)並べ替え」を、再編成したければ躊躇なく実行する(これは、頭の中で、文章がつながりを持って出来つつある証拠)。
では、いよいよ(7)新しい順序にそって、文章を書いていこう。この段階でも、多少の並べ替えは自由である。
☆このように、書く前の準備を十分にやれば、あまり時間をかけず、一度でまずまずの文章が出来上がることだろう。
(ウ)言葉づかいにも気をつけよう…
多くの場合、文章は相手があって書くものである。「デアル調」か「デス・マス調」で迷うかもしれないが、一般に、文書は「デアル調」で書く。
先にも触れたように、「客観的で形式を重んじるものである」から、感情の入りやすい「デス・マス調」は不向きである。
ただし、同一の紙面に数行の、手紙形式のあいさつ文「・・・について、下記のような"お願い""要望""ご提案"をいたしますので、
よろしくお願いいたします」云々を書く場合は「デス・マス調」が望ましいが、「記」以下の本文は、「デアル調」でよい。
(エ)だれに向けて、書こうとしているのか…
上記(ウ)に類似するが、もっと大事なことである。同じ内容の文章でも、相手によって書き分けるのは、
たとえば手紙を友だちや親に出す場合と、恩師や目上の人や初めての相手などでは、気楽なおしゃべり調で書いたり、
敬語に気を使ったりと、書き分けているはずである。
それと同じように、子供向けの童話調とか、同年代の不特定多数とか、専門分野の論文調とか、
相手("読者対象")によって、言葉づかい・用字用語から、文章の長さまで、書き分けるというより、意識する必要がある。
2、内容について
(ア)文章を書いていて、何故つまずくのか…
長い文章で、しかも問題点や主張などがいくつもある場合、書いている途中でつまずいたり、文章のリズムやバランスが崩れたり、するのはどうしてか。
事前の準備を十分したつもりでも、やはり混乱の起こる場合がある。それは多分、カードを細かく並べ替え、
各章ごとに分類したまではよいが、その章ごとの整理ができていなかったからであろう。
具体的にいえば、主題・説明・具体例(エピソード)、すなわち大項目・中項目・小項目の整理をつけずに書きはじめたため、
何が大事(ポイント)か、どれが補足かと迷ってしまい、自ら混乱してしまったのである。
つまり、カード並べの段階で、予測できればよいのだが、慣れるまでは、なかなかそこまでは出来ない。
しかし、解決策はある。カード並べをより細かくするのだが、また少しやり方がちがってくる。
(イ)項目を細かく分けるには…
上記1(イ)の、(1)〜(6)までを実行したあとでもよいが、並行して次のような表を用意しておくとよい。
1章 | 2章 | 3章 | 4章〜 | |
大項目 | ||||
中項目 (2〜3項) | ||||
小項目 (5〜6項) |
それぞれに、必要に応じて、振り分けていき、頭の中で順序や文章を組みたてながら、適宜並べ替えをし、
それぞれの章で、何が大事か、何が補足として必要かなどをシミュレーションするのである。
これは文章を書きながらでも、変更はありうる。つまり、より説得力のある文章に近づいている証拠である。
(ウ)分かりやすく、より説得力のある文章とは…
これまで述べてきたような手順を踏んで、文章を書いてきた。章分けもエピソードもほぼ、うまく当てはめたつもりだが、
読み直してみると、どうもしっくり来ないところがある。なぜだろう? と思うことがある。
理由はいろいろ考えられるが、(1)文(センテンス)が長すぎないか、(2)同じ表現(ニュアンス)を繰り返していないか、
(3)思い切って削ると、すっきりしないか、(4)文を入れ替えてみると読みやすくならないか、などについて検討することである。
つまり、字数(あるいは行数)は変わらなくても、見直し(=推敲)を行うことによって、より読みやすい文章となる、ハズである。
「文章は、二日にわたって書け」という所以である。 以上
《このあとに"講師"という立場から、「ご相談の場合は」など多少のアフターケアに関する事項(「e文章指導」など)を記してあるが、ここでは省略。2008・04・08橋本健午》