ひたすらコラム目次

「ひたすらコラム」 2006年1月上旬号

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「この10年(1996年〜2005年)」
 10年前の大晦日をもって、13年3か月つづけた"月給取り生活"を辞めた。53歳のときである。 その昔、色紙に「隠忍自嘲 屈折十年」と書いてから、3年以上も我慢していたことになる。 辞表には型通り「一身上の都合で」と記したが、本音は「気力を失った」からで、いま辞めなければ、頭か体がおかしくなる、 という状況だった。そして、行き先を決めてからという辞め方は卑怯だと思っていたから、先の目算など何もなかった。
 それはさておき、その後10年間の主な"仕事"を見ると、
 96年1月…共通雑誌コード普及に関し、財団法人 流通システム開発センターより"流通システム化"貢献者表彰を受ける (やっていたことは通常業務の範囲内だったが、学校以外で初の表彰状をもらう)
 《97・03最初のパソコンを導入(富士通FMV SU167)、それまではワープロ東芝Rupo》
 97年4月…古巣から頼まれ、解説書『雑誌懸賞・景品基準―97年版―』を作成
 同年7月…単行本『梶山季之』を上梓
 98年1月…単行本『わかりやすい仕事文を書く』
 同年4月より出版学校日本エディタースクールの講師に〔文章基礎実習/編集基礎実習/(夜間部)基本文章コース〕
 同年10月、単行本『バーコードへの挑戦―浅野恭右とその時代―』
 99年『出版ニュース』1月上中旬号…論文「試論・"有害図書"と出版倫理活動―ないがしろにされてきた当事者・子どもたち―」
 同年9月〜01年3月…「出版倫理・攻防の半世紀」(『新文化』連載⇒大幅に加筆修正して02年11月、単行本『有害図書と青少年問題―大人のオモチャだった"青少年"―』)
 2000年4月…単行本『雑誌出版ガイドブック』
 同年7月…論文「"史実"と"真実" 『父は祖国を売ったか―もう一つの日韓関係―』刊行から十八年経った今…」
 01年3月…単行本『会社や職場で必要とされる言葉づかいとマナーが3時間でマスターできる本』
 同年12月6日…HP「心―こころ―橋本健午のページ」を開設。当初のコンテンツは「プロフィール」「著作等」「けん語録」 「文章表現」「名入れ色紙」「出版倫理」「歴史アンケート」「リンク」の8件。
 02年…還暦を迎えるが…。前年暮れ、ある忘年会に出るため、乗った電車内で見た神社の広告に昭和17年生まれの男は"本厄"とあり不吉な予感を感じていたところ…。 正月早々から酒はまずく、後鼻漏が出はじめ、医者に行くと「肺炎」との宣告。わが"大病"は引揚げ前、5歳未満での急性腎臓炎、 ついで大学1年初夏の盲腸炎ぐらいだったから、肺炎などといわれて大いに驚く。幸い近くにあった大学病院に2か月ほど通う治療だけで何とか治った。
 その苦しいときに出した手紙により、同年4月より東急セミナーBE(渋谷)の講師に(「ノンフィクションを書こう」、 翌03年4月より「文章教室」、05・10より新設「文章 きほんのキ」も)。
 同年4月…人物論「内田良平」「梶山季之」(『韓国・朝鮮と向き合った36人の日本人―西郷隆盛、福沢諭吉から現代まで―』)
 同年8月…HP論文「(歴史を)よく知る必要がなぜあるのですか―危うい日本人の歴史認識―」
 03年10月…論文「『戰線文庫』の"公式"記録と戦時下の出版界」(保阪正康責任編集『昭和史講座』第10号)
 04年5月…論文「49有害図書の指定状況」/「50出版物のワイセツ裁判」(『白書 出版産業―データとチャートで読む日本の出版―』)
 同年『法律時報』8月号…座談会「特集 青少年保護と表現の自由―青少年法案とその周辺―」に出席
 05年4月…単行本『発禁・わいせつ・知る権利と規制の変遷―出版年表―』
 同年5月…わが師"梶山季之没後30年"を期して『電子版 梶山季之資料館』を、わがHP上で正式に開設
 同年7月から12月…解説等を担当し復刻に携わった幻の海軍雑誌『戰線文庫』に関し、多くの新聞・雑誌でとりあげられ、 また執筆もしFMラジオでしゃべり、12月7日には講演もしたが、今後も引きつづき研究を続ける責任を感じているところである。
 さて、これからのわが10年はどうなるのか。年頭にあたり、決意なぞ密かにしようと思っている?!

「多数派は強いか、どうか」
 暮れから正月にかけて、私はいささか"無常観"に襲われている。芥川龍之介ではないが、「将来に対する漠然とした不安」という感じである。 とはいえ、自殺などしそうにないのは、以下の如し。
 元旦、まことに天気悪し。それでも朝8時には、この日恒例の色紙書きを行う。文言は、その朝閃いたもので、 (戌年と、政治情勢と、家庭の事情を兼ねて)「やがていぬるか/ブッシュ・ポチ/めでたさモ/中ぐらいなり/おらが春」。 しばらくして、これまた例年通り、みそ汁を作り、ご飯を炊いて、ひとり朝ごはん。それ以降は、お屠蘇にまみれて……。
 明けて2日。関東の大学19校に、学連選抜(混成)1チームを加えた、今年82回目という箱根駅伝(往路)は、久しぶりに面白かった。 もっとも、雨に雪にとあいにくの天候で、選手諸君や関係者には気の毒だったが、5区の今井君(順大3年)の山登りは、 ここまでやれるかという意味で、痛快だった(最優秀選手となったのはメデタイ)。
 3日。箱根駅伝のつづき。駒大の5連覇はならず、亜大の初優勝もメデタイが、ただ観ているだけでは能がない。 ちょっと選手の"分析"をしてみよう。どの高校出身者がより多く、19大学の代表266名(補欠を含む)になったか、 私は酔っ払いながら調べてみた(ちなみに、年末の高校駅伝では仙台育英〈宮城〉が3連覇、 ついで世羅〈広島〉に豊川工〈愛知〉が上位3校)。
 エントリーされた19大学は、10区間の選手10人と4人の補欠を発表した。そこで5名以上の選手を出した高校を見ると、 佐久長聖(長野)9名、田村(福島)7名、報徳学園(兵庫)7名、西脇工(兵庫)7名、東農大二(群馬)6名、藤沢翔陵(神奈川)6名、 洛南(京都)6名、秋田工(秋田)5名、東北(宮城)5名の9校。
 登録がすべて"正選手"となっているのは東農大二のみだが、ついでにいえば上野工(三重)と出雲工(島根)の各4名はいずれも正選手。 これら11校の選手66名が占める割合は24.8%、つまり登録選手の4人に1人となるが、これと成績とはどんな関係があるのだろうか。
 まず、区間1位の選手の学年と出身高校を見ると。1区…中央学院大(1年/報徳学園)、2区…山梨学院大(1年/山梨学大付属)、 3区…東海大(1年/佐久長聖)、4区…順大(4年/田村)、5区…順大(3年/原町)、6区…専大(補欠、4年/洛南)、 7区…法大(補欠、2年/田村)、8区…中央学院大(補欠、4年/兵庫工)、9区…亜大(3年/常葉菊川)、 10区…城西大(3年/土浦工)と、まさにバラけている。往路は1年生が活躍し(3区、佐藤君は唯一の区間新)、 復路では補欠だった4年生ががんばった、という印象を受ける。
 先の学校別で見ると、3校4名がいい走りをしたことになるが、名門高の出身でなくても、6〜8区のように補欠であっても、 14回優勝の中大や、早大・日大(ともに12回)のような名門でなくても、亜大のような初優勝の大学はこれからも出る。
 箱根駅伝に出たい高校生諸君! これらの出身校であることは必ずしも必要条件ではない。要は、キミたちの精進次第であるぞよ、 お分かりかな(ちょっとだけ付け加えると、男子のみの洛南は05年の京都大学への進学者数が1位だそうである)。

「個人情報"過保護"」
 近ごろ流行っている? ものの一つに個人情報"過保護"がある。
 昨年4月1日から施行されたものだが、大雑把に言えば、多くの顧客の"個人情報"(氏名・年齢・住所など)を取り扱う事業者が遵守すべきもので、 個人情報取扱事業者とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者をいうのであって、それ以外は適用されないと考えるのが常識ではないか。
 ところが、不断は法律などに無関心? だった会社や学校、小さな団体などが、ネコも杓子もと"参入"してきた。 つまり、これまで個人の情報が放置同然だったのは各家庭に届くダイレクトメールやしつこい電話の勧誘などで知れわたっていたはずだのに、である。
 ある小学校では、電話番号を書けないという理由でクラス連絡網を使えなくなったとか、病院では患者の家族にも病名を話さないところがあるとか、 あるカルチャーセンターでは講座参加者の名簿は、それまでは姓名がセットで記されていたが、姓だけとなるなど、 すべて"目的外"らしく、断るのが徹底しているという。
 悲喜劇的なのは、中学3年生を対象にした「あしなが育英会」(子供たちに教育を受ける機会を)では、毎年、 対象者のリストアップに協力してきた学校側が"個人情報保護"を理由に、相次いで名簿の提出を取り止め、 受給資格者に通知できないケースが増え、いまや例年の半数も集まらないという。
 思うに、今まではどうだったのかという"反省"もなければ、この場合の情報保護と、理念である「子供たちに教育を受ける機会を」とどちらが大事か、 先生方はそれすら理解できない、というだけではすまされない問題だ。
 本来、法律があろうがなかろうが、みだりに他人のプライバシーに立ち入るべきではないのだが、 ひどいのは業務外で年金個人情報を"覗いた"社会保険庁の役人たちで、昨年7月以来処分されたのは3700人(うち"覗き"3178人)という不見識、 という一方で、この騒ぎ! なんだか日本国中、個人情報"過保護"ヒステリック状態になっている。
 しかし、本当にコワイのは、人間はダメだと言われれば言われるほど、喋りたいもの、他人を売ってでも自分だけは助かりたいと思う動物、である。 この異常反応は、いずれ"密告"にも発展する…。先に述べたように、「無常観に襲われている」ひとつは、これである。

「蛇足」
 お口直しに、さっそくの蛇足です。
 その1…「年末に味噌を仕込んだ」、「おお、ミソか!」。
 その2…「この数の子、美味しいねえ。どこの産?」、「言わない」。「ケチ! 教えろよ」、「だから、いわない(岩内、北海道)だってば!」。

(以上、06年1月4日までの執筆)


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