『心-こころ- 橋本健午のページ』「ミニ自分史」

「ミニ自分史」（10）「わがヰタ・セクスアリス」（1961･9･30記）

〔当時19歳3か月。中学1年から大阪に来て、大学受験に失敗し浪人していた。9月末の土曜日に4時間以上かけて書いたもの〕

　私は小学校時代、性に関して全く無知であったし、中学生になっても新聞・雑誌（いずれも高級なもの）や写真集からしか知識を得なかったし、本質的なことは自覚していなかった。 …いちばん始めに私に目をひらかせてくれたものは、カメラ雑誌の裸体写真や映画や興行物の裸体画の看板であった。それは私の本能に訴えた。

　…私は男女の性の構造がなぜ違っているのかを認識していなかったし、女性はどうして乳房がふくらんでいるのかということは少しも分からなかった。 …もう一つ男女の相違があることを銭湯で知った。…美術展などでも裸体画を見た。別にいやらしい感じではなかった。それらは私にとって現実の女性とは結びついていなかった。…映画も見た。さすがに素っ裸のはなかったが、外国のものはすでに肉感的なものがあった。いつの間にか、そういうものを好むようになった。期待するようになった。

　その反面、見てはいけないという道徳心もあった。外国映画では接吻する場面があるが、ああいうものを見ると、ブルブルと体がふるえた。何だか変な気がした。…学校へ行っては、そんなことは気にもならず、また友だちともそんなことは話していなかったと思う。…当時の週刊誌も今のように、少なからず扇情的な記事をのせていたが、私は自らそれを手にすることなく、買うこともなかった。

　家の近くに古本屋があって、通りすがりにもそういうのが目についたが、道徳心が強くて手にしたことはなかった。気が小さかったからかもしれない。…兄は電車の中で読むために、時々Ｏ新聞を買ってきた。どちらかというと、その方面にルーズな記事がのっていた。私はそれが捨てられずに残っているのを読むことがあった。知識がこういう方面から徐々に入ってきた。

　中IIの四月に現在の家に移ってからも、それは続いた。既にそれがオナニーだということを知った。だれでもやることで何ら不思議のないことだと知って、更にオドロイてしまった。 …受験雑誌などにもそういうことが書いてあった。普通の学生相手の雑誌にもあった。家には姉の、結婚に関する本が置いてあった。私は手を出してしまった。読んだが、肝心のことはさして分からなかった。

　中IIIのとき、実に大変な悪友がいた。…私の全く知らないことを彼らが話すが、彼らがどれだけ話に夢中になっても、私はちっとも興奮しないことがあった。彼らはすでに男女が一緒に寝ることを知っていた。 …また医者の子だが、ストリップに女しかいないのは、男の方がホルモンの関係で性欲が強いからだというようなことをいった。しかし、私はそれを見たいとも思わなかった。…姉の婦人雑誌が私の知識の元となった。

　一般に婦人雑誌は好色的だった。私は絶えず感覚を刺激された。全く安上がりのコウフン剤だった。時々つく付録が知識を増した。それから文藝春秋もあったが、これも時々知識源となった。この家に週刊誌はめったになかった。しかし、いかがわしい方のに、私は全く弱かった。…結婚についてはまだ知らなかった。とくに性交について、どんな格好をするのかおぼろげに知ったのが高IIIのころであるから、全くのろいというほかない。

　…エロ本を読む気にもなれず、どこからも知識を得られなかったからで、それらの婦人雑誌がなかったら、まだ知らなかったかも知れぬ。…そのころの私は最もケッペキ症であった。すぐ気持ち悪くなるのだ。 …しかし、そういう時期はいつの間にか過ぎるようになった。

　それから知識源は小説類に求めた。肉体小説は確かに一時的興奮を与えるが、何といっても婦人雑誌（これらは、夫や恋人と一緒に読みましょう、というキャッチフレーズのついているものだ。だから男にも読まれていいというものらしい）の体験記や手記、それにカイボウ学的な記事が多くの知識を与えた。

　それらは恥も外聞もなかったし、誇らしげに書いているような印象を与えもした。…学校の正規の授業でも、生物の教科書にちょっとしたものがのっていたが、大体のことしか分からず、細かいことはいまだに不分明であるのだ。

（2004年10月13日掲出）

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