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「ミニ自分史」(114)『悪の日記』 A HUMAN DOCUMENT  -Jan.58 to Mar.61- by KENGO HASHIMOTO その1

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表紙に、<私の日記には、“悪の日記”という題がつけられていたが、
万〔満〕更“悪”ばかりでもなかった。さりとて、“善の日記”でも
なかった。Apr.14,61 K Hashimoto>とある。扉2枚、本文78枚。

 扉1に、〈“人間記録”これは私の1958年1月から61年3月までの日記ならびに記憶を元として記録した生活記のようなものである。 日記を書いた部分はもっとあったが、私は適当に抜き出した。 あまり好ましくない内容もあったわけだが、私はキレイゴトでかざろうと思ってそれらをわざと除いたのではない。 私は以前に中学時代のことを書き残しているが、これはその姉妹編である。 Apr.13,61 KENGO HASHIMOTO〉 (横書き)  執筆期間:15歳7カ月〜18歳9カ月

 扉2に、〈この中には、色々と女性のことを書いてあるが、私はドンファンを志すからそれらを書いたのではなく、 ただ事実を挙げたまでのことである、文中名前を明示しなかったのはそれらが大して意味を持たないからで、 また、他人に迷惑をかけたくないからである、私は夏休みごとに何かを起しているが、私はそれを始めから意図したのではなく、 たまたまそうなっただけである。Apr.13.61 K HASHIMOTO〉(横書き)



 これは、私自身の“一九五八年という年”である。どういう私であったか、興味深い問題ではある。

 1/1「皇太子妃なんかには興味はないと思ったが、将来の皇后になるのだといわれて、ああそうだなと感じた、 余り良くない皇后が出来ると面白くないから、心配になって来たのである。」 《このころはまだ強い天皇制反対はしていないようである。当時としては妃はまだきまっていない。》
 注:この《 》内の記述は原稿用紙の上部欄外に、私自身が赤エンピツで記したもので、61年夏ごろのものと思われる、以下同じ。
 「昨年はまあわが生涯のうちで最良であったと思われるところが多分にある。今年はまた新しい気持で過そうと心得る。」

 1/2「(テニス部)部長の家からの帰り、Yは明日家へ来ないかという。《彼と私は当時非常な親友であった。》 それは彼の許婚である女性が訪ねて来るそうだが、彼一人相手では面白くないというのである。 他の場合ならともかくも……当然断わった。金色夜叉の貫一とお宮のようにならぬよう双方とも気をつけたし。」

 1/3――科学者になることを夢見る、「共同研究が楽しみだ。」とある。《私はまだ可能性を信じていたのである。》        注:“――”とあるのは61年4月当時の記述。以下同じ。

 1/5「Yの事について彼に手紙を書いたのであるが、わたす勇気がなかった。 『Y君。本日の「八十日間世界一周」大変よかったですね。……さあ、なぜボクがこの手紙を書こうとしたかというと、少々おかしいが、 友達である君を少しでもなぐさめたいと思ったためである。《私の性格が当時すでに表われている。》
 なぜかというと、君は昨日彼女と会ったそうだが、その結果が良くないという。その理由はいくらでもあると思う。 ボクが今日、早かったのではないかといったことについていわしてもらおう。 人間は男女を問わず、普通であればいわゆる年頃になると異性を求めるという事[こと]は今更いわなくても君は良く知っていると思うが、 それは自然な事だと思う。《このような前にもどるいいまわしも私は時々やる。》  注:“事[こと]”のような表記は修正したことを示す。ただし、これ以降の“事”は省略。
 しかしながら君はすでに将来良き細君になるべく女性を得ているというので、今後異性を求めるという事はないだろう。 《この考え方は少しオカシイようだ。》
 それだけにその余った時間を他の事にふりわけられるだろうが、《理想主義的! 》大きくなって結婚するまでは、 日常何の変化もなく暮す事がおかしくなるのではないだろうか。何も君達二人にケチをつけるのではないが、 人生が味気ないものにならぬ[ない]ようにと心配しているのである。
 ある日、家での話題に中学校を卒業して直ぐ某所に務[勤]めた女の子が恋愛をしているというのである。 ボクらよりは一つ上であるが、まだ子供(体は大人びていても、知能・考え方等が幼稚である場合にボクはこういう)であるに違いない。 そんな未だ人間が出来[でき]ていないのに恋愛なんかするのはもっての外だというのだ。
 恋愛するのは個人の自由である。しかし未だ人間ができていないのに、間違いでも起したらどうなるだろう。 それこそ地獄にでも落ちたような気になるだろう。《私には取りこし苦労をする性質があるが、これなどもそうである。》 また子供であるために考え方が足らず、生きる事にいやになって、挙句のはては自殺や心中行となってしまう。 ささいな事に気を落してしまい、他の手段などを考えず、自殺などをするのだと思う。《考えてみれば、その人の将来はまだどうなるか分らないのだ。》
 これは経験が足らない事はいうまでもないが、人に相談することなどは全然考え及ばないらしい、自分一人で悩やむのである。 だから結論は人間が出来てから色々なことをして、人生を楽しく暮せというのである。
 ボクも先日教師の悪口をいった事で呼び出されたが、その事についても家では、批半するのは良いが、 そういうものは人間が出来てからしたほうが良いという。つまり、人を批判するという事は、自分も誰かに批判されているという事である。 だから一応人間が成って[できて]いないと二の句がつげない。人から信用されなくなる。 また、正しいと思った事を貫き通す事はよいが、世の中に出たら簡単に自分の思うようには行かない。 どこかで折れなければならない。それも一人前になっていれば、少々の事にはこたえられるが、 考え方が幼稚だとそのまま脱落してしまうのではないだろうか。そこに、ボクらがいくらませているとはいえ、大人と子供の違いがあるのだと思う。
 君はそんなことにはならぬ[ない]だろうが、人生が味気なくならないように努めたらいいと思う。 君は彼女の事が気になるという。どうして気になるのか分りかねるが、余り落胆せぬようにしたらよい。 なにも今から配偶者をきめておく必要はないが、親のきめたことなら、今更いやとはいえないだろう。 《私は今ではこれに賛成しかねる。個人の尊重が大事であり、何人も人格があるのだ。》
 また、君は会わなかったら[ほうが、]よかったという。……ボクも君の事を聞いて、始めはうらやましく思ったが、 今ではそうも思わなくなった。しかし悲劇ばかりあるのではない。君達はうまく行くだろうと思っている。またうまく行くように祈る。
 以上、ボクの君についての自分の考えをいったわけであるが、気に障ったら、手紙でも書いて訂正してくれ。《訂正はオカシイ。》
 ボクも君たちの幸福を祈って書いたのであるが、《ホントにズイ分ませている。》余りその事にこだわらない方がいいと思う。 今の考えより二三年後の考え方の方がはるかに良くなることは間違いな。《イギリス経験論に通じる……。》
 新学期早々、いつものYの元気さがないといわれたら恥だと思うだろう。元気を取りもして勉強にテニスにはげんでくれ。 また、今までの調子でいけばよいだろう。
 真の友というのは、それぞれの悩みを話し合い、協力してはげまし合って、よりよくしようとするところにその価値があるのではなかろうか。
 まあ余り関係のない事を、だらだらと述べさせてもらったのであるが、本当に気にしないで暮らすように。 正月早々不愉快であろうが、今ここで気を落すと一生台無しになってしまうから、己の体験ではないが、そうならないように注意してほしい。 いくら君が頭がよいとはいえ、一人で考えた事は多くの人から見れば余り良くないという。《三人よれば、何とかのチエ。》
 その事については、君も『イギリス人の討論』で学んだろうが、そのようなボクの考えから、一人でも他の意見をと思い書いた次第である。 Y様』

 1/6「練習に行く途中今年始めてT夫人にあった。」《今の消息は知らない。》

 1/7――今から思うと、顔が赤くなるような「将来私は○○○になりたい」と書いてある。「湯川秀樹博士の月給は四万六千円也と。」

 1/8――〈静岡県浜名郡〉岡崎小学校時代の同級生、レンギョウと何かの卒業記念樹を送ってくれたK嬢をなつかしむ。 「ただ良き友達であってほしかったのである。」

 1/9「Yは先日彼女と会って結果がよくなかったといったが、小生にはそうは思えない。 なぜならば、彼はもう女性に関心を持たないように努力するという。それは当然の事だと思う。 すでに配偶者がきまっているのであるから、他の女性に関係したら事である。《どうしてだか分かりかねる。》 そのように決心したことは彼のためにも彼女のためにも幸福であると信ずる。」
 「体育の時間に約三千米を走る、一着。これで十一連勝。」《私は長キョリ[距離]にだけ強かった。》

 1/12――今も当時も同じように、計画を立てたけれど……。――西条凡児の『お脈拝見』に感心している。

 1/13――タバコをすわない決心は、この日に始まっている。《税金をケムリにするのがイヤだからです。》

 1/14――フロたきが日課となる。

 1/17「本日、(今後の)人生において最も価値のあるといえる事を偶然にも発見し、 また、今までの疑問もさらりと消えて何だか大人になったような気がする。」《私はこれまで、そういうことを知らなかったのである。》
 ――これは、その後を読むと子孫の繁栄に関係があり、人間は動物的本能に支配されてはならないというようなことが書いてある。 しかし、「まだ早い」のである。

 1/19「関大の数学の入試問題をやれとの事であったが、三間中二つできた。」《数学がトクイ!!》

 1/21「……小生考えるに今までなぜ女性と交際したく思い、また外国のペンフレンドを得ようと思った事か。 しかし、今ではそのような考えは毛頭ない。どうしてかといえば、???のためにこのように考えが変わったのだと思う。 《ヘンなこと、いいますネ。???君はタシカに私の○○感〔観]を変えましたよ。》だから、その短期間の交際(?)もムダではなかったらしい。 《交際なんてものじゃなかった。》
 ただ、それだけではない。……○で身をもちくずしたなどといわれたら己に恥である。 ……一般にませるということはよくないことだと思う。 ……このようにばチンコ屋がいつまでも同じ機械を置いておいたのでははやらなくなるのと同じように……。 《イヤになったら、すぐ放り出すそうですよ。》……今日は今日、明日は明日という考え方である。
 ……貧乏人の子供は一般に真面目で、金持ち(程度はあるが)の子供は遊びほうけているのが現実であるが、 これが逆にならなくても、平等にしなくてはならない。同じ日本人でありながら、また子供自身の責任でもないのに、 差別をつけるのはどうかと思う。……《私は正義派だよ。》

 1/28「……その後体温を計ると、何と9度3分。こんな高熱になったのは始めてだと記憶するが、高熱の割にはそうつらくもなかった。」

 2/3「自制心が足りないのか知らないが……」後は書くに忍びない。《全くだ! 》

 2/8「……その○の外見上の最大の欠点……」《私の持論。》「英・数・国は高校一年の一学期中に完成きせることが必至である」とはオドロイタ。

 2/13「校内マラソン(コース変更、11,300メートル)初優勝成る。天気はよく、風は少しあったが、良いコンディションであった。 スタート前、4組のU君(陸上部)と一緒に走る事を約束し、アメをもらう。《買収ではない。》号砲一発、一斉にスタートした。 新コースである。いつものコースヘ上る口の辺まで走って来ると、前には十人もいなかった。 こんなに早く出て来たのかと例年に見られなかった[い]うれしさであった。
 終始U君と走った。《それもそのはず。》往路の約二千米[メートル]くらいで横腹が痛くなりだし弱ったが、手でその部分をおさえて走った。 少し行くと前には、もう先に出発した高校生が走って、いや歩いていた。良く見ると、ほとんど昨年の4月わが校に入って来た高1の生徒だった。 《よそ者は精神がなっとらん。》
 それから倍ほど走ると、島本中学の近くにカードをもらう所があったので、そこでカードをもらった時、イチ・ニ・サンと数えたので、 あれおかしいな、前に一人中学生が走っているのにと思ったが、もう見えなかった。《先走るヤツはバカだ。》
 新国道へ出たときには、トップグループは、小生とU君と二年生のEの三人だった。 復路は向い風となり、寒くなって来たので、冷えてはいかんと今まで上げていたポロシャツのソデを下ろした。 約1キロほど、Eは着いてきたらしいが、それからは大部[分]差が開いた。
 産業道路はまっすぐで単調で走りにくい。しかしいつも[つねに]U君をリードして走った。《ホントですよ。》 ゴールまで後千六百米の橋が見えた時はほっとしたが、例によって道路はまっすぐなので見えていてもなかなか着かない。
 いよいよ近くなったとき、もう坂道であったが、またその上りがつらかった。 風はビュービュー吹いてくるので、歯をくいしばり、ナニクソのクソだけ、声を出して上りきった。 橋の上へ来ると今度は下りであるが、《アタリマエだよ。》もうフラフラである。しかし自然に足が動くので目をつぶって走っていた。 というより向い風に体をもたせかけていたという方があたっているかも知[し]れない。その坂を下り切ると今度は体が楽になった。 呼吸がしやすくなり何の苦痛もなく走っていた。
 終始U君と走っていたので、差は二、三米程度で、いつ追いぬかれるかで気が気でない。 が、テニス部として走っていたところを学校にもどるのだから、どういう工合かを知っているので安心して走った。
 ちょうど四ツ角(ゴールまで約百五十米の地点)でスばトしたら、少し差がついた。 これは行けるなと思ったが、あと百米にちぢまった時に彼は追い込みをかけ始めた。 しかしここまで来ていて負けられないので、同じように早く走った。 校内に入り、ゴール前三十米ぐらいでまた追い込まれたが、どうやら勝つことが出来た。《カッタ、カッタ。》
 *高槻学園新聞(昭和33年2月19日付第64号見出し「岡崎<高校〉橋本<中学>君優勝 校内マラソン大会」)

 「……あとでふり返ってみると、五千を一人で走るのは容易でないこと。 距離の遠近を考えながら走ると、精神的にまいってしまうこと。 それで小生は、いつも他のことを考えながら走っていたので、比較的楽だった。 ライヴァルがいるとどうしても張合が出てくるので、速力も遅れず[衰えず]、よいレコードが出るなど、良い点が沢山ある。」
 「……昨年の運動会の千五百に勝って以来、中長距離十八戦全勝である。」そうな。《ホントかな?》

 2/16――近所の二、三つ年上の女学生はよく勉強しているので、「見ならおう。」《その後、見損なっている。》

 2/20「……小生は恋人を得たのである。まことに美しき人、《理想的だネ》いや人つまり女性と思われるだろうが ……それはこの今書いている日記帳のことである。まことに美しきと書いたのは、その字できたなくうずめ尽す前の白紙の事である。 小生は時々この恋人に会わない日がある。毎日会いたいのだが、何かの障害で会えなくなるのだ。 ……この恋人は小生の思っていることは何も不平をいわずに聞いてくれる。誠に理想的な永遠の恋人である。」

 2/21「……ではないが、小生も純潔とか純粋とかを非常に欲求するようになってきた。」――とあって、二号さんについて書いてあり、 そういうものをもつ政治家のいる限り日本はいい国になれないと説く、全く理想主義的な傾向があった。 しかしその反面、これと大いに矛盾する行動をとることがずっと続いているのである。――
 ≪「二号さん」…あろうことか、大学生の最後のころ、大学そばの喫茶店に勤めていた女性から「二号さんにして」といわれて戸惑ったことがある。 ついでにいえば、同じころ、大学受験で上京した友人の弟の面倒を一週間ほど見たところ、「弟子にして欲しい」ともいわれた。 いったい、私は何者だ?! 2010・03・22追記≫

 2/22「小生が今最も欲求していることは、勉強中にねむくならないことである。」

 2/23――それでも悩やむ。

 2/24――√8(ルート8)という教師をにくむこと甚だし。《ホントにいやなヤツだった。》


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