父の執筆など   2008・03・26〜 橋本健午 2009・03・10大幅に修正

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 大正時代から昭和前期にかけて、編集人としてだけでなく、執筆者としても名を連ねた父の文章はどのようなものであったか順を追って見てみよう。
 編集者として関わった雑誌(会報)は、大正5(1916)年、28歳のときの東京報徳會発行「斯民」が最初で、大正7(1918)年には再び大連にわたり、 同年6月ごろから滿鐵讀書會発行の月刊「讀書會雜誌」編集人となり、約6年間その職にあった。
 《同誌大正13年4月号(第11巻第4号)編集後記「編輯を終へて」に「◎大正七年以来、永らく編輯に当つて居られた橋本八五郎氏は、 今度他の仕事に変はられることに成りました。真実の処、誰がやつてもむつかしい本誌を、是迄に育て上げるのは容易なことではありません。 同氏の並々ならぬ御努力に対し、皆様と共に衷心から感謝したいと思ひます。」と、後任の(ひろし)氏が記している。》
 ついで、大正14(1925)年に満鉄図書館関係の月刊「書香」に1年間携わり(12号で休刊)、しばらく満鉄関連の図書館や学校の教師をつとめたが、 昭和4年(1929)、41歳のとき再び、満鐵各図書館報「書香」の編集人を第94号(昭和12年4月号)までつとめ、 やはり何本もの寄稿を行っている(終刊第158号・昭和19年12月号)。

月刊「斯民」東京報徳會…
  大正5(1916)年4月〜大正7(1918)年3月ごろ?
月刊「讀書會雜誌」滿鐵讀書會…〔編集人〕
  大正7(1918)年6月ごろ(第5巻第7号?)〜大正13(1924)年4月号(第11巻第4号)
月刊「書香」満鉄大連図書館内 書香発行所…〔編集人〕
  大正14(1925)年4月〜大正15(1926)年3月号(全12号)
月刊「書香」満鐵各図書館報…〔編集人〕
  昭和4(1929)年4月号〜昭和12(1937)年4月号(第94号)
 それ以後は執筆者として、滿洲讀書同好會「圖書新報」(昭和12(1937)年4月15日・第1号)⇒「滿洲讀書新報」に、十数本の署名原稿が載っている。 この間、編著書を1冊出版し、また亡き妻を偲ぶ歌集と追悼集を編み、新聞での「文芸時評」もあった。

 原稿の内容を大別すれば、巻頭言および編集後記・書物(書評を含む)に関するもの・読書および図書館に関するもの・随筆や身辺雑記などであろうか。 ここでは、エッセイなどを「随筆」とし、他は「コラム」「提言」「書評」「感想」「意見」「読書」「図書館」「研究」などと便宜的な分類をしておく。 《“編者名”“橋本生”以外は本名での執筆のため氏名は省略》

1、リストアップすると

 『満洲より母國へ』…編者名:橋本嘯天(ショウテン)/T11・04…
 「沿線各地…満洲の咽喉大連」/「沿線各地…旅順の今昔」などのほか、
 「満洲の生活」として運動熱/小盗児/結婚/行商人/日支親善/満蒙開発/生活改善/社宅生活/社宅雑感/満洲の家庭/満洲の社会、についてふれ、
 ついで「附録」には“人から聞いた話”などとして「満蒙旅行談片」があり、他に橋本英子「新所帯日記1918(大正7)・3・30〜6・30」も収録されている。
 《この日記には、大連での新居・結婚早々の状況が如実に記されており、当時を知る貴重な記録といえる》

 随筆「心中の蟲」…讀書會雜誌/T14・02…?(肩書不明)
 提言「書香の使命」(橋本生) …書香/T14・06…同誌編集人
 書評「出原さんの名著『苦力行』」…書香/T14・06…同誌編集人
 随筆「万巻の書に囲まれて」…書香/T14・10…同誌編集人

 随筆・炉辺の趣味と娯楽「作文の境地」…讀書會雜誌/T15・02…?(肩書不明)

 紹介「書架を背にして 新着二三」(橋本生)…書香/S4・04 (第二次創刊号)…同誌編集人
 コラム「書香漫語」…書香/S4・04 (第二次創刊号) …同誌編集人
 コラム「書香漫語−洋行−」…書香/S4・06…同誌編集人
 読書「国語の辞書の話(上)」…書香/S4・08…同誌編集人
 読書「国語の辞書の話(中)」…書香/S4・09…同誌編集人
 読書「国語の辞書の話(下)」…書香/S4・11…同誌編集人
 読書「恥ずかし記三題」1 (橋本生) …書香/S4・12…同誌編集人

 読書「恥ずかし記三題」2 (橋本生) …書香/S5・01…同誌編集人
 読書「恥ずかし記三題」3 (橋本生) …書香/S5・02…同誌編集人
 研究「万葉集関係の書目解説」…書香/S5・07…同誌編集人
 書評「机上掌中及眼下」(橋本生) …書香/S5・08…同誌編集人
 書評「机上・掌中・及眼下」(橋本生) …書香/S5・09…同誌編集人
 研究「『参考図書の知識』一見」(橋本生) …書香/S5・09…同誌編集人

 研究「告朔の?羊」(橋本生) …書香/S6・01…同誌編集人
 研究「日本思想に関する文献」…書香/S6・07…同誌編集人
 研究「日本思想に関する文献 続」(橋本生) …書香/S6・08…同誌編集人
 研究「日本思想に関する文献 完」(橋本生) …書香/S6・09…同誌編集人
 随筆「ある視察者」(橋本生) …書香/S6・12…同誌編集人

 感想「『書香』50号を顧みる−誕生-再生-50号−」(橋本生) …書香/S8・07…同誌編集人
 募集「−かういふ書物が−出版されて欲しい」“公判廷の記録”(連図 橋本生) …書香/S8・11…

 出席「読書座談会記録」大連図書館主催(図書館週間初日11・1に) …書香/S9・12…同誌編集人

 *『橋本英子歌集』…編者(自費出版)/S10・07・13…ナシ
 *『英子追悼集』…編者(自費出版)/S10・07・13…ナシ

 読書「文藝時評」(1)「“小説”への興味」…満洲日日新聞/S11・09・02…ナシ
 読書「文藝時評」(2)「漸層的な凄味 室生犀星の“切子”=「改造」=」…満洲日日新聞/S11・09・03…
 読書「文藝時評」(3)「小説の文章 『見たざま』と『獣神』」…満洲日日新聞/S11・09・04…
 読書「文藝時評」(4)「芥川賞の二作 “コシヤマイン記”と“城外”」…満洲日日新聞/S11・09・05…
 読書「文藝時評」(5)「満州と文学 “月刊満州”と“満蒙評論”」…満洲日日新聞/S11・09・06…
 報告「ポスター懸賞募集の結果」…書香/S11・11…同誌編集人

 図書館「讀者と圖書」…圖書新報/S12・04第1號)…滿鐵學務課圖書係主任

 随筆「小生の露伴熱」…滿洲讀書新報/S13・09第18號)…安東日本學校組合主事

 読書「時間つぶし」…滿洲讀書新報/S14・01第22號)…?
 読書「『小島の春』讀後」…滿洲讀書新報/S14・04第25號)…《齊々哈爾學校組合主事》

 意見「推薦良書の取消・發禁」…滿洲讀書新報/S15・03第36號)…前・滿鐵學務課圖書係主任
 図書館「温潤如玉」…滿洲讀書新報/S15・05第38號)…元・滿鐵學務課圖書係主任
 読書「古本屋」…滿洲讀書新報/S15・09第42號)…元・滿鐵學務課圖書係主任

 感想「出征兵士の歌一首」…滿洲讀書新報/S16・09第53號)…關東州文話會長

 意見「良書推薦の意味」…滿洲讀書新報/S18・06第70號)…關東州文話會長

 感想「遣唐使の母の歌」…滿洲讀書新報/S19・02第77號)…?

2、執筆・掲載の基準は…

 上記では、実名や"橋本生"とあるものを並べたが、まず自ら編集するものに執筆するとき、 ア)実名、イ)"橋本生"等の略記、さらにはウ)無署名 に分けられる。
 実名を使用するのは自らの著作物であることを表明する場合であり、"橋本生"のようにボカした場合は、 実名を出すほどでもないが、だれかを特定できる "文責"の所在を明らかにする場合に用いたのであろうか。
 一方、無署名は、どれをだれが書いたか特定する必要がないか、だれが書いてもよいものであったり、軽い内容のもの、 または同一人が一誌に何本も執筆するのは出過ぎ、あるいは人材難と取られたりするのを避ける意味合いがあったのではないか。 ただし、匿名でゴシップや"悪口"を書く場合もないことはないが、今それは確認できない。
 そこで、無署名の中からあえて特定しようとすれば、言葉遣いの特長(クセ)を見わけることが第一であるが、 他の方のそれが分からなければ、やはり困難である。
 編集人(=編集長)以下、何人も編集者がおれば、役割分担ということも考えられるが、たとえば、編集者が二人しかいないと、 その編集後記に記す滿鐵讀書會発行『読書会雑誌』の場合、編集人の責任と負担は大きいはずである(大正9年8月号〈第7巻第8号〉編集後記〔小天地〕)。
 同じようなことは、満鉄大連図書館内 書香発行所「書香」(第一次)、満鐵各図書館報「書香」(第二次)についても言えるのではないだろうか。
 ともあれ、「無署名」をとりあげたのは、当時の出版事情が、いまだはっきりと分らないからである。 例を挙げれば、巻頭言や編集後記に筆者名があったり、なかったりすることなどである。

 ついで言えば、満洲日日新聞夕刊の「文藝時評」(5回)では、名前だけで肩書等はない。 それは編集方針か、本人の意思か、いま確認する資料を持たない。ちなみに、満州日日は満鉄の関連会社である。
 最後の「圖書新報」および「滿洲讀書新報」の場合は、純然たる執筆者であるためか、 肩書が"滿鐵學務課圖書係主任""關東州文話會長"のようにゴシック体で示されている。


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