「再び、いじめ問題」その1
前回の当コラムで、「文科省の定番?! 『お願い』文書(1,2)」を書いたが、新聞には各自治体の"にわかアフターケア"の記事がまだ続く。
そこで、戦後いつから、"いじめ"問題が報道され、政府および警察等がどのように対処した(ことにした)か、ふり返って見よう。
いじめは、人々の意識が総中流となった時代の"落し子"ではないかと思うが、昭和60年、すでに「"いじめ"深刻/昨年531件/自殺7人殺人1件 検挙、補導1920人
/女子が3分の1占める/警察庁初調査」(東京85・04・19)とある。そして、「ピーク越した少年非行/新風営法で性非行少女減る
/ドロップアウト少年の凶悪犯罪目立つ/ことし上半期」(毎日85・08・22)という警察庁が"いじめGメン"を新設するのは年末で、
「刑法犯、最悪の161万件/軽い気持ちで窃盗に走る少年/毒物混入などの模倣犯も多発/今年、警察庁が推計」(朝日85・12・23)となる一年であった。
この年、文部省の児童・生徒の問題行動に関する検討会議は、おっとり刀で「いじめの問題について」緊急提言を発表する。
翌86年はどうかといえば、法務省の調査「いじめ深刻/件数=昨年を上回る勢い、方法=『言葉』増え陰湿化、対応=我慢…孤独傾向に
/体罰も止まらず」(東京86・12・04夕刊)と、エスカレートしていた。
さらに、87年の子どもの現状をみると、「校内暴力、いじめに代わり、登校拒否が急激に増えて」おり、
「彼らは救いを学校外に求め」るものの、シンナー乱用少年が急増し、前年にシンナーで死亡した少年は33人もいた(東京87・07・15社説)。
子どもたちは学校に行っても悲惨だった。「若手に多い教師の体罰/被害8割が中学生/陰湿化、感情的なケースも」と法務省の調査でわかった(東京87・09・21)。
この一年間の「小中高のいじめ/減る一方で陰湿化傾向」にあると、法務省人権擁護局は実態を明らかにする(東京88・03・14)。
総理府(当時)によると「非行原因47%が『家庭』に/いじめ 重大な社会問題…56%」と世の人は見ていおり、
社会環境として「低俗なラジオ・テレビ番組が多い」という指摘が36・2%(東京88・12・19)と最も高かったのだが、
だれもわが家のこととは考えていないのが日本人の特性で、それが今も改善される兆候はまったくない。
この20年ほど前の少年たちは、今30代のなかばと推定される大人だから、昨今、小中学校で「いじめたり、いじめられたり」の親たち(の一部)とも想像できよう。
「再び、いじめ問題」その2
少し時代は下って平成5年、「子どもの権利/条約早期批准を/高校生らパフォーマンス」は、この年4月22日から衆議院で審議が始まった「子どもの権利条約」の早期批准を求める集いが東京で開かれ、
参加した高校生らが偏差値やいじめをテーマに朗読と劇を披露したという(東京93・04・26)から、中には真面目な若者もいた証拠である。
しかし、現実は少しも良くなっておらず、「1995…この年、いじめによる事件の増加」と、
総務庁青少年対策本部作成の「有害環境問題等対応の推移」年表に、簡単に記されているだけだ。
その後の状況と政府の対応をみると、「子どもの権利条約/「政府報告は建前ばかり」/市民団体など批判
/いじめ問題 具体的データ欠き『深刻さ伝わらぬ』」によると、同条約で義務づけられている政府から国連への(前年5月に提出の)報告書が不備だらけなため、
日弁連「子どもの権利委員会」がシンポジウムを開いたもの。いじめも不登校も、具体的な数字をあげないためリアリティに欠け、
国連子どもの権利委員会(CRC)に理解してもらうのは困難だという(東京96・09・07家庭欄)。
要するに、日本政府は、いじめの現実を無視するだけでなく、"子どもの権利"すら認めたくない、という本音が如実に表れていた証拠である。
少し、飛んで平成8年、深刻な仲間による"いじめ"を放っておけないと、『週刊少年ジャンプ』は春ごろから実話を元にした、
いじめ問題をテーマにコミック「元気やでっ」を緊急連載したり、子どもたちの投書を掲載したり、他のコミック誌も彼らの身上相談に応じていた。
そして、7、8月には総務庁青少年対策本部の依頼に応え、少年少女コミック9誌(4社)は「一人で悩むのは、もうやめよう」などの「悩み相談テレホンコーナー」の存在を各誌独自の方法で、
延べ14回"いじめ対策(電話相談)"キャンペーンを行ったが、NHK総合が朝のニュースで「元気やでっ」の反響を取り上げた以外、
他のメディアから無視されるという"シカト"もあった。
なお、この年3月、文部省は「いじめ根絶を子どもたち、家庭、学校、地域に訴える」大臣緊急アピールを発している。
部数は85万部、通常の配布先に加え、全国の小・中・高等学校のすべての学級に配布と『文部広報』にある。
しかし、この種のアピールは2年後の"ナイフ事件"でも、同様の規模で発せられたが、多大な予算を使い、
一言指示すれば事足りるというのは、いかにも官僚の考えで、それの繰り返えしであることは前回見たとおりである
(前回の「文科省の定番?! 『お願い』文書」その2 参照)。
しかし、この年の現実を見よう。「子どもたちはストレス漬け/半数が"暴れたい"/塾、習い事…生活に追われ」
とは連合総合生活研究所の調査結果であり、またベネッセ教育研究所の調査によると「中学生の規範意識が低下
/『酒・タバコ・盛り場ぶらぶら』悪くなーい!?/いじめっ子ほど逸脱行為繰り返す」とある(東京96・10・02夕刊および同10・16)。文部省が調査した前年度の公立校の実態は「"いじめ"6万件超す/校内暴力も過去最高に」とある(東京96・12・25)。
ついでに言えば、教師による体罰や"チカン行為"も無視できない問題で、「増え続ける脱線教師/体罰で処分436人、わいせつは85人/いずれも過去最悪/95年度文部省調べ」とある(東京96・11・06)。
ここに見たように、ずっと以前から、少年たちが安心して過ごせるところはどこにもなかったことが分かる。
そして「子どもを可愛がらず」、弥縫策でしか対処しない「美しい国」の、過去・現在・未来は永遠に続く……メデタシ?! まだ、新年に早かったか。
「近ごろ、よく分からない話」
ア)東京都が全国に先駆けて、「防犯カメラを共同住宅に/『地域力』の低下で対策」(東京06・11・30)によると、
マンションやアパートなどの共同住宅を対象に、防犯カメラの設置費用を助成することに決めたそうだ。
住民同士の結びつきが希薄なため地域防犯活動の"空白地帯"とも指摘される共同住宅への防犯対策をてこ入れするのだとか。
しかし、"地域力"って何なのだろう。もともと、地方から逃れて? あるいは流れ着いたものたちが集まるアパートなどには、
近所づきあいや連帯感を求めない人が多いのではないか。一方、よそ者を不審者と見るのは、地域住民の習い性?! その結果はどうなるか。
その昔、内務省が隣組制度などを強化したのは、お互いに監視させ、はては"密告の奨励"に至るもので、国民を意のままに操ろうとするためだった。
都は当面モデル地区として5箇所ほど選ぶらしいが、どんな地区が選ばれるかにとって、その意図が判明する!?
イ)安倍政権の旗印とすべく、「開かれた保守主義」について、具体化の検討に入ったという。
首相は国会答弁で(1)イデオロギーではない、(2)自分の生まれ育った国に自信を持ち、日本の歴史を、
その時代に生きた人たちの視点で見つめ直すこと、(3)閉鎖的、排他的ではなく現実にも目を向けること と説明したそうだが、
支離滅裂の印象は否めない。
まず"開かれた"であるが、(2)の「自分の生まれ育った国に自信を持ち」は、日本人でなくともよいと読め、
また日本で生まれた日本人でも外国で育ったものは対象外となるから、なにが"開かれた"のか分からない。
さらに、「日本の歴史を、その時代に生きた人たちの視点で見つめ直すこと」など、遠い昔のことなど、だれにも出来ないのでは。
(3)の「閉鎖的、排他的ではなく現実にも目を向けること」とは、自民党保守政権は"閉鎖的、排他的"であることを認めたわけだが、
"現実にも目を向ける"とは、文脈的に、何を指すのか理解できないところである。
これから外部の有識者からも広く意見を聞きながら理論構築を進めることになるらしいが、甘ったれた? お坊ちゃん宰相らしいじゃありませんか。
ウ)病院の名前に「乳腺」と表示してはならないとして、「よこはま乳腺と胃腸の病院」の訴えを退けたのは最高裁だそうだ。
理由は、宣伝広告として病院名に掲げられるのは内科や外科、美容外科など96年に旧厚生省の医道審議会が決めた27科だけで、
それ以外はダメという杓子定規の判決ではある。
乳がんかもしれないと思っても、どの病院にかかってよいかわからに人のために、具体的に記している病院長の考えは真っ当すぎる。
一方、インターネット上で「乳腺クリニック」というのが存在するのは違法ではないのかと、厚生労働省医政局総務課に聞くと、
「インターネットは自分で検索するなど能動的。不特定多数の人が見るわけではなく、広告にはあたらない」と答えたそうだ。
どうして、"不特定多数の人"が見たかどうかを知るのだろう?
現実に、乳がんは日本女性のがん罹患率は第1位で、年間約35,000人が発症し、約1万人が死亡するというのに、
裁判官や霞が関の役人にはハートも乳房もないのだろうか!!
いつも、こんな調子では、よいお正月を迎えられないですかなあ、ご同輩?!
(以上、06年12月19日までの執筆)