『心-こころ- 橋本健午のページ』 ”書くこと”－北海道新聞･日曜版〔ほん〕欄「目･耳･口」

”書くこと”－北海道新聞･日曜版〔ほん〕欄「目･耳･口」

≪"幻の"コラム、追加について≫

　先日、たまたま本棚の整理をしていると、北海道新聞のコラム「目･耳･口」で、本や出版事情などを13回執筆した際、先方の都合というより、湾岸戦争のあおりで打ち切り、"没"になった原稿が出てきたので、ここに追加する次第である（2004･5･26）。
　担当者いわく、「……『こどもの時代』はせっかく書き直していただいたのですが、私どもの事情で、結局日の目を見ることができなくなり、誠に申し訳ありませんが、どうかご了承ください。 …長期にわたり、原稿をお寄せいただき、本当にありがとうございました。橋本さんの柔らかい筆には、感心いたしました。…」とある。日付は、1991年3月4日である。

『こどもの時代』（掲載予定日は同年3月17日）

　自然に恵まれた子供の遊び場が少なくなった。その反面、いまの子供はビデオで育つ。少し前は、テレビゲームやファミコン世代。その親たちは完全にテレビで育てられた。いずれも室内、受動的である。
　子供が家の中で遊んでおれば、親は安心かもしれないが、いつまでも自立できず、また、協調性に欠けていたりする。情緒が不安定であったり、イジメや非行にも……。
　そんな世の風潮を嘆いたか、画家の遠藤ケイさんが昨年、絵入りで『親父の少年時代―消えたガキ大将―』（かや書房）を書いた。「終戦間際に、一地方の小さな町に生まれ育った、その少年時代の断片を思いつくままに書き綴ったもの」という。
　駄菓子や・紙芝居のあった路地（1章）、給食と弁当、転校生も多かった学校（2章）、悪さや遊びに夢中の放課後（3章）、でんと構えた親父に威厳のあった家（4章）、年配の人たちにはどの章をとっても、思わず甘くホロ苦い少年時代が蘇ってくるだろうが、それだけであろうか。
　一体に貧しく、モノの無い時代であった。そんな時、ガキ大将は勉強は苦手でも腕っ節が強く、喧嘩早いが小さいものには優しかった。子供の世界なりに秩序があった。彼は仲間から尊敬と畏怖の目で見られていた。
　いまの若い親たちは、ガキ大将がいないのはよいことだと思っているかもしれないが、外に出て年齢のちがう仲間に揉まれているうちに身につくのが社会のルール。その体験が欠けているから、世の中はますます自己中心となっていく。
　昨年公開され、ブルーリボン賞などを受賞した映画『少年時代』は、自らの体験などを元にした藤子不二雄Ａ氏の原作による戦時中の学童疎開を描いたもの。多くの感動を呼んだのは、単なる郷愁だけだっただろうか。
　親子関係、人間関係を見直すには、親父は時に自分の子供時代を語ることも必要ではないか。（游）

＜さらに追加＞　2008.07

　なにごとも一度で解決しないのは、わが弱点であるが、またぞろ未発表原稿が出てきた。なにが理由だったか忘れたが、「勝手に手を入れる」というので、91年2月6日、自ら"没"にしたものである。
　思うに、新聞の読者はお年寄りから子供までと幅が広い、また社の考え方もあるだろうから、このまま載せるのは？ということになったのであろうが、「勝手に手を入れる」ことに納得できなかった私は取り下げるしかなかった。
　ともあれ、書いたものは"その時代"と、それに対する"私の見方"を証明するものである。（2008･07･07橋本健午）

『コミック本問題』
　昨今、お母さんたちや宗教団体が音頭をとり、一部コミック本に性表現の行き過ぎがあるとして、それらを追放しようという動きが全国的に広がっている。
　マンガの流行は世界的な傾向であり、今や『ちびまる子ちゃん』(集英社)はテレビでも人気アニメに、『沈黙の艦隊』(講談社)は国防問題、『マンガ日本の歴史』(石ノ森章太郎著)のようなシリーズでもマンガが幅を利かす時代。
　すでに「少年ジャンプ」などのマンガ雑誌で育った第一世代は、40代半ば。また、こどもたちの表現力は、文章よりイラストやマンガのほうが優れている。
　このように、コミックやマンガの底辺がひろがると、出版社は競ってコミック雑誌を出し、新人を育てる。雑誌に連載したものをシリーズで出す。読者は、もう一度読み直す。編集者も作家も、そして読者の多くはさして人生経験もない若者。同レベルの感性の持ち主であることに注目すべきであろう。
　たとえば、宮崎勤事件は異常なビデオ収集と残虐な連続幼女殺害が目立つが、なぜ幼女ばかりを狙ったか、大人の女性には相手にされないと思っていたからという。歪んだロリコンに、動機があったのではないか。
　ある宮崎勤的若者は、彼の心情を理解し、自ら月に2,3万もコミック本を買っているという。そこに描かれているのは、かわいい女の子が大胆な性行為をしたり、いじめられているものばかりである。
　近ごろ流行りの若者は「アッシーくん」。カッコいいクルマは持っているが、フラれるのはいやなので、女性の方から「送ってよ」と声を掛けられまで待っているのだそうだ。共通点は特定のガールフレンドがいないということか。
　一方、少年少女の性行為を積極的に認めるスイスでは、このほど法律を改正し、その年齢を16歳から14歳に引き下げた。ただし、二人の年齢差が4歳以上あると罰せられる。大人がむりやりというのは、当然許されない。
　なぜ、若者が軟弱になったのか、このままでよいのかという点をお母さん方はじめ大人が見極めないと、 "コミック本問題"は解決しないのでは。（游）

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