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「まだまだコラム」 2008年1月下旬号

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「美術展とロッポンギ」
 先日、「Heart Art in TOKYO 2008 〜第11回エイズチャリティー美術展〜」を観に行ってきた。会場も初めての国立新美術館である。
 案内に「日本現代アートを通じてエイズ問題という全人類的な課題に対して貢献していく事を目的に、一般の人々のエイズへの関心とエイズ予防への正しい知識の普及、 更にはHIV感染者・エイズ患者への人権保護等の意識向上と啓発のきっかけとなる事を願い、第11回目を東京の美術の新しい拠点、 六本木に新設された国立新美術館にて開催します。」とあり、公募(優秀作品20点前後)を含め、約600人の作品を展示しているという。
 入場無料という会場の受付では、記帳を求められ、私はあらかじめ決めていた寄付金を出し、赤いエイズ・ストップのバンドを渡される。
 それなりの数の人々が思い思いに鑑賞している。各コーナーの壁3面にそれぞれ10点ずつぐらい展示された油彩画や油絵、 パステル画や写真、そして中央に彫刻などがあり、20号前後の比較的小さなものを見て歩く。 テーマ"エイズ撲滅"のせいか、人物も風景も一般に優しいものが多いように感じられた。
 関西から出展した70代後半の知人が描いた油彩画は第9コーナーにあり、やはり優しい人物像であったが、上京したばかりの彼は汗を掻きつつ、 来場の旧友たちの応対に暇がなかった。
 絵画に疎い私は、絵の下にある出展した人たちのメッセージを読んでいった。「エイズに罹らないように、気をつけよう」 「この世からエイズをなくそう」などと、通り一遍の表現が多い印象を受けたのは、テーマの性質上止むを得ないのではと思った。
 しかし、中には長文があって「…今世紀に入って何故か世の中は混沌としてきた。天候不順、政治不安、いじめ、存続殺人、末法の感がある。…」 というのを読んでいて、「存続殺人」のところで「?」と思った。
 なかなか"含蓄"のある表現ではないか、と。親殺し・子殺し・ケータイやネット利用による委嘱殺人と人殺しはもう止まらない、 だから"末法の感"と、この方は思ったのではないか…。
 しかし、近くにいた年配者は「"尊属"のまちがいでしょう」といわれる。そこで、通りかかった係の青年にそれを告げると、 「まちがいです。すみません。直ぐに訂正します」とのことだったが、1時間ぐらい経って、念のため見に行って見ると、 「存続」そのまんま、であった。
 会場となった国立新美術館では、別の階で朝日新聞社主催の「横山大観展」も開かれ、これも女性連れを中心に盛況のようであったが、 なにしろかの黒川紀章先生の設計になる巨大な総ガラス張り、奇抜な美術館は東京の新名所らしく、各階に広く展開された喫茶・軽食コーナーでは、 多くの老若男女が口々に物を運んでいた。
 それらを横に見ながら、にわかミーハーをきめ込んだ私は、近くの防衛庁跡地にできた"東京ミッドタウン"にも入ってみたが、 行きかう人々に酔う前に、早々と退散するしかなかった。

「年代別アンケート3題」
 27日付の東京新聞に、三つもの調査結果が出ていた。すなわち、内閣府による「インターネットの安全確保に関する世論調査」(1)、 ついで「若者は内向き思考?/仕事より家族 格差是正を望む/NPO法人が意識調査」(2)、 そして「GPSで小学生の行動調査/「放課後は屋内」6割/外遊びより友人宅や塾で過ごす/滋賀で京大チーム」(3)である。
 調査は、ある目的や何かの指針を得るために行うのであろうが、その結果をどのように受取るか、読者にとっては一長一短、良し悪しもさまざまであろう。
 (1)では「ネット利用4割「不安」/内閣府調査 個人情報流出など懸念」と見出しにあり、とくに40〜50代の"子育て世代"に不安を抱く人が多く、 「個人情報の流出」が66・5%とトップで、「暗証番号などの無断利用による不正アクセス」52・1%、「架空・不当な料金請求」50・5%などの順だったそうだ。
 しかし、インターネットによるまでもなく、ある種の個人情報はとっくに漏れており、かつ"架空・不当な"料金請求というより、 自ら進んで(詐欺師に)支払ってしまう人が、特に60〜70代の小金持ちに多いではないか。
 (2)は、20〜30代に対する調査だそうで、このような若者の意識は"「改革疲れ」ともいうべき内向きな思考だ"と分析され、 「若者たちは観客として社会を見ている。もっと当事者として取り込むことが必要ではないか」と話すのは、 28歳という調査した政策過程研究機構の事務局長の談話である。
 この記事にまちがいがないとすれば、20〜30代に属するこの事務局長は、自分自身のことを言っていると、私は"分析"したいところである。 さらに、問題なのは「自分たちの将来像」で、「配偶者と幸せな生活を送る」と「子供を無事に成長させる」が50%を超え、 「仕事を通じて収入を増やす」とか「自らのスキルを磨く」など仕事関連のものを抑えてしまったという。 早い話が、楽な生活をして早く孫と遊んで暮らす、ジイジやバアバと呼ばれたい隠居生活を夢見ている、としか思えない…。
 (3)に進むのは、さらに気が重いが、GPS(衛星利用測位システム)を使って、滋賀県長浜市内の小学生約460人を対象に放課後の動きを追ったものだそうだが、 記事には「GPSの端末装置を子どもに持たせて全行動を追った全国でも珍しい調査法」とある。 きっと実施した京都大学大学院工学研究科のチームの自画自賛の弁であろう、困ったものだ?!
 本件は、これまでに調査されたものとほとんど変わらないことが分かったのが"成果"だと思うが、他大学の副学長の談話として、 「…実証されたことは、教育的にも意義がある。少年期を失いかけているということで、たとえば集団遊びを体験させてみて、 行動範囲の変化を見ることも大事であろう」と、のんきなことを言っているようでは、この国の将来は、子供のせいではない!?
 そして、中高生や大学生、果ては大人までも、ひそかにGPSを持たせて監視しようとするまでに到るのに、 ものの1年もかからないところに、大きな問題がある。現に"平和利用"かもしれないが、老人の徘徊にも利用されているではないか。
 諸賢よ、アルフレッド・ノーベル(スエーデン)がダイナマイトを発明して油田開発などで築いた莫大な遺産をもとに、 なぜノーベル賞を作るように遺言したかを、思い出してはどうか。
 ところで、この種調査のアブナイのは、回答することと実際の行動とが、合致していない人が多い、と推測されるからである。 したがって、大前提として「あなたは、○○について、どう思いますか」と聞くと同時に、「あなたは、○○について、どう行動しますか」をも聞くべきではないだろうか。

「目分量、手加減、いい加減」
 学生時代から親しかった友人に、「橋本は、家では何もやっていないだろう」と言われたことがある。 十数年前のことで、彼は会ってもいない私のガールフレンドのことまで詳しく覚えているので、この意外な言葉に驚いたものの、 あえて訂正もしなかった。
 中学時代から共働き、23歳違いの長兄夫婦の世話になっていた私は、兄のいう"スパルタ教育"で、下着の洗濯やズボンのアイロンかけ、 風呂焚き、庭掃除なども当然のこととしてやっていた。
 およそ50年前、当時のサラリーマンは土曜半ドン日曜休みという時代、休日にはゆっくり寝ていることが多い。 しかし、お腹がすくのに曜日は関係がない。自ら食するものはと、簡単な食事作りもやらざるを得なかった。
 お米を洗って電気釜で炊く、味噌汁から始まって、いつしか焼きそばも作れるようになり、時にジャガイモやたまねぎを刻んだ野菜サラダとレパートリーは増えた。 リンゴやイチゴを煮込んでジャムも作った。
 未だに炊事が得意、大好きというわけでもないが苦にならず、これは大いに役立った。空腹を満たせない、という苦痛がなかったからである。 結婚してのち、時に焼きそばを作って子どもに喜ばれたり、イカをさばいたり毛ガニをほぐしたり…。好みは偏るが、味噌汁は今では私の"担当"というぐらい、 「一家に主婦は二人も要らない」と迷言を吐いたカミサンに仕込まれてしまった。
 おかげで、中高生だった長男は、カミサンが家にいるのに、私に向って「めしッ」という。 私は「お前のメシ使いではない!」と反論する前に、もう体が動いている始末。
 ところで、ご飯を炊くとき、目分量でカップの水を加えるだけ。味噌汁はありあわせの具を使い、味噌も二、三種を合わせる。 これも手加減、というかいい加減であるが、いずれもそれほどひどい出来栄えにはならないから不思議だ。
 しかし、私は万能ではない?! 近ごろ夏の昼に、メン類を作るのもいつしか私の仕事になっているらしいが、 食するほうは好みがあり、今日はそうめん、明日は冷や麦と注文を出す。ところが、私はだれがどちらの好みか、 どちらが冷や麦かそうめんか、何年やっても袋をじっと見なければ分からない。
 どれぐらい、"仕事"に身が入っていないかといえば、カミサンにキャベツとたまねぎ、ほうれん草を買ってきてくれといわれれば、 キャベツを白菜と間違えることもしばしば、要するに頭が悪いのだ。
 しかし、納豆に入れる薬味、ネギを細かく刻むのは私がいちばんうまいのである。人生何か特技でもなくっちゃ?!
 そのネギを一度にたっぷり使って、しょっちゅう私を働かせる、いま大学生の長男は八方だしを作るにあたり、 カミサンに言われてカツオ節を削るようになったのは3年ほど前からか。うーん、男は家事の手伝いをやっておれば、 ひとりでも食うに困らない…。そこで、思い出したのはカミサンの迷言その2「(家事で必要とされず)離婚される〜」でした。
 《蛇足:そうめん・冷や麦・うどんの区別は『またまたサザエさんをさがして』朝日新聞社2007・11にある。 私に区別がつかなかったのは、めん類業者の都合を知らなかったからである?!》

(以上、08年1月29日までの執筆)


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