相手が若い後輩であったり、同僚であったり、あるいは恩師の子息であるとか、
また贈る場面もさまざまであろうと思います。
しかし、まだあまり自信のない方は、手始めに元旦とか、自分や子供の誕生日や何かの記念日に、
思いついたこと―あなた独自の言葉―を色紙に書いてみることです。
次に、実際に家族や親兄弟に贈ることからやってみましょう。
還暦の祝いとか、結婚○周年記念、子供の成長に合わせてなど、意外に書く機会はあるものです。
ある元旦、八十二才の誕生日を迎える祖母のお祝いに孫三人が急に行くことになり、
私がとっさに書いて持たせたのは次のような言葉です。
「まごうかたなき かつての美人/孫三人でも/まごつかずに/いつまでも お元気で」
◎苦労するほど、よいものができる
言葉や文句を考えるときに、すぐに相手の氏名(表記、字数)とイメージが固定した場合は、
比較的早くでき上がるものです。
しかし、多くは既存の言葉とうまく合致したからで、それだけに制約を受け、平凡な印象のものになりがちです。
たとえば「北哲哉」(五字)さんならば、「喜多」とか「来た」、「徹夜」「鉄や」という言葉が浮かぶように。
むしろ、そうでない場合に苦労はしますが、結果的に面白いものができるものです。
まず、名前をひらがなで横書きにする、五行ぐらいで収まらないとき(「橋本健午」・七字)は、
漢字で書いてみましょう。
短い場合でも、適切な言葉が浮かばないとか、うまく語呂合わせができない場合は、
{その二}の"みちのく"のように、オシリに持ってくるのも一つの方法なのです。
◎どの時点で書けばよいか
ところで、贈る相手に関する言葉がさまざまに浮かび、下書きを修正する必要もない。
日にちはまだ先だが、さっそく書いてみようと思う状況だとしましょう。
でも、すぐには色紙に書かないことです。言葉の調子がよいからといって、相手を喜ばすとは限らないからです。
美しい表現だと己惚れたり、傑作だと思ったときほど、慎重に対処することが求められます。
おめでたいとき、激励する場合などは、贈られた相手も機嫌がよくウレシイことでしょう。
しかし、お別れや慰める場合など、そのときは"真実"でも、時間とともに人の感情は変化するものです。
結婚式の"忌み言葉"ではありませんが、普遍性のない言葉など、避けたほうがよい表現や言葉があり、
書くまでに細心の注意を払うことが必要です。
主人公(贈る相手)が舞い上がっているからといって、軽い冗談のつもりでも、書いたものは後に残ります。
相手が冷静になってそれを見たとき、これまでの友情にヒビが入るなどというおそれもあります。
贈るのは善意から発した行為ですが、「名入れ色紙」は一方的な贈物でもあります。 また、ダジャレや語呂合わせを活用する、その根底にあるものはユーモア精神です。 "揶揄"する場合でも、相手を傷つけることが目的ではありません。 さらに、第三者にも歓迎される内容を心がけましょう。 言葉が確定していても、色紙に書くのは慎重に、推敲を重ね、贈る前日まで我慢することです。
[コラム]筆・墨・硯・文鎮
趣味が高じて、本格的に筆を持とう、もっと奥を極めようという方は、書道専門店にどうぞ。
筆は長さ・太さ・性質で使い分けるが、一般に大筆・中筆・小筆の別があり、今は柔らかい羊毛が好まれるという。
墨には唐墨と和墨があるが、稽古には簡便な墨液や墨滴でもよい。
硯は国産もあるが、端渓硯など中国産がよいという。
最後に文鎮―石や鉄製などがあり、書道には欠かせない道具だが、色紙には不要である。